古着屋シリーズ

古着屋シリーズ七人分のまとめです。
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長編・シリーズ・オムニバス保管庫 @yukikotouyama

⑫逸る心を抑えて、静かな足取りでその前に立つ。“…迎えに来た”『すばる…』伸ばした手より先に、身体は彼の腕の中へ。“今度こそ、ずっと一緒や”あの日交わされた約束は今確かにここにある。“卒業おめでとう”そっと触れた唇。繋がれた手は二度と離れまいと誓う様に固く握られていた。

2015-02-08 21:57:05
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①“仕入れ行ってくる。留守番頼むわ”背中にかけられた声。『あれ?今日仕入れの日だっけ?』“急ぎで来てくれって連絡あったんや。閉店までには戻れると思うし、店には安ら居るから平気やろ”彼が顎で指した先には、先日お互いの想いが通じて付き合い始めた二人が仲良く仕事をこなしていた。

2015-02-08 22:01:37
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②『気を付けてね』つけていた帳簿から顔をあげて彼を見る。一度背中を向けた彼がこちらに歩み寄ったかと思うと、見上げた私の唇にキスを一つ落として出て行った。男性にしては小さい、それでも誰よりも大きく頼りになる背中。私の一番古い記憶から、その背中は私の隣にあった。

2015-02-08 22:01:45
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③いつでも私を救ったのは彼。両親を亡くして一人きりになった時、生きる気力を無くした私を暗闇の淵から引き揚げてくれた。遠く離れた場所に行った私を、彼が迎えに来てくれた日から今日で三年になる。彼はもう覚えていないかもしれない。でも、私には忘れられない日。

2015-02-08 22:01:55
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④あの日彼は私を引き取った親戚の家に行き、私を連れて帰ると告げた。正直私と上手く折り合いのついていなかった親戚は、責務から解放されたと安堵の息をついていた。そのまま必要最低限の荷物だけを纏めて、この街に帰って来た。“お帰り”『…っただいま』あの日あの場所で零れた涙。

2015-02-08 22:02:04
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⑤駅を出て連れてこられたのがこの店。元々古着が好きだった彼が、店を出すために必要な勉強を必死にして、やっと開店させた古着屋。古着の事なんてよくわからない私は、経理をこなしながら少しずつ勉強して覚えていった。決して裕福ではないが、幸せな満ち足りた日々。

2015-02-08 22:02:13
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⑥初めは二人で充分だった接客も、口コミで広まった評判に客足も増え、バイトを雇える余裕も出来て。開店資金にと借りていたお金も、数ヶ月前に全て払い終わった。忙しくも充実した毎日。それを彼と共に過ごせる事が、何よりも幸せで。《お店、もうそろそろ閉めてええですか?》

2015-02-08 22:02:22
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⑦急にかけられた安田君の声に、いつの間にこんな時間になっていたのかと驚いた。『ごめんなさい。お店任せっきりにしちゃって』《大丈夫ですよぉ。じゃあ閉めてきますね》ニッコリと笑った彼は閉店の準備に店に戻っていった。安田君達が帰るのを見届けシャッターを閉めた時、裏口の戸が開いた。

2015-02-08 22:02:32
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⑧“遅なってすまん”『お帰り』入って来たのは寒そうな顔をしたすばる。出かけた時薄着で出て行ったものだから、日が落ちて辺りが冷えてきた中にその服装では堪えたのだろう。慌てて彼の身体に上着をかけた。『めちゃくちゃ冷えてる。風邪引くといけないから、直ぐにお風呂沸かすね』

2015-02-08 22:02:41
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⑨急いで二階の住居にあがろうとするが、掴まれた腕にそれは叶わず。『すばる?』そのまま引き寄せられる身体。握られた左手に感じる違和感。『これ…』薬指に光る指輪。“なぁ、”見上げた彼の顔は優しく微笑んでいて。“昔っから、お前はいつも俺の隣に居ったな”頭を撫でる優しい手。

2015-02-08 22:02:50
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⑩“お前が居るから、俺はいつでも前に進めた”溢れ出す涙に視界が滲む。“あん時、俺言うたよな、俺が家族になる…って”頬を包む手のひら。“ホンマの家族になろ”強く抱きしめられた身体。“この先もずっと、俺の隣はお前しか考えられへんから”ここから刻んで行こう。いつか誓った永遠を二人で。

