亜里沙のことが大好きな雪穂　短編（６）「つなげたい想い」

亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

いつもの階段を登りきる。相変わらずきついといえばきついものの、それでも最初の頃を思えばずいぶんと余裕ができた。なんて、凛ちゃんに言ったら、成長を試してやるにゃーなんて言われて倒れるまで連れ回されそうだけど。凛ちゃんは相変わらず私から見れば異次元の体力だ。

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「頑張ってるね」 登ったあと、神社で亜里沙と二人でダンス練習。休憩中に、巫女姿の希さんに声をかけられた。 「ありがとうございます。希さんも朝からお仕事大変ですね」 「慣れてるから大丈夫よ。好きでやってることやからね」 「希さん、お話したいことがあるんですけど、大丈夫ですか？」

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「ええよ、今はそんなに忙しくないし」 「スノハレ、希さんの提案で作った歌だって聞きました」 「私、スノハレ大好きです！」 私の言葉に亜里沙が目を輝かせて続ける。私ももちろん、大好きだ。 でも、希さんは首を横に振った。 「あれは、みんなで作った歌や。うちは、わがまま言っただけ」

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「でも、そのこだわりの結果生まれた歌で、μ'sは東京大会を勝ち抜いた」 「そっか。ラブライブで歌う歌についての相談やね？」 「はい。さすがです」 いよいよラブライブの大会が近づいてきて、私たちも大きな決断をするときがやってきていた。スノハレのことを連想するのは、必然だった。

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「二人には、あの人気の曲もあるやん？　あれでいくって考えは？」 「それも考えたんですけど、でもあの曲だけでこれから二ヶ月戦いきれるかなあって」 「μ'sも新曲だったから、みんな新曲で来ると思うんです」 「うん、そうやろうね。うちも、新曲がいいと思うよ」 希さんははっきりと答えた。

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「あの歌は間違いなくいい歌やけど、一発勝負向けやないね。PVあってこその歌やし、固定ファン以外を一発で掴むには弱いかも」 おお。なんだかとてもプロっぽいお言葉。 「って、にこっちが言ってたんよ」 プロの言葉だった。 「にこさん、本当に応援してくれているんですね……嬉しいです」

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確かに、スノハレはまさしく、一回聞けばもう惚れ込んでしまう、インパクト絶大の歌だった。冬の大会に完全にマッチした演出もあって、これで優勝しなければ嘘だ、というほどの力強さがあった。一年近く経った今でも頻繁にカバーされている、スクールアイドルの代表曲というほどの扱いだ。

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「やっぱり、私たちにとってのスノハレが必要なんですよね」 「雪の歌なら、雪穂もいるし私たちにもハマると思うんです！」 「白くて雪が似合う亜里沙もいるし」 「えへ、ありがと雪穂！」 「うん、似合うと思うよ。でも、他の子たちも同じ考えの子は、多いやろうね」 ……確かに、それはそうだ。

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「それに、そんな簡単に抜いてもらう気はないなあ。うちらにとっても、あれは特別な歌のひとつやからね」 「いや、はい。スノハレに勝つ曲なんて、そんな気軽には言えませんよ」 「でも雪穂、それくらいの気合いは入れないと！」 「うん。目標としては、ね」 きっと、多くの子にとっての目標だ。

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「やっぱり、ちょっとライバル心あったりするものですか？　現役の子に」 「ライバル心、というのは違うかな。まだμ'sを過去のものにはさせんよ、っていう、未練みたいなものやね」 未練。 あって当然なんだと思うけど、μ'sのみんなからその言葉を聞くのは初めてで、びっくりしてしまった。

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「希さん、まだμ's続けたかったですか？」 亜里沙が真正面から切り込んだ。私のほうが緊張して息を呑んでしまう。 希さんは微笑みながら、首を横に降った。 「終わりにするのはみんなで決めたこと。悔いはないよ。あのタイミングが一番よかったと思う」 亜里沙の問いかけには、はっきりと否定。

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「でも」 希さんは、続けた。 「一番振り返ることが多いのも、もう一回みんなでなにかしたいなって一番思ってるのも、うちかもね。ごめんな、うちも雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんのことは応援してるんよ。けど、羨ましいなって気持ちもある」 言っちゃった。すっきりした。そう言って希さんは笑った。

