ザイバツ・シャドーギルド #4

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ルツィエと出会ったのは三ヶ月前のことで、そのとき彼は一介の冒険魔術師に過ぎなかった。彼はニンジャで、その点、一般的な魔術師連中よりも相当なアドバンテージがあった。長いスペル・チャントや没薬の助けを借りずとも、マンデルブロの世界に触れることが容易い……ある意味では。 1

2017-03-05 21:33:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

太古の昔より、エレメンタルの世界は物質界と重なり合って存在し、人はしばしば、そこに満ちるエテルを汲み出すことで神秘の力を得てきた。ニンジャのジツも然りだ。既にそれを経験的に知っている彼は、それゆえ魔術師の聖地たるデジ・プラーグにもさして執着はなく、ほんの物見遊山のつもりだった。2

2017-03-05 21:38:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

しかし、恋とは瞬間的に燃えるものだ。ルツィエはルビーのような女だった。宝石めいて硬く、冷たく、発する色は激しかった。ゆえに彼はデジ・プラーグで旅券を破り捨て、己の詩情と機知の全てをかけた戦いを始めた。彼女が「無限遠」における最重鎮のウィッチであると知れても、彼はひるまなかった。3

2017-03-05 21:42:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「無限遠」はハッカー・カルトの一種で、ジプシー・ウィッチの実力者が徐々に集まり、形成されていった団体だ。流浪の末に彼らはこのデジ・プラーグに入り込んだ。排他的な各魔術ギルドは当然「無限遠」を敵視したが、彼らは断絶したギルド同士の緩衝材役を買って出、短期間で居場所を築いた。4

2017-03-05 21:48:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

然り。魔術ギルドの三巨頭、「金の牡鹿」「年輪」「空の手」、そのどれもが、互いに睨み合いながら、等しく「無限遠」と握手をかわした。ウィッチ……別の言葉で称するならば、コードロジスト……の提供する「デジ・プラーグ2」は、神秘に接続する手段として、無視できぬ魔術的インフラだったのだ。5

2017-03-05 21:54:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

風が吹き過ぎると、そこは「火薬塔」の屋上部だ。彼はかしこまって手を差し出し、口の端を歪めてウインクした。ルツィエは冷たいルビーの目で彼を見た。根負けして、くすりと笑った。「そうだろう?踊らぬ手はあるまいて」彼は手を取り、踊り出した。デジ・プラーグの夜景は金を溶かす炉のようだ。 6

2017-03-05 22:01:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あまりに美しい。御身には見慣れた景色かも知れぬが……」「そんな事はない」ルツィエは微笑んだ。「結局、私も他所者だもの」「さらってきた甲斐があった」「そのようね」「いつでも連れ出しに参る」「便利なタクシーね」「然り、御身の尊さを褒め称えるサービスもつく」流星群が斜めに閃いた。 7

2017-03-05 22:12:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

三ヶ月は瞬きにひとしく、美しい日々であれば、なおさらだ。「無限遠」を侵食した邪悪は、火のような速度を持っていた。当初は騎士めいて颯爽と現れ、必要とされる資金を供出し、損失を肩代わりし、誰も正確にはその罠を知らぬ間に、身動きのできぬよう絡め取る。あの決定的な夜、彼は窓の外にいた。8

2017-03-05 22:19:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「承服できない。そのような決定は聞いていない」「手続きは経ていますよ」邪悪は椅子から立たず、ただ脚を組み替えて、ルツィエと近しい者達を見上げた。黄金の小道のその邸宅は「無限遠」の所有だったが、さも主人が客をもてなすように、彼はルツィエらに椅子を勧めた。それがエゾテリスムだった。9

2017-03-05 22:23:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「殺すか」ルツィエの傍らのニンジャが端的に確認した。ルツィエの護衛四人のうち、一人がニンジャだった。黄金の道にはニンジャの魔術師も何人かおり、彼らと渡り合う為にカラテの武力は必要だ。あのニンジャの名は何だったか……ブリストル……ブリーシンガメン……忘れた。誰であろうと同じだ。10

2017-03-05 22:31:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「面白い!ウィッチ式の交渉とはそれですか。野蛮ですな」エゾテリスムは椅子から立たずに手を叩いた。「ご覧の通り、私は一人です。どうぞ殺してご覧なさい」「……」ルツィエは口を開きかけたが、護衛ニンジャの攻撃は素早かった。「イヤーッ!」エゾテリスムは片手を掲げた。 11

