ウィア・スラッツ、チープ・プロダクツ、イン・サム・ニンジャズ・ノートブック #1

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
0
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆「どうした。ほしいのか?」「少しも」◆「おれを解放しろ。お前に選択権は無い!」◆「近こう寄れィ!」◆「ザイバツのニーズヘグ。笑い飛ばすわけにもいかないようね」◆「余興が一つ増えたぞ。貴様ら」◆「こ奴がニンジャスレイヤーだ貴様ら!」◆「おれはソウカイヤにはならない。取り引きだ」◆

2017-06-01 21:42:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆「みすみす獅子の巣に迷い込んだネズミども」◆「き、貴様ーッ!」◆「ナラク……無駄だ……おれは……渡さない」◆「タトゥーイストの力が要る」◆「しかしまあ、細密な事よ。この通りやれと?」「然り」◆「頼みましたぞ、センセイ」◆「ドラゴンのようだ」「強く流れる」◆

2017-06-01 21:45:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第11話【ウィア・スラッツ、チープ・プロダクツ、イン・サム・ニンジャズ・ノートブック】#1

2017-06-01 21:48:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アー、アー、ンンッ」マイクを受け取り、咳払いをする。エドゥアルト・ナランホ。投資家。就労経験無し。大学は13歳で卒業。以来、安い時に買い、高くなれば売る、を繰り返している。とてもイージーだ。喧嘩には多少自信が無かったが、ニンジャになって以来、それもイージーになった。 1

2017-06-01 21:55:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カンファレンス会場は白いビーチが見渡せるガラス張りの建物で、夜は現地人の古典芸能が楽しめる。勿論、カジノで楽しんでもいい。しかし集まる者達の目的は勿論そうした観光ではなく、エドゥアルトの「神の審美眼」の恩恵に預かること。そして自由奔放にとびかうインサイダー情報だ。 2

2017-06-01 22:01:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ああ……今回で何度目でしたかね?この集まり」エドゥアルトは参加者に尋ねた。30名ほど。プラチナチケットだ。「六回かな?」誰かが呟いた。「ンン。六回。六は好きな数字だ」エドゥアルトが言った。誰かが急いでメモを取っている。エドゥアルトは苦笑する。 3

2017-06-01 22:06:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼らの中にエドゥアルトがニンジャである事を知る者はない。ニンジャとなった時、デシケイターという名を得た。しかし既にそのとき彼には築き上げた地位があったし、無理に名乗りを変える動機もなかった。ニンジャになって良かったのは、度を越してシツレイな人間に簡単に「わからせられる」事だ。4

2017-06-01 22:12:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

企業が武装し、互いに殺し合う今の世は、デシケイターの性に合っている。マネー・パワーを暴力の形で具現化する事が、とても簡単になった。デシケイターは暴力が好きだし、暴力をふるうのが好きだ。暴力はカネを作る。「毎回とくにトピックを用意してきているわけでもないが……」彼はトリイを見た。5

2017-06-01 22:20:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アラスカのエメツ、実際どうですか?」誰かが尋ねた(いちいち顔など覚えていない)。「ちょっと躊躇してしまいます」「躊躇?」デシケイターは不思議そうに首を傾げた。「何を?」「やはりああもロシアンヤクザとの関係が公になってしまうと……」「そういう事ですか」彼は荒地のトリイを眺める。6

2017-06-01 22:24:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「荒れたほうが触りやすいし、私は好きですよ。それに……」白い砂浜、美しい青い海。荒地に黒いトリイが連なる。連なるトリイの奥から、歩いて来る者がある。「ええと……」デシケイターは瞬きした。「室内だよな?」「え?」参加者が顔を見合わせた。デシケイターは尋ねた。「ここ、室内だよな?」7

2017-06-01 22:27:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

荒廃した地平には超自然の嵐が渦巻き、黒いトリイはカンファレンスルームの中央まで続いている。ビーチ。荒地。トリイ。デシケイターは苦笑した。今日はノードラッグだ。彼はトリイをくぐって進み出た者を見た。「うん?」その者の顔は黒い闇で、判然としない。一歩一歩踏みしめるような歩み。 8

2017-06-01 22:30:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「え?」「アイエッ?」「アイエエエ?」一人、また一人と、驚愕・恐怖の声をあげはじめた事で、デシケイターはようやくそれが幻覚ではないと理解した。それか集団ヒステリーだ。顔の見えぬ男が最後のトリイをくぐり、床に踏み出した。一歩。「アバーッ!」一歩。「アバーッ!」一歩。「アバーッ!」9

2017-06-01 22:32:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キュン。キュン。キュキュン。その者が一歩歩くたび、奇妙な澄んだ音が鳴り、会場の人間をめがけ、一枚ずつスリケンが飛んだ。「アバーッ!」「アバーッ!」「アババーッ!?」スリケンは過たずその一人一人を殺してゆく。デシケイターは何故か平静だった。彼は思った。非ニンジャだし、当然だな。10

2017-06-01 22:36:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」その者は立ち止まり、なにか思案した。「アイエエエ……」「ア、アイエエエ」「はははは」「アハハ……」「スゴイ、スゴーイよォ……」まだ数名の生き残りがおり、半数は発狂していた。キュキュキュン。飽きたのか、全員を殺す枚数のスリケンが一度に飛んだ。「「「「アバーッ!」」」」」11

2017-06-01 22:41:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カンファレンスルーム……荒地……?カンファレンスルーム……?……の只中に、デシケイター唯一人が生存を許され、その者と向かい合っていた。当然である。彼はニンジャで、他のクズどもは非ニンジャだ。「ド……ドーモ……デシケイター……です」「BWAHAHAHAHA!」その者は笑った。12

2017-06-01 22:43:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

デシケイターは自ら認める俗物であり、詩や絵画、仰々しい表現、何もかもをくだらないと考えている。投機できるか否かでしか見ていない。ゆえに彼は、荒廃した地平と連なる黒いトリイが地上の楽園と重なり合う光景、死の散乱、眼前の正体不明の存在を前に、ただ困惑し、持て余した。 13

2017-06-01 22:50:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「サツガイ」サツガイは言葉を発した。デシケイターは……「AAAARGH!」デシケイターは覚醒し、回転着地した。粉塵が立ち込めるスイートルーム、彼はゴキゴキと首を鳴らして横切り、壁の大穴を見て肩をすくめた。「何だ、これは」彼は自身の寝相の悪さに呆れた。地上14階。風が吹き込む。14

2017-06-01 22:56:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ムンバイの甘ったるい空気は、この高さにあっても同じだ。彼は見下ろした。掘っ建て小屋が何重にも縦に重なった街並み。道路に列を為すネオン・バス。縦横に巡る排水路に水は無く、代わりにゴミが埋め尽くしている。ゴミは上流にゆくほどにより集められて地上へ侵食し、丘を、山を作っている。 15

2017-06-01 23:00:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

時刻はAM3。街区に溢れるネオンの光と対照的に、不吉な赤い火を方々に灯すゴミの山。まるで眠りながら侵食する不定形の怪物で、成長を止める手立てはない。街区に散在する擬古典的な丸屋根の塔は数メートル上にホロ広告を投影し、巨大な怪物に対し、絶望的な戦いを挑んでいるようでもある。 16

2017-06-01 23:09:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この甘い匂いは、ゴミの臭気を覆い隠す為に昼夜焚かれるインセンスに由来している。ある種の有害化学成分が含まれており、精神に好ましからぬ影響を及ぼす。デシケイターはニンジャゆえに何の問題もないが、あまり気持ちのよいものではなかった。畏怖