金剛のものがたり。三話『紅牡丹と死化粧』

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はるか @Kurosu_Haruka

【金剛のものがたり。三話『紅牡丹と死化粧』】 「へい! 矢矧! レ○ス飛んでるジャン! 閃光玉つかってヨ!」 「ええ。そうだったわね」 「へい! 矢矧! 貫通弾プリーズ!」 「え、ええ。そうだったわね」  提督の執務室。わたしと矢矧は某げえむに興じていた。 #金剛のものがたり

2017-05-17 09:39:49
はるか @Kurosu_Haruka

「やっほー金剛。相変わらず干物生活送ってるじゃーん」 「へい! ぜまかしGirl! 挨拶はいいからモン○ン混ざれデース!」 「久しぶりにあった旧友に言うこと、それだけ?」  わたしが以前指揮をとっていた艦隊。島風は長い間、 共に戦ってきた戦友だった。 #金剛のものがたり

2017-05-17 09:45:44
はるか @Kurosu_Haruka

「海戦及び提督たちとの社交の場で大活躍してる島風御大サマ、ごきげんうるわしゅうデース」 「あ、そういう皮肉もイヤミもいらないいらない」  島風は苦笑し、提督の机に腰掛ける。可愛らしい(わたしの百分の一程度とはいえ)が相変わらず食えない艦娘である。 #金剛のものがたり

2017-05-17 09:45:55
はるか @Kurosu_Haruka

「それより傷痍艦娘金剛。船体と心の調子は──」 「このレ○ス、飛んでんじゃねぇデース…キイイイイ!!!」 「全然だめみたいね」 「はあ……負けた。もう眠いデース」 「うんうん。執務室でジャージ着て寝っ転がってモンハ○して、昔の面影ゼロだね、金剛」 #金剛のものがたり

2017-05-17 09:50:38
はるか @Kurosu_Haruka

「どーせ、わたしなんて老朽艦ネ。代わりの『金剛』だって星の数ほど建造されてるワヨ」 「でもさ」 「はん?」 「『金剛』はたくさんいても、『あなた』は一隻しかいないよ」 「……そんなコト、わかってるヨ」 「だよね、涼風のことで──」 #金剛のものがたり

2017-05-17 09:53:32
はるか @Kurosu_Haruka

涼風。喪った親友。彼女の名を聞いて、わたしは反射的に島風の首を掴み上げ、壁に叩きつける。 「止めなさい、金剛!」  矢矧の制止を無視し、わたしは島風の首を押し上げる。 「ぜまかし、刺激的な発言はノーにしてもらえナイデスカネ」 「戦意は失ってないんだ?」 #金剛のものがたり

2017-05-17 09:57:07
はるか @Kurosu_Haruka

──でも。  首を締め上げられているにも関わらず、島風不敵に笑うと、首を掴むわたしの腕に足をかける。 「ぜまかしだよ」 「……sht!」  島風はわたしの腕に足をかけたまま体をひねり強く回転する。その勢いに負け、わたしは回転するように床に叩きつけられた。 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:00:13
はるか @Kurosu_Haruka

「イデデデデ……!」  寝技のように腕を極められ、わたしは床をタップする。 「金剛、腐りすぎ〜」 「ソーリー! 腕離してヨ……!」 「謝るのおっそーい」  メキャ。鈍い音がして、わたしの腕は曲がっては行けない方向へと曲がった。 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:02:42
はるか @Kurosu_Haruka

────  夕暮れの防波堤。わたしは腰をかけて包帯で吊るされた利き腕を眺め、ため息をつく。 「これじゃ、モン○ンできないデース……」 「いいじゃん。どうせしばらく戦場にはでないんでしょ」 「わ、わたしは今すぐにも戦いたいネ……!!」  隣に腰掛ける島風。 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:05:43
はるか @Kurosu_Haruka

彼女は苦笑して、わたしの肩を抱き寄せる。 「わかってる。だからあなたの提督を信じて戦う準備していこうよ」 「腕へし折られて準備もへったくれモ……!」 「そうでもしないと金剛は勝手に出撃しちゃうでしょ?」  楽しそうに微笑み、島風はわたしから離れる。 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:08:24
はるか @Kurosu_Haruka

夕日が逆光になり、島風の表情はわからなくなった。まるで彼女が血に染まっているかのように紅く紅く見える。そう。そうなのだ。  わたしたちの手は血に染まってる。 「艦娘は兵器ネ。戦ってないと生きてる理由がナイワ」 「戦えないなら自沈したいって言ってるそうじゃん」 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:10:44
はるか @Kurosu_Haruka

「戦えないなら、そのほうが──」 「艦娘は兵器じゃなくて、艦娘だよ、金剛」  そんなこともわかってる。 「あなたの提督は艦娘を人って言ってくれたんでしょ?」  わかってる。わかってる。そんなこと。 「金剛は『心』を手に入れたのが苦しいんだね」 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:12:26
はるか @Kurosu_Haruka

