打越鋼太郎氏によるEver17の話

最初の発売から15年経った今なおファンの心に残っている伝説のアドベンチャーゲーム、Ever17。2017年5月1日はその作中で事件の発端となった日でした。 このまとめは、Ever17のメインシナリオライターである打越鋼太郎氏によるツイートを記録したものです。
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打越鋼太郎 @uchikoshi

さて、そんなわけで、このTweetを見る人もだいぶ限られてきたのではないかということで、ここからは少し深い話をしようと思います。まあ、そんなに深くもないのですが…。水深でいうと51mぐらいの深さの話です。 #Ever17

2017-05-03 17:13:40
打越鋼太郎 @uchikoshi

前回は「Ever17に関する奇妙な話は他にもいくつかある」というところで終わっていたかと思います。それらは一体なんなのか? #Ever17

2017-05-03 17:14:02
打越鋼太郎 @uchikoshi

まず物語の構成法が異常でした。「普通こんな作り方をしてたら破綻するよね」という、およそ教科書通りではない、セオリーを完全に無視した、真逆の構成法によってあの作品の骨子は作られました。 #Ever17

2017-05-03 17:14:29
打越鋼太郎 @uchikoshi

たとえばみなさん、Ever17はどうして主人公を2人にしたと思いますか?プレイして下さった方ならきっと「え、ああいう理由じゃないの?」と推測されると思うのですが、実はたぶんそうではありません。 #Ever17

2017-05-03 17:15:02
打越鋼太郎 @uchikoshi

当時ぼくはある作品で「打越はギャルゲーのことをなにもわかってない!ギャルゲーにおける主人公とはプレイヤー自身なんだよ!おまえの書く主人公はクセが強すぎて感情移入できないんじゃボケ!」とメッタメタに叩かれたことがございまして… #Ever17

2017-05-03 17:15:32
打越鋼太郎 @uchikoshi

「だったら主人公を2人にすれば、そのうち1人ぐらいは気に入ってもらえるんじゃね?」という安易な理由から2人の主人公という設定は生まれたのでした。そのことを取っ掛かりとしてEver17の壮大な物語は膨らんでいくことになったのですが… #Ever17

2017-05-03 17:16:27
打越鋼太郎 @uchikoshi

とにかくここで言いたいのは順番が逆だったということ。まず最初に「こうすれば面白くなる」という種の部分があって、そこから枝葉をのばしていったのではなく、先に葉っぱの方を空中に浮かべてから、枝や幹を遡るようにして種の部分を考えていった。 #Ever17

2017-05-03 17:17:06
打越鋼太郎 @uchikoshi

ここで便宜的に前者を「演繹的構成法」後者を「帰納的構成法」と呼ぶことにするならば、Ever17の場合は「超帰納的構成法」とでもいうような常軌を逸した作り方をしていたのです。他にもいくつか例を挙げましょう。 #Ever17

2017-05-03 17:17:32
打越鋼太郎 @uchikoshi

ぼくは「インタビューウィズヴァンパイア」という映画が大好きで、まずある女の子の設定を吸血鬼にしようと思いました。ところがこれがスタッフの間であまり評判がよろしくなく、じゃあ「血を吸わなければいいんだよね?」ということで「○○○○」の設定だけが残ることになりました。 #Ever17

2017-05-03 17:18:01
打越鋼太郎 @uchikoshi

ところで吸血鬼って噛まれた方も吸血鬼になっちゃいますよね?ぼくは昔からこの現象を「ウイルスのせいだ!」と考えていて、そのことから「○○○○」を感染させるウイルスというのを思いついたのでした。これも順番が逆になっていると思います。 #Ever17

2017-05-03 17:18:45
打越鋼太郎 @uchikoshi

ウイルス→○○○○という流れではなくて、○○○○の方からウイルスを発想した。少し強度は弱いですが、これもある種の帰納的構成法と呼べるでしょう。ちなみにベニクラゲが○○○○のクラゲだと知ったのも、彼女の漢字表記を考えた後のことです。 #Ever17

2017-05-03 17:19:14
打越鋼太郎 @uchikoshi

まず発想があってから、現実的な事柄がそれを補ってくれる。キュレイシンドロームは本当にあるのかもしれません。空さんの場合もそうです。まず発端として「人間の網膜にレーザーかなにかで直接映像を投影すればいいんじゃないか?」という発想が最初にあって… #Ever17