2015-02-08 22:03:00
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①先日私のバイト先の店長さんが、幼馴染みの彼女さんと籍を入れた。式は挙げないと聞いていたので、同じバイト仲間で彼氏の章ちゃんと二人で、章ちゃんの家を使っておめでとうパーティーを開いた。パーティーとは言っても本当にささやかなもので喜んでもらえるか心配ではあった。

2015-02-08 22:08:34
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②でも二人共嬉しそうにしてくれて、ほっとしたと同時に私まで幸せな気持ちになれた。片付けの時彼女さんがこれくらい手伝わせて欲しいと言ってくれて、申し訳無く思いながらも一緒に洗い物を済ませ、洗い終わった食器を片付けていた時だった。章ちゃんが店長のすばるさんと話している内容が聞こえた。

2015-02-08 22:08:57
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③どうやら章ちゃんは自分の店を持ちたいと考えている様で、その相談をしているみたいだった。バイトとしては後輩にあたる彼だが、年齢は私よりも上で。将来をしっかりと見据え実現に向けて歩み出した彼に、私も自分の将来の夢を思い描く。その夢を家族に話した時、兄が一番に応援してくれた。

2015-02-08 22:09:41
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④ただ、章ちゃんにはまだ打ち明けていない。最初すばるさんの店でバイトを始めた時、ファッションには全くと言って良い程興味がなかった。でもこのバイトを続けるうちにいつしか自分で服をデザインしてみたいと強く考える様になっていて。デザイナーになりたいわけではない。

2015-02-08 22:10:02
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⑤ただ自分がデザインした服を作って、小さな店でいいから売る事が出来たら…と思っていた。スタートは遅いのかもしれない。だけど今通っている大学を卒業したら本格的にデザインを学ぶ為、専門学校に進もうと考えている。自分の道を歩み出した章ちゃんに置いていかれない様に。

2015-02-08 22:10:20
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⑥胸を張って彼の隣を歩ける様に。私も自分の道をゆっくりでも良い、しっかりと前を見据えて進みたい、そう決めていた。すばるさん達が帰った後、時間も遅い為章ちゃんが家まで送ってくれる事になった。彼の事だから、時間が早くてもきっと送ってくれたのだけど。二人並んで夜道を歩く。

2015-02-08 22:11:04
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⑦お互い言葉は交わさなくても、月明かりに繋がれた手は十分に幸せで。“なあ、”不意に章ちゃんが口を開いた。“俺、自分の店…持つわ。直ぐに、とはいかへんやろけど、そう遠くない未来に”そう語る彼の横顔は、自信に満ちていて。“ずっと考えててん。いつか俺がリメイクも出来る店を持ちたいって”

2015-02-08 22:11:28
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⑧夢を語る彼の口元は、空に浮かぶ三日月の様に優しく弧を描く。“渋やんの店みたいに古着扱いながら、俺がリメイクもして…そんで店の一角にはお前がデザインした服置くねん”『え、』彼の零した言葉に驚く。『何で…』私の夢、彼に話した事はなかった筈で。

2015-02-08 22:11:49
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⑨“気づいててん、お前がデザインの勉強してる事。本気でその道進もうと決めた事も”私よりも少し高い位置にある彼の顔が、穏やかな笑みを留めたまま私に向けられる。“お前がデザインした服を俺とお前の店に並べて、俺はリメイクもして…それが俺の描く夢”ふわりと撫でられた頭。

2015-02-08 22:12:09
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⑩その手の感触を感じながらつい今彼から出てきた言葉の中の違和感を探す。『今…俺とお前の店、って』そう、確かに彼はそう言ったから。“俺とお前の店、そうやで?”『私、も?』“俺もまだまだこれからやし、お前も進学するんやろ?店持って直ぐになんて言えへんけど、”

2015-02-08 22:12:33
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⑪ずっと笑みを浮かべていた顔が真剣な表情に変わる。“いつかお前と結婚したい。二人で店やって、子供育てて、一緒に生きて行きたいねん”『章ちゃん…』“…アカン?”不安気な顔で聞き返すものだから。『アカンく…ない』慣れない言葉で涙に邪魔されながらも返事を返せば。

2015-02-08 22:12:52
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⑫“ふはっ、なんやねん、その返事”笑いを漏らした彼に抱きしめられた。でもその手が僅かに震えていて。“おおきに…約束やで?”肩口に乗せられた彼の口から出たのは小さな小さな声。その声に私も彼を抱きしめ返すと。夜空に笑う三日月の下、暫くの間お互いの温もりをただ静かに感じていた。

2015-02-08 22:13:15
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