2017-03-05 22:33:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ルツィエは息を呑んだ。エゾテリスムはチョップを片手で受け止めた。「然り。私もニンジャです」エゾテリスムは眉ひとつ動かさずに言った。そして護衛の者らが膝から崩れ、うつ伏せに突っ伏した。彼らの身体から黒い霧が湧き出し、エゾテリスムの身体に吸い込まれたようだった。 12

2017-03-05 22:38:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そしてこれはジツです。サクリファイス・ジツ。命を糧に、より強い……」エゾテリスムが腕に力を込めると、ニンジャは弾かれ、天井に叩きつけられた。天井でニンジャがもがいた。「より強い効果が。このように」エゾテリスムは指を鳴らした。ニンジャは膨れ上がり、爆発四散した。「サヨナラ!」13

2017-03-05 22:40:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ルツィエが後ずさった。顔面蒼白。エゾテリスムはようやく椅子から立ち上がり、踏み出す。一歩。二歩。……何を傍観している?突入しろ。愛する女の危機だ。窓の外、彼は己に言い聞かせる。窓を蹴破り、エントリーし、あのエゾテリスムとかいうニンジャにアイサツしろ。……しかし。14

2017-03-05 22:42:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ルツィエの視線が窓の外へ向き、思いがけず彼を捉えた。ルツィエは目配せした。助けるな。逃げろ。そう伝えたのだ。エゾテリスムはルツィエの手を掴んだ。「乱暴な真似はしません。私とてギリギリの駆け引きの線上にあるわけでして」ルツィエは再度、目線で伝えた。逃げろと。 15

2017-03-05 22:46:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は……唸り声すらあげられず……俯き……跳び降りた。然り、逃げたのだ。勝てるはずのない相手。策を練る。弱点を探す。いつか。いずれ。然り、誰がどう言おうと、愛する女を捨てて逃げたのだ。それまでの人生で彼がとってきた選択、いつものやり方だ。なにも驚く事はない。なぜ涙が出る? 16

2017-03-05 22:50:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

風が吹き抜け、カーテンを揺らし、テーブルが倒れて砂糖壺の中身が床に溢れた。「これはしたり!」黒ずくめのニンジャは旅人帽を押さえた。ニンジャスレイヤーとコトブキは室内を見渡した。「……民家?」コトブキが呟いた。ニンジャが目を丸くした。「おや、吐き気はないかね?流石よ」18

2017-03-05 22:56:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そういう酔いはしない仕組みですね」コトブキが頷いた。ニンジャスレイヤーは何か言おうとした。黒ずくめのニンジャはズカズカと近づく。「ここの家主には心苦しいが、さあ、次のジャンプだ」風が三人を取り囲んだ。 19

2017-03-05 22:58:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

次の出現地点は赤紫の屋根の1メートル上空だった。「これは、これはしたり!」ニンジャが旅人帽を押さえた。斜めの屋根でコトブキがたたらを踏んだ。ニンジャスレイヤーは何か言おうとした。ニンジャはズカズカと近づく。「誰かに見られたら面倒だ。さあ、次のジャンプだ」風が三人を取り囲んだ。20

2017-03-05 23:03:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

次の出現地点は甲板の上だった。気楽な船上パーティーの真っ最中だ。風が吹き抜け、ワイングラスが吹き飛び、悲鳴が上がった。「まあ!」コトブキはグラスのひとつを反射的に掴んだ。ニンジャスレイヤーが何か言うより早く、旅人帽を押さえたニンジャがズカズカと近づく。風が三人を取り囲んだ。 21

2017-03-05 23:09:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

次の出現地点はどこかのUNIX個室だった。三人はドスンと音を立てて着地した。「いや、大丈夫だとも!見られるより早かった!なにしろそれがニンジャの抜け目なさであるからして」ニンジャはコトブキからワイングラスを受け取ると、溢れずにいたワインをぐいと呷った。「まずはここが目的地よ」22

2017-03-05 23:12:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コトブキはタタミ6枚ほどの狭い室内を見渡した。机にはUNIXデッキ。複数のサイバーゴーグルが壁にかかっている。ニンジャスレイヤーは無言で黒ずくめのニンジャをじっと見た。「……なんだね?ン?……ああ、これはシツレイをば。ドーモ。コルヴェットです」彼はせわしなくアイサツした。 23

2017-03-05 23:17:16