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その日の夜、私は亜里沙からかかってきた電話を、少し緊張しながら受けた。 「お姉ちゃんも、希さんの言いたいことはわかるって。やりきって終わったから悔いはないし、戻りたいとも思わない、けど、みんながまだやってるのを見ると、いいなって思うって」 「そっか……そうかもね」

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あれ以上の輝きを得ることなんて、この先ないかもしれない。一生大切な思い出になるんだろうけど、まだ簡単に割り切れるものじゃないんだろう。だって、絵里さんと希さん以外はまだ、アイドルを続けているんだから。そして、技量では遥かに劣る私たちも楽しそうにやっているわけで……。

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「でも、希さんはもっと特別かも、だって。ずっとμ'sのみんなを見守って陰から支えてきてたから。あの子はμ'sが終わったいま、ちょっと目的を失っちゃったのかもしれない――とか、そんなこと言ってた」 希さん、大丈夫かな。μ'sの名前も希さんが考えたんだよね。最初からなんだ。

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思いを馳せていると、亜里沙から元気な声が届いた。 「希さんのことはお姉ちゃんに任せれば大丈夫だと思うよ！　私たちはちゃんと私たちの心配をしよう！」 「って、絵里さんが言ってたんだね？」 「うん」 「……ま、そうだね。次の曲のこと、また一緒に考えよう」 「また明日ね！」

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「お姉ちゃんは、今のスクールアイドル見て、どう思う？」 「んー？」 居間でごろんと寝そべってるお姉ちゃんにも、唐突に聞いてみる。お姉ちゃんは体を起こして、ぐっと私に顔を寄せて、言った。 「みんな輝いてるよね！　楽しそうだし可愛いし！」

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なんの淀みもなく、お姉ちゃんからはそんな言葉がかえってきた。お姉ちゃんらしすぎて、笑ってしまう。 「あー……うん。えっとさ、まだμ'sやってれば、まだまだ負けないのにとか、そういう歯がゆさみたいなのって……正直、あったりしない？」 こてん。 お姉ちゃんは首を傾げた。

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「雪穂は、音ノ木坂入って、スクールアイドルやってて、後悔してる？」 「え、なんで？　まさか！」 「じゃあ、楽しい？」 「もちろんだよ。先輩たちも力になってくれるし、亜里沙も一緒だし――」 「よかった！」 ぎゅっと、お姉ちゃんは私に抱きついてきた。びっくりして固まっちゃう。

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嬉しそうに笑いながら、頭を撫でてくる。くすぐったい。 「それなら、μ'sは今でも勝ってるよ、勝ち続けてるんだよ！　学校が賑やかになって、スクールアイドルが賑やかになって――雪穂は、そんな私の夢の結晶だよ。……ありがとね」 「わ、私は自分がやりたいからやってるだけで……」

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でも、嬉しい。お姉ちゃんは、私が頑張ってることを、本当になにより喜んでくれている。 お姉ちゃんは本当に見ているものが大きいんだな、って改めて思う。さみしがりやだから、もう一回みんなで集まってやりたいかって言われたら、それはそれで迷わず頷くんだろうけど。 私からも、ありがとうだよ。

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「おはよー！　雪穂！」 「おはよ！」 今日も迎えに来てくれた亜里沙と一緒に登校。私は、考えていたことをさっそく切り出した。 「ラブライブに出す歌なんだけどさ、考えがあるんだ」 「さすが雪穂！　なになに？」 「あのね」 希さんの気持ちと、昨日のお姉ちゃんの話を聞いて、考えたこと。

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私の思いを話すと、亜里沙は「いいね！」と即決で賛成してくれた。よかった。 「でも、私たちの力だけで、ラブライブ勝てるかな？」 「まあ……先輩たちにも、部分部分で手伝ってもらえたらいいなってまだ思うけどね。でも、みんなも忙しくなってくるだろうし、独り立ちのチャンスでもあるよね」

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「わかった。やろう！　私たちの気持ちをいっぱい込めよう。曲作り、がんばるよ！」 「歌詞はまた一緒に作ろう。振り付けも考えるよ。衣装は……衣装は、やっぱり、ことりちゃんにお願いしないと無理かな……」 「衣装かあ、どうするかそろそろ真面目に考えなきゃダメかもね」

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独り立ち、なんて言った途端にこれだ。来年からの私たちのためにも、この機会に考えなきゃいけないことは、山ほどある。 いよいよ、私たちも、現実を見なきゃいけない。μ'sが終わったように、お姉ちゃんたちもいつか卒業する。きっと、その前にしておかなければいけないことが、ある。