亜里沙のことが大好きな雪穂 短編(6)「つなげたい想い」
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「おはよ、雪穂ちゃん、亜里沙ちゃん」 「あ、おはようございます」 「希さんおはようございます!」 今日も、いつもの神社で希さんに会った。私たちの息が落ち着くのを待って、希さんは言葉を続けてくる。 「えりちに、なにか言った?」 「あー……ちょっと希さん寂しそうだったみたいって」
2017-03-15 19:48:42「もー。やっぱりー。別にそんな寂しがってるわけやないんよ」 希さんは笑いながら言った。ううん、でもこの前は確かに寂しげだったような気がする。戸惑っていると、希さんは少し困ったような顔を見せた。 「もう一回μ'sができるなんて、思ってへんよ。みんな、もう、次に進んでる」
2017-03-15 19:48:49「たとえば、ときどきみんなで集まって歌うくらいなら、大丈夫ですよね?」 「遊びならね。それはもうμ'sやないよ。うちはもうスクールアイドルやない。μ'sはスクールアイドルなんや。穂乃果ちゃんの強い思いは、みんな同じ」 「……でも、未練はあるんですよね」 「それはそれ、や」
2017-03-15 19:48:57「みんなのことをちゃんと見て、みんなのことをわかってたつもりやのに、うまくいかないこともあったなって。二人はお互いのことよくわかってると思うけど、それでもすれ違うこともあるかもしれへん。ちょっとでも不安になったら、しっかり話し合ったほうがええよ」
2017-03-15 19:49:04お昼休み。亜里沙と二人、μ'sのことについて話をした。 「みんなも順調じゃなかったことはよく知ってるけど、きっと私たちが知ってた以上に大変なこといろいろあったんだろうね。ケンカしちゃったりしたことも……あったのかな」 「お姉ちゃん、私にはあんまりそういう話はしなかったから」
2017-03-18 20:09:55私も、あえて深くは突っ込んで聞かないようにしていた。お姉ちゃんが苦しんでいるのは見ていたけど、静かに見守って――いや、なにもしなかった。 きっと、いつでもずっと仲良く、楽しくできるわけじゃない。でも、最後には強固な結びつきになった。だからこそ、綺麗に終わらせることができたんだ。
2017-03-18 20:10:44「亜里沙、私、考えがあるんだけど」 「μ'sのこと、もっと知らなきゃだめ……だよね?」 「さすが! そう、私が言いたかったこと!」 それは、絶対に必要なステップだと思う。私たちのためにも。次の、私たちの歌のためにも。
2017-03-18 20:10:57「それで、思ったんだけど、希さんに相談してみない? きっと、希さんが、みんなことを一番よく見てきたんだ」 「お姉ちゃんもそう言ってた。でも……いいの?」 亜里沙は不安そうに言う。 当然だ。私たちがやろうとしていることは、できる限り、μ'sのみんなには秘密にしておきたい。
2017-03-18 20:11:07「それでも、μ'sの軌跡をちゃんと知らなきゃいけないと思うから。あったこと、全部、できる限り知りたい」 「わかった。雪穂が言うなら、間違ってないよ」 「ありがと!」 決意する。私たちが、本当にμ'sを昇華し、次に進むために。
2017-03-18 20:11:17「留学のとき、ことりちゃんの様子がおかしいことには、気づいてたんよ。でも、結局なにもできなかった。この件だけやないよ。うちがもっと積極的で、もっとやり方を考えていれば、余計な傷を増やすことはなかったのになって、今も思う」 「でも、それでμ'sは強くなった」
2017-03-19 20:04:34「それが必要なことやったのかどうかは、わからんよ。結果としてうまくいってよかったけど――」 μ'sが経験してきたことをできる限り知りたい。そう頼むと、希さんはいろいろ語ってくれた。落ち着いて話ができるように、亜里沙の部屋で、三人で。 「一番読めなかったのは、穂乃果ちゃんやなあ」
2017-03-19 20:05:05「穂乃果ちゃんは、いっつも予想を超えてった。この子はきっと学校を救ってくれるって確信してたけど、まさかアメリカやドームまで行くことになるとは思ってなかったよ」 「……私も、お姉ちゃんのことは読みきれません」 「お日さまみたいに輝いてたよ。あの子は、奇跡や」
2017-03-19 20:05:11希さんの目はとても優しかった。どれだけ大切な思い出か、伝わってくる。奇跡、は、μ'sを語るときによく使われる単語だ。希さんにとっては、お姉ちゃんこそが奇跡らしい。じゃあ、お姉ちゃんから見た奇跡はあるのだろうか。まさか全部が必然なんて思ってはいないだろうけど。
2017-03-19 20:05:19「――で。μ'sの歌を作ってくれるん?」 「え?」 「そういうことやないの? 他のみんなには秘密でこういう話が聞きたいってことは」 「あー」 やっぱり、希さん、鋭い。 亜里沙と二人で目を見合わせて、笑い合う。 「……半分、当たりです。でも、違います」
2017-03-19 20:06:33私たちが作ろうとしている歌。それは、μ'sのことを歌う歌ではないし、μ'sに捧げる歌でもない。μ'sの思いを受け継ぎ、さらに未来へ伝えるための、私たちの歌だ。 今ならわかる。「みんなで作った」スノハレこそが、μ'sの最後のメッセージの始まりだったんだ。
2017-03-20 20:03:01「希さん、ありがとうございます。私たちの歌、楽しみに待っていてください」 たくさんの話を聞けた。お姉ちゃんの思いにも、きっとたどり着いた。 「そっか。またいつでも相談してな」 「はい!」 「ラブライブで、私と雪穂で、最高のプレゼントを届けます!」 亜里沙が力強く言ってくれた。
2017-03-20 20:03:09「亜里沙」 二人きりになって、亜里沙の目を真正面から覗き込む。 「μ's、大好きだよね」 「もちろんだよ!」 「ずっと追いかけてきて、いろんなことを教えてもらって」 「幸せだよね」 「うん、幸せ。しかも、亜里沙と一緒だから」 「雪穂と一緒だから!」
2017-03-20 20:03:17笑いあって、珍しく、私のほうから雪穂を抱きしめた。 「最高のお礼にしようね」 「うん。大好きなμ'sに」 私たちの三曲目。ラブライブで戦う曲。 これは、私たちの、μ'sからの卒業制作だ。
2017-03-20 20:03:27そこから一ヶ月、自分たちにできることを全力でやった。伝えたいメッセージを絞り込んで、歌詞に落とし込んで、二人で話し合って。仮のメロディラインに乗せて歌っては、調整。ダンスのイメージと衣装のイメージも、μ'sを参考にしながらも自分たちで考えた。
2017-03-21 19:51:29さすがに、私たちだけで衣装デザインと制作まで手を出している余裕はなかった。できる限りやろうととにかく全部挑戦はしてみたが、二人だけでできることには限界がある。よくわかった。ほとんどの学校がそうしているように、外注するのが現実的な選択だろう。
2017-03-21 19:51:38さすがに二人だけでこそこそとやっていれば先輩たちにも「なにかやっているな」と勘付かれるわけで、私たちは「○日にみんなの前で発表します! それまで待っていてください!」と宣言して、自分たちを追い込んだ。みんな、静かに好きなようにさせてくれた。 期日はすぐにやってきた。
2017-03-21 19:51:49本番まで一ヶ月。私たちの歌を、μ'sのみんな――六人の前で、発表する。制服のままで。本当は九人の前で発表したかったけど、こればかりは仕方がない。 私たちが解釈したμ'sの思いを、私たちが未来に繋ぐ歌として。 まずは、荒削りのままでも聞いてほしい。
2017-03-21 19:51:56最終予選で、みんなで作ったSnow halationを歌って。 スクールアイドルみんなで作った歌をみんなで歌って。 最後のライブではみんなのストーリーを歌って。 μ’sは伝えてくれた。 スクールアイドルは、みんなで楽しめる。みんなの夢を叶える力を持っている。
2017-03-22 19:55:33μ’sの夢は、最初は廃校の阻止だった。でも、個々の目的はいろいろあった。アイドルへの憧れ、この子と一緒に歩みたい、友達の心を開きたい――途中、つまづきはしたけれど、夢は全部叶った。 『だからやろう! 楽しもう! きっと君の夢も叶うよ』
2017-03-22 19:55:41Sunny Day Songの経験は、その最高のメッセージだった。あの瞬間の楽しさ、幸せさは、きっと一生の思い出になる。でも、それを経験していない子たちのほうが、やっぱりずっと多い。だから、私たちが、改めて伝えたい。スクールアイドルの力を。
2017-03-22 19:55:52