稲川淳二の『つぶやき怪談』(2017.02.28)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それは、ある晩の事なんですが、 Ｙさんの一家の団欒のときにね、 隣でもって、何かヒステリックな女の声がして、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

おやっと思ったら、ドーンと壁にモノがぶつかる音がした。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（何をやってんだろうな）と思ったら、 「バシッバシッ」っと、 モノを叩くような音がした途端に、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ごめんなさい、ごめんなさい」って、 幼い男の子が泣きながら許しを乞う声がした。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（あー、何か悪さして、お仕置きされてんな）と思った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ところが、これが結構、長いんで、Ｙさんは、 （随分と長く怒ってるなぁ。ちょっとやり過ぎじゃないかなぁ） って思ったんですね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

でね、これ１回で終わらなかったんですね。 始終、そんなことが聞こえてくるんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（どうやら、こりゃあ教育じゃなくて、虐待なんじゃないかな） Ｙさん、そう思うようになったんですね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ところで、Ｙさんという家があって隣の一家がある。 で、これまた向こう隣の家、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ｙさんの家の二軒先になる、 この家の奥さんが、Ｙさんの奥さんに、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「時々なんだけどねぇ、 壁にぶつかる音がしたり、叩かれる音が聞こえてくるのよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その度に、あの小さな男の子が、 『ごめんよー、痛いよーごめんよー』って

稲川淳二 @Junji_Inagawa

やってる姿を、もう想像するだけで、可哀相で、辛いわよね」 って言ってたって言うんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

どうも、聞いてみると、 たまに、隣のご主人が、怒鳴ることもあるんですが、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ほとんどいつも、 ヒステリックな声あげて、子供叩いたり壁にぶつけたりしてるのは、 どうも、母親らしい人なんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

なぜなんだろう？　 実の親子じゃないのかな？

稲川淳二 @Junji_Inagawa

何か、違うような訳でもあるのかな？　 この子が邪魔なのかな？

稲川淳二 @Junji_Inagawa

いろいろ、理由が思いつくんですが、 とりあえずは、もう憎くて憎くて、たまらないという、 そういう感じにしかとれないんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

この家の子供ふたり、 幼稚園・小学校から帰ってくると、後はほとんど外に出ない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

だから、この男の子にとってみれば、 地獄の中に、いるようなもんですよね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

下の妹の方は、叩かれたりしないらしいんですけどね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

たまに、何かでもって、フッとその男の子に会うと、 とても悪さをするような、子供には見えないんだって、大人しくてね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そんな時に、Ｙさんがね、 ニコッて笑って、優しい言葉かけるんだそうですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そうすると男の子が「ウン」って頷くんだそうですよ。 Ｙさん、可哀相になぁーと思ってた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ある時、Ｙさんが家に帰ってきたらね、 隣の家の前の通路に、男の子のランドセルが落っこちてる。