おたまは輪花を発見した。今の彼女はおたまの知る姿からは全くかけ離れていた。全身を禍々しいエーテルの渦で覆い、そこから緑色のエーテル触手が何本ものたうっている。「うふ、うふふふ……うふふふふふ……」輪花は両脚を抱いて座り、静かに、不気味に笑う。21
2017-03-21 20:48:44「輪花……お前……?」たった一日で何があったというのか?おたまはその変わり果てた姿に唖然とする。「ああ……おたまさん?」輪花はおたまに気付き、独り言のような声で語り始めた。「私、私ね。今すごいいい気分なの。もうね、とっても晴れやかなの」輪花は歯を見せて笑う。22
2017-03-21 20:53:29「私、ずっと我慢してたんだ。皆私の事、ルートだってだけで、淫売だとかって言ってさ。私を押し倒してさ、それでさ、ああ、ああ!」輪花の周りのエーテル渦が激しさを増す。「なんでよ!ルートであるだけでなんでなのよ!なんで犯されなきゃいけないの!」輪花は叫ぶ。エーテルの触手が暴れる。23
2017-03-21 20:57:04触手はおたまのすぐ真横を通過し、後ろの木々をなぎ倒す。おたまは微動だにしない。「だから私おたまさんの道場に通うことにしたの。メイジになればこんな思いしなくて済むって。でも、ちっとも良くならない。確かにあそこはいい所だけど、私の人生を良くしてくれない。助けてくれない!」24
2017-03-21 21:00:11「でも昨日、ブレイスって人が私を変えてくれたの。私にこんな力を授けてくれたの。それで今日、皆、皆、みんなみんなみんな殺したわ。これで私は幸せ。今は力もある。私を犯すバカも死んだ。うふふふふ、私は幸せ……」「……バカ野郎」「……え?」25
2017-03-21 21:03:29おたまの顔は怒りに満ちていた。その怒りは輪花の苦痛に気付かなかった自分へか。道を誤った弟子に対してか。とにかくおたまは怒った。そして呟くように言った。「輪花……ごめんね。お前がこんなに苦しんでたなんて、悲鳴を上げてたなんて……。でも……」26
2017-03-21 21:12:33急におたまの全身から緋色のエーテルオーラが噴出し、赤い瞳が燃え上がった。「今のお前はもう輪花じゃない。お前は呪われた悪魔だ。お前は悪魔に魂を売ったんだよ。その力はお前自身の物じゃない。悪魔、『デーヴァ』がばら撒く紛い物のエーテル。お前は魂まで穢されたんだ」27
2017-03-21 21:16:39「何を言ってるのおたまさん? 私のこの姿が嬉しくないの? 私が呪われてる? 何を言ってるの? おかしいよ? おかしいよ?」「バカ野郎!」オタマは大音声で叫んだ。「本当に大バカだお前は! 何で『デーヴァ』になっちまうんだクソッ!」28
2017-03-21 21:21:59「輪花。デーヴァになった人間を戻す方法は無い。デーヴァは、殺さなきゃいけない。ごめんね、輪花。お前の苦しみに気付けなくて……」おたまは苦悶の表情をしながらマジックアーツの構えを取る。緋色のエーテルオーラが一気に引き、おたまの体内に戻っていった。完全なる戦闘態勢への移行だ。29
2017-03-21 21:26:59「何、何よ。何勝手なこと言ってるのおたまさん。私を、殺す?私を、なんで?なんで?なんで?私が何になったって言うの? おかしいよおたまさん。おかしいよッ!」輪花はおたまに向かい殺人的速度で触手を襲わせる! しかしおたまそれを片手で弾いた! 何たるパワーか! 30
2017-03-21 21:30:41「ああああああッ!」輪花続けてもう一つの触手を放つ!おたまそれをしゃがみ回避し同時に緋色魔法弾を発射!魔弾は高速で輪花のエーテル渦に衝突!激しい爆発を起こし、渦が弾け飛ぶ!「えっ?」輪花驚きの声が漏れる。絶対防御と思われた輪花のエーテルバリアが一撃で砕かれたのだ! 31
2017-03-21 21:36:15「輪花、お前が貰った力はその程度なのよ。真のメイジには遠く及ばない。自我が伴わない魔法に力は宿らないのよ」おたまはゆっくり輪花に向かい歩き出す。「こ、来ないで!来るな!」輪花は触手をおたまに巻きつかせ、圧殺しようとする!だがおたまは一切動じる事がない。32
2017-03-21 21:39:52「むんッ」おたまは両手に力を込める。ほんの一瞬のみ、おたまの華奢な両腕から鍛え抜かれた戦士の如く強靭な筋肉が露になる。そしてこの筋肉から発する力によって輪花のエーテル触手は無惨に砕かれる。「そんな、なんで?なんで?」輪花の顔に絶望が灯る。「来るな、来るな!来るなッ!」33
2017-03-21 21:43:57おたまは目を閉じた。その一瞬後、おたまは超高速で突進、右手を手刀の形にし、そこに緋色のエーテルを纏わせた。そしてその手を、輪花の心臓に突き刺した!「ばああッ!」輪花は白目を剥き、口から大量の血をごぼごぼと吐き出した。34
2017-03-21 21:46:48「眠れ」おたまは静かに呟き、右手から更にエーテルを放ち、心臓を通して輪花の全身にオタマの緋色エーテルを駆け巡らせた。「あ、あぁばっばっばあ……」輪花の口から緋色の息が放たれた。そして輪花はおたまに抱かれるように倒れこみ、動かなくなった。おたまは輪花の身体から右手を抜いた。35
2017-03-21 21:50:39「……輪花……くそ、何でこんな事にならなきゃならないんだ。クソッ!……くそ……」おたまは動かぬ輪花を抱き、涙を流した。輪花を救えない己の無力さに、そして輪花を歪ませたデーヴァへの憎しみに。36
2017-03-21 21:55:52