「……心なんていらなかったヨ。苦しいだけネ」 「涼風を喪ったから?」 「ウン」 「浦風をあの海のそこに置き去りにしてるから?」 「……ウン」 「提督たちに見放されちゃったから?」 「…………」 「それに提督のこと」 「ほわっつ?」 「好きなんでしょ?」 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:14:56
はるか @Kurosu_Haruka

「は!? な、なにいってるノ!? わ、わたし提督なら大抵の提督好きヨ!?」 「真っ赤になった」 「なってないワヨ……! なってるとしたら夕日のせいデース……!!」  わたしは思わず立ち上がり、よろけて堤防から落ちそうになる。 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:16:46
はるか @Kurosu_Haruka

島風は慌てて、わたしの腕を掴み、引き寄せてくれた。  二隻で座り込み、わたしたちは顔を見合わせ笑いが溢れる。 「金剛さ、初めてできた提督、特別なんでしょ」 「……だったらなにヨ」 「じゃあ、わたしが来た意味なかったなぁ」 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:18:28
はるか @Kurosu_Haruka

ルビーのような赤い夕日を受けながら島風は微笑む。 「そういえば、なにしにきたのヨ」 「忠告と警告」 「はん? 駆逐艦ごときに心配されるようなこと──」 「そのごときに腕おられたくせに」 「くっ……」 「とにかくっ」  島風はこちらに背を向ける。 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:21:31
はるか @Kurosu_Haruka

「明日、涼風が配備されるよ」 「……は?」 「ここ。横須賀鎮守府にね」 「冗談でショ?」 「ほんと」  彼女は両手を広げながら堤防のはしをバランスをとりながら歩く。おととっ、と何度か落ちそうになっているのを見ると心配になる。 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:23:52
はるか @Kurosu_Haruka

「警告」  彼女はわたしと鼻先をかすめるほどの距離に近づき上目遣いで囁く。相変わらず、素早い艦娘だ。 「わかってると思うけど、その『涼風』は金剛の知ってる涼風じゃない。違う軍艦」 「うん。涼風はモウ──」  この世界のどこを探しても二度と会えない。 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:30:32
はるか @Kurosu_Haruka

「『赤い深海』のこと。思い出しても飛び出さないでね」 「思い出さなくても忘れてないヨ」  やつのことはワスレナイ。絶対に。涼風を沈めたあの深海棲艦。そしてわたしの胸の疵── 「そして忠告」  わたしの唇に人差し指を当てて、島風は満開の笑みを浮かべた。 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:34:49
はるか @Kurosu_Haruka

「提督のこと信じてあげて」 「……なにヨ、それ。余計な、お世話ネ」 「あは」  いたずらっぽく笑い、彼女はお腹すいたと呟く。可愛らしい少女に見えるが、この島風も零号試作型。軍艦として生をうけたモノ。 「わたしが来なくても提督が金剛のこと守ったんだろうなぁ」 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:38:09
はるか @Kurosu_Haruka

「提督を守るのは、わたしの仕事のはずだったのにネ」 「今の壊れた金剛を守りたいって言ってくれてるじゃん。素直に受け止めなよ」 「……悔しいノヨ」  誰よりも好きなのに。提督を守れないどころか、毎日腐って醜態を晒している。  でもどうしていいのかわからない。 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:40:06
はるか @Kurosu_Haruka

「のんだくれで、だらしなくて、ヘタレでお調子者で。息もなんか酒の臭いするし、なんか艦娘たらしのろくでもない提督だケド──」 「うん」 「たった一人だけ。わたしの闇もなにもかも受け止めてくれて、本気で救おうとしてくれた提督だカラ」 「ほんとに好きなんだね」 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:42:38
はるか @Kurosu_Haruka

「ウン……」 「その顔。恋も戦いもうまくいってないんだねえ〜」 「まあネ〜。うまくいかないことばかり──」  苦笑いを浮かべ、島風に返事をしようとした、その時だった。鎮守府全体に警鐘が鳴り響いた。 ──── 「なにごとネ!」 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:52:08
はるか @Kurosu_Haruka

「金剛。明日、この鎮守府に配備される予定だった艦娘及び、その護衛艦と艦娘が襲撃されたと報せが入りました」 「おうけい、浜風、提督ワ?」 「酒呑んで執務室で寝てます」 「お、おうけい」  港に並んだ八隻の艦娘たち。わたしは彼女たちの前にたちの左手を掲げる。 #金剛のものがたり

2017-05-17 10:56:05
はるか @Kurosu_Haruka

「現在、交戦中の艦隊には明日から同志になるはずの艦娘がいるネ」  矢矧。浜風。谷風。加賀。鈴谷。他三隻。  彼女たちは不安げな面持ちで、わたしを見つめている。無理もない。この子たちは建造されて二年も経たない新造艦で、しかも実戦経験もほとんどない。 #金剛のものがたり

2017-05-17 11:10:55
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