2017-05-03 17:19:52
打越鋼太郎 @uchikoshi

次に「僕みたいな凡人が思いつくような発想はきっと世の中の頭のいい誰かが既に実現しているに違いない!」ということで、早速ネットで検索してみたところ、実際にRSDという技術が存在していることがわかりました。RSDからの空さんではなく、空さんからのRSD。帰納的構成法。 #Ever17

2017-05-03 17:21:00
打越鋼太郎 @uchikoshi

ところでこの「演繹的/帰納的構成法」という言葉、僕がついこの間思いついた言葉なんですがさっきのTweetと同様に僕はこう思いました。「きっとこの言葉は既に別の誰かが使っているに違いない!」というわけで検索してみました。ありました。なんとこの言葉を使っていたのは… #Ever17

2017-05-03 17:22:00
打越鋼太郎 @uchikoshi

手塚治虫大先生。もしかしたらぼくはどこかでこの言葉を聞いたことがあって、それを自分が思いついたと勘違いしてるだけなのかもしれません。その可能性は結構高いですが、あるいは本当にキュレイシンドロームのせいなのかもしれないし… #Ever17

2017-05-03 17:22:23
打越鋼太郎 @uchikoshi

形態形成場仮説のせいかも、シンクロニシティのせいかもしれません。わからないですが、実感としてはとても奇妙に思えます。ただ手塚先生の演繹的/帰納的の定義とぼくのそれとでは言ってることが逆のような気もするんですけどね…。 #Ever17

2017-05-03 17:22:48
打越鋼太郎 @uchikoshi

興味のある方はこちらをご参照下さい。 goo.gl/OtrP3U または goo.gl/dwiVNm というわけで閑話休題。話を元に戻しましょう。次は優の名前について…。 #Ever17

2017-05-03 17:23:16
リンク TYPE001 演繹法と帰納法を使いこなしてストーリーを作る方法 | ストーリーメーカー 演繹法と、帰納法の本来意味と、ストーリー作りに活用できる2つの方法を解説します。本来は論理的思考法を指す言葉ですが、ストーリー作りと関連して語られることも多い言葉です。どのように関連するのか意味を理解して使いこなしましょう。 4
リンク ストつく ストーリーの作り方|演繹法と帰納法...アイデアを出すための2つの思考法 なかなかストーリーがまとまらない・・・考えすぎて煮詰まってきた・・・などなど、ストーリー作りに行きづまることっ… 1
打越鋼太郎 @uchikoshi

彼女の名前を長くしたのも、最初は単純に奇を衒ってのものでした。「一度聞いたら忘れられない破壊力のある名前にしよう!」つまり元々は「優」という短縮形で呼ぶことや、それを使ったギミックについてはなにも考えていなかったということです。摩訶不思議な帰納的構成法。 #Ever17

2017-05-03 17:24:22
打越鋼太郎 @uchikoshi

またまた余談ですがこの名前「ヒロインの名前としてダサすぎるから変えてくれー!」と、当時会社の人から言われたみたいなんですよね。それを天才Dの中澤君が「いやいや、この名前にはめちゃめちゃ重要な意味があるので変えられません!」と突っぱねたというのは有名は逸話です。 #Ever17

2017-05-03 17:25:30
打越鋼太郎 @uchikoshi

他にも中澤くんが残した功績は(ぼくが言うのもおこがましいのですが)星の数ほどありまして…。中でも特に重要なのが「エンドロールに年表を付けたこと」と、あの燃え盛るような鉄火場の中「EP(エピローグ)を入れる」という英断を下したことにあると思います。 #Ever17

2017-05-03 17:26:01
打越鋼太郎 @uchikoshi

ぼくとしては最初はEPを入れることは念頭になく「EPを書く時間があるなら本編の修正にまわしたい」と思っていたのですが「いやいや、本編の方はもう十分面白いので、それよりどうしてもEPを!」と中澤くんに力説されまして…。確か3日ぐらいで書き上げたような気がします。 #Ever17

2017-05-03 17:26:53
打越鋼太郎 @uchikoshi

もちろん結果は大成功でした。というか、たぶんあのEPがなかったら、Ever17はこれほどまでに評価されることはなかったでしょう。「もしもあのとき、ぼくの意見の方が通ってしまっていたら…」そう思うとぞっとせずにはいられません。 #Ever17

2017-05-03 17:27:51
打越鋼太郎 @uchikoshi

というわけで、ぼくがここで言いたいことは3つ。【1:ひとのアドバイスは素直に聞きましょう】【2:中澤くんのアドバイスはいつもなんだかんだいって的確だ】【3:たった3日間の作業があなたの人生を変えることもあります】 #Ever17

2017-05-03 17:28:28