星のない夜

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トト@TYA中邪 @glnewto

(前夜分) 『ホタル』 夜の街は窓を閉め切り、外に張られたテントでは篝火が煌々と。 民は静かに祈る。戦士は刃を研ぐ。 空は黒すらも鮮やかに纏う。 「……貴様も加わっていたのか」 星の瞬きを見上げていた時、大柄な杖の魔法師に声を掛けられた。 彼の意志を、継ぐ意向のある人。

2017-03-04 22:06:26
トト@TYA中邪 @glnewto

「奇遇ですね」 「そうか? よくある話だ」 同じように星を見上げ、彼は眉間に皺を寄せる。 「……全く読めない」 「星詠みの心得もおありなのですか?」 「暇潰しだ」 ふん、と小さく鼻を鳴らす様を薄く笑う。 「……私もです」と肯定する。

2017-03-04 22:09:07
トト@TYA中邪 @glnewto

星の事ではない。突然召集された大々的な作戦とその理由。 深奥に何かを隠している。 けれどそれが、一切わからない不気味さ。 「……様子を探ろうと赴きましたが……私は、別口を当たってみようと思います」 今朝方の領主殿の眼。 何か大きな画を抱えたような気配が気に掛かっていた。

2017-03-04 22:10:10
トト@TYA中邪 @glnewto

彼が此方を向き、視線を寄越す。 「参考までに聞きたい。何を疑っている」 あまりにも真っ直ぐな声だった。 「各国盟主の現状について。それと、中立という立場でありながら此度の作戦へ大々的な兵力を集めた方についても」 視線を、星から領主官邸へ移す。 彼は眼を伏せて顔を曇らせた。

2017-03-04 22:10:56
トト@TYA中邪 @glnewto

「……大凡似たような見解か」 彼が何を知っているのかはわからない。 が、思うところありという事なのだろう。 きっと私より苦い思いをしている。 彼の忠義心は、一、二度話した程度でも想像に難くない。

2017-03-04 22:11:46
トト@TYA中邪 @glnewto

直接的に仕える間柄でなくとも、自分の上層に当たる人間を疑わなければならない状況は 傭兵と比にならない苦痛だろう。 「だが……それならまた、ここで別れだ。私は指示に従う」 どなたの、と、尋ねようとしてやめた。 恐らく彼は彼のやり方で、犠牲を減らそうと考えているのだ。

2017-03-04 22:12:45
トト@TYA中邪 @glnewto

「でしたら、私としては安心です。背後を気にかけなくて済みます」 深く考えずに吐いた台詞を、彼は生真面目に受け取ったらしい。 「愚に走るなよ」 やや怒気のこもった声に虚を衝かれた。 愚……愚行か。どうだろう。 この思いは、この行いは、この意志は、果たして愚や否や。

2017-03-04 22:13:34
トト@TYA中邪 @glnewto

応えるものなどいない。 「心掛けます」 未練がないわけでもないが、それは、叶えばさらにその先を望みかねない。 捨て置いて走るほうが賢明に思える。 何より、ここで一つ夢に手が掛かるなら、惜しいものはない。 彼が望み、私が望むものに近付くと言うのなら。

2017-03-04 22:14:17
トト@TYA中邪 @glnewto

「……そちらの事も。よろしく、お願い致します」 深々と頭を下げると、溜息が聞こえた。 「宜しく頼むなら名前くらい置いていけ。……イラだ」 彼の名前だと理解するのに少し掛かった。 ……其方も其方で、不器用な人。

2017-03-04 22:17:10
トト@TYA中邪 @glnewto

「グラニューンです。……ご武運を、イラ殿」 挨拶一つ、其処を立ち去る。 何者にでも、なれるものなら。 そのようになろうと黙して決めた。

2017-03-04 22:17:27