「蓮子が死んだから始まるSS」補足
元凶のまとめ
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凡用人型兵器
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宇佐見蓮子が死んだのはなぜか、医者や彼女の両親らがどれだけ調べても分からなかったけど、ただ一人私だけは知っている。なぜなら私が殺したからだ。彼女の瞳に宿る力が失われた時、宇佐見蓮子は自らの座標を特定できなくなって自我を世界中に拡散させた。散らばった蓮子を集めるのが今の私の使命だ。
2013-01-01 22:44:34![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
例えばこうだ――私は卯酉東海道に乗って東京へ向かう。かつて蓮子と共に乗った、同じ時刻の同じ座席だ。あの時話したこと、感じたこと、思ったことをつらつらと考えていると、ふと隣に何かが寄り添っているような感覚を覚える。それが蓮子だ。蓮子のかけらだ。少なくとも私はそう思っている。
2013-01-01 23:02:40![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
もちろんこんなことは誰にも言えたものではない。理解してもらえるとは思えないし、理解してもらおうとも思わない。しかし私は蓮子を集めなくてはならない。なぜなら私が蓮子を殺してしまったのだから。夢と現の境界は越えてはならない。結界を暴いてはいけない。安易にタブーを犯した私への罰なのだ。
2013-01-01 23:06:15![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
私はその日、博麗神社へと足を向けた。ここも、かつて私と蓮子の二人で訪れた場所だ。だいぶ蓮子も集まったように思う。といっても、そもそもどれだけ集めれば蓮子が完成するのか私には分からないのだけれど。でもなんとなく、もうすぐだと思うのだ。蓮子がいたなら何の根拠もないと笑うかもしれない。
2013-01-01 23:10:32![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
私はいつものように、ここでの蓮子との思い出を頭に浮かべようとした。しかし、おかしい。ここで何が起きたのか思い出すことが出来ない。そんなはずはなかった。ここに来るまでの道中、そして帰り道の事は鮮明に思い出せる。だけど博麗神社で何が起きたのか、私と蓮子が何を話したのか、思い出せない。
2013-01-01 23:15:53![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
頭蓋が歪む感覚があった。誰かの干渉を受けている? まさか。一体誰が何のために? 私は頭を抑えながら荒れ果てた境内を見回す。私の頭痛に呼応するように、めりめりと世界がひび割れてゆく。ここに、ここになにがあるというの。私をどうしようというの。蓮子はここにいるの?
2013-01-01 23:21:10![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
蓮子、蓮子。どこにいるの。目の前の境界から誰かが覗いているような気がしたので、私は手を突き入れた。泥のような海のような、何かがあるようなないような、不思議な感覚だった。私がその中をまさぐると、不意に何か形のあるものに触れる。それは手であるように思った。蓮子の手だ、と私は直感した。
2013-01-01 23:24:12![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
私が蓮子の手を握ると、蓮子は握り返してきた。私は嬉しくなった。蓮子はそのまま、私を引っ張り込もうとする。私はそれもいいかと思った。蓮子がそれを望むのならば。ずるずると、私と私の持つ宇佐見蓮子が引き込まれてゆくのが分かる。だが、大方私が飲み込まれかけたそのとき「午前2時24分」
2013-01-01 23:28:12![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
ばしん、とまるで背中に氷の塊を入れられたように、私の意識はクリアになる。蓮子は消えていた。境界も消えていた。一つもなかった。なぜか、私はもう境界を見ることが出来ないのではないか、と思った。誰もいない荒れ果てた神社で星だけは綺麗だった。もちろん、時刻と座標を教えてくれる友はいない。
2013-01-01 23:30:28![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
◆「ご苦労様だったわね。時間と空間を認識する能力。境界を認識する能力。私は二つを手に入れた。これできっと、次の巫女はいまだかつてない素晴らしいものになるでしょう。……ただ、そうね、彼女を引き込めなかったのは……そう、彼女の最後の抵抗かしら。きかん気の強い巫女になりそうだわ」◆
2013-01-01 23:34:44![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
私は日常生活に戻った。レポートや課題は次から次へと押し寄せてくるし、こなしているだけで日々はどんどん過ぎてゆく。いまや蓮子の死について話題に出すものはいない。周囲も、私もようやく立ち直ったかと思っているのだろう。ある意味そうとも言える。私の瞳の力は失われた。いまやただの人だ。
2013-01-01 23:37:23かわうそ
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宇佐見蓮子が死んだ。正確に言うと、今日、宇佐見蓮子が死んだということが、法律上決まった。私、マエリベリー・ハーンが宇佐見蓮子の姿を最後に見たのは今から7年と少し前。秋の木枯らしと共に、宇佐見蓮子は私の前から居なくなった。失踪から7年が経過した。所謂、法律上の死亡認定ということだ。
2013-01-01 22:37:08![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
科学世紀の昨今、国民のほぼ全ては成人と共にICタグの埋め込みが義務づけられており、蓮子もその例外ではない。世界中どこにいてもGPSによりその所在は捉えられており、失踪者などはお話の中の出来事でしかあり得ない。無論個人情報保護の観点から誰でも見られるものではないが。
2013-01-01 22:45:59![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
本来であればGPSのログを辿れば直ぐに見つかるはずだった。しかし何度トレースをかけても、ログは蓮子が自宅で、なんの前触れもなく、突然そこから居なくなったことを示すばかりで、その先の証跡は一向に見つからなかった。そんなはずは無い、こんな事はあり得ない。だが現実に起きていた。 #便乗
2013-01-01 23:09:59![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
それは警察組織にとって挑戦状とも言える事象だった。絶対に認めてはいけない出来事だった。威信を賭けての懸命の捜索活動が行われた。昔に帰った、アナログな操作方法すらとられた。7年間、一日も休まず捜索は行われた。しかし宇佐見蓮子を見つけることはついに敵わず、そして蓮子は死んだ。 #便乗
2013-01-01 23:14:15![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
蓮子は死んだ。誰にも看取られず、遺体すらなく、社会的に死を迎えた。この死は様々な法制度に影響を及ぼすだろう。死後、彼女の名前は事例として一人歩きすることになるだろうが、彼女にはもうなんの関係もない。宇佐見蓮子は紛れもなく死んだのだから。 #便乗
2013-01-01 23:17:11![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
宇佐見蓮子は東京の実家に埋葬されるという。今時珍しい、先祖代々の由緒正しい石造りの墓だという。本来なら小さな壺に骨を収めて埋葬するのが作法らしいが、遺体が無いために壺は空になるという。そこに蓮子は居ない。蓮子は何処にも居ない。けれども、私は蓮子の居場所を知っている。 #便乗
2013-01-01 23:22:48![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ただいま」私は一日の仕事で疲れた体を引きずり、玄関をくぐり抜ける。手探りで電灯のスイッチを入れて、明かりのともった部屋が目に入ると、今日一日の終わりを感じて溜息を一つ吐いた。鞄を置いて流しに駆け込み、蛇口を捻り手酌で冷たい水を口に運ぶ。体が少しだけ軽くなった気がした。 #便乗
2013-01-01 23:28:41