兎に初恋

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うさ @usa_kororin

今夜みんなで酒飲みをする事が決まった。酒は兵舎にある。あとは適当なつまみなどを街で調達するのみ。そこで買い出しの押し付け合いが始まった。のほほんと日和見を決めていた宇佐に皆の視線が集まる。「お前が一番食うんだ。行ってこい。」

2017-02-28 09:29:07
うさ @usa_kororin

@usa_kororin ええ~、っと抗議の声をあげるがこの決定は覆らないようなので早々に諦めて身支度をする。あまり好きではないが帽子も一応かぶる。「行ってきます。」 街の大通りへと出てぱぱっとつまみになりそうなものを適当にひっつかんでは会計を済ませていく。増えていく荷物が重い。

2017-02-28 09:40:29
うさ @usa_kororin

@usa_kororin まあ、このくらいあれば満足できるだろう。と宇佐の腹を基準に考えられたそれは、両腕いっぱいにあふれていた。「誰か一緒に来てくれてもよかったのに…。」と恨み言ばかりが出てくる。大通りを抜けて少し閑静な道に差し掛かった時、「もし。」後ろから声をかけられた。

2017-02-28 11:43:09
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 閑静な道とはいえ人はまばらにいたので、自分に声をかけられたのだと理解するのに少し間が開いた。「どうかされましたか?」軍服を着ている自分の行動一つが師団全体のイメージにつながることもあることは承知しているため振り返りざまに笑顔を作り好印象を与える。

2017-02-28 11:52:00
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 「あ、やっぱりあなた宇佐ちゃんでしょう?!」宇佐を呼び止めた女性はどうやら自分のことを知っているらしいということはわかった。「確かにボクは宇佐ですけれど…。あの、どこかでお会いしましたか?」

2017-02-28 12:52:35
うさ @usa_kororin

@usa_kororin そこまで言ってはたと気付く。自分を宇佐ちゃん、と呼ぶ女の人なんて今までにあの子しかいない。「もしかして、たえちゃん?」宇佐がそう言うと女性はぱぁっと眩しいばかりの笑顔を浮かべた。「そう!覚えててくれたのね?嬉しい……。」

2017-02-28 13:07:11
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 忘れるはずもない。いつも一人でいた自分に話しかけてくれていた子だ。そう素直に伝えると彼女はさらに喜び、宇佐との距離を詰めるようにして身を乗り出してくる。喜んでくれるのは結構だったがいかんせん距離が近い。少し後ずさりをする。

2017-02-28 13:14:47
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 話が長くなりそうだと感じ取った宇佐は「とりあえず座ろうか?」と都合よく近くにあった茶屋を指差した。どさり、荷物を置く。久々に開放された両腕を労うようにさする。お茶と菓子が運ばれてきて、それに彼女は律儀に手を合わせた。「ふふ、宇佐ちゃん変わったわね。」

2017-02-28 13:21:59
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 変わった。確かに昔の自分とは似ても似つかないほど変わった。

2017-02-28 13:24:05
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 「そうだね。…でも、たえちゃんは変わらないね?」はきはきとしゃべる彼女を見ていると本当に昔と変わらない印象を受ける。「そうかしら?」と肩をすくめて笑う。彼女の周りだけ何かが光っているのではないかと思うほどだった。

2017-02-28 13:38:31
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 「今だから言うけど、私ね…宇佐ちゃんのこと好きだったの。初恋よ?」突然の告白にちょうど口に含んだお茶を吹き出しそうになるが、とどまる。ぎょっとした顔で彼女を見つめると「やっぱり気が付いてなかったのね?」と笑われた。

2017-02-28 14:17:28
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 「そりゃ…気が付かないよ。だってボク…」「わかってる。別に責めてるわけじゃないの。…でも兵隊さんになってかっこよくなった宇佐ちゃんを見て伝えたくなっただけだから。」初恋だったと言われて少し胸が苦しくなる。自分は彼女の初恋を無意識のうちに無碍にしたのだ。

2017-02-28 14:21:31
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 宇佐自身も霰に初恋をして、やっとの思いで思いを通じ合わせたばかりだったからなおさら辛く感じた。でも、そっと言葉をこぼした彼女の顔にもう一度向き直る。「でも、宇佐ちゃんにまだお嫁さんがいないなら…もらってほしいな?」顔を真っ赤にさせた彼女が言う。

2017-02-28 14:26:14
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 「ボクはだめ。」「…どうして?」「恋人が、いるから。」「そっか…。ごめんなさいね、わたし」…泣くことはなかったが、ひどく悲しい顔をさせてしまった。そのあとはどちらも無言で残りの菓子を頬張り、別れ際に「お幸せにね?」といって彼女は去って行った。

2017-02-28 15:51:06
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 宇佐は何も言えずに彼女の後姿をぼんやりと眺めた。角を曲がり見えなくなる。宇佐は帽子を深くかぶり、荷物を抱えなおして兵舎へと戻った。 その後、彼女と再び出会うことはなかった。 おわり。

2017-02-28 16:09:29