クリスと翼が見えない敵と戦った話

ギアの防衛機構は万全なのでこんな騒動とは無縁なのは承知の上ではありますが、それでもこんな話も見てみたいと思い書いてみました。 なお、見えない敵とは書いていますが、ファラさんのことではないので悪しからず。
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ばん @vande1021

「治るんだろう?」 「薬飲んで安静にしていろって」 「それなら良かった。養生して欲しい」 エルフナインと同じように翼もまたほっとした様子で言った。 「んんっ。それと」 わざとらしく咳払いなどして前置きすると翼は続けて話し始めた。 26

2017-04-16 22:50:01
ばん @vande1021

「業界に身を置く一人として私から気休めを一つ。世に音楽家や歌手と呼ばれていても様々な理由で耳を患ってしまう者は多い。それが理由で道を閉ざされることもあるが、手遅れにさえならなければ元の通り復帰するケースもまた多い」 「やたら急いで診させたのはそういう事だったんですね」 27

2017-04-16 22:52:02
ばん @vande1021

「ああ。概ねそんなところだな。そういたずらに不安がることはない」 気休めが効いたと見えて翼は自信ありげに言ったが、クリスにしてみれば気休め以前にそもそも自身を襲い立ち塞がった姿の見えない大きな手をこの防人は切り裂き道を拓いたのだ。剣を振るうこともなく。 28

2017-04-16 22:54:01
ばん @vande1021

胸の内が軽くなった。立ち止まってしまったが、これなら歩き出せる。 「引き止めてしまって悪かったな。今日ははやく寝るんだぞ」 「なっ、何言って」 面食らったクリスだったが表情にはいつものらしさが戻ってきていた。 29

2017-04-16 22:56:01
ばん @vande1021

「おやすみ」 「……はい。先輩も、おやすみなさい」 「フフッ」 届けば返してくれる。自身を慕う後輩の素直なところも見られて笑いがこぼれた。 30

2017-04-16 22:58:02
ばん @vande1021

やがて、クリスの姿が見えなくなると翼は別れ際に振っていた手を下ろした。 その表情は。 (当たり前にあったものから取り残される恐怖と喪失感。理解はできても、直面するのはなにも今でなくて良い) 誰にも聞かせない、心の内でだけそう願い呟いた。 31

2017-04-16 23:00:01
ばん @vande1021

振り返り、この場を去ろうとした翼だったが。 「立ち聞きとは感心しないな」 今いる廊下と接する曲がり角へと声を掛けた。 32

2017-04-16 23:02:02
ばん @vande1021

「ええーっ、気付かれてた!?あー私も何か話さなきゃと思っていたんですけど、出ていきそびれちゃいました」 「同じく」「デース」 「翼、お母さんみたいなこと言ってたわよ」 所在無げやら照れたような様子で四人がぞろぞろと進み出てきた。 33

2017-04-16 23:04:01
ばん @vande1021

その後はといえば、この騒動の直後こそクリスを欠いた状態で活動することになったが、一週間の後に復調。後遺症も無し。 再び顔を合わせる時には騒々しくもあたたかな声に迎えられることになった。 34

2017-04-16 23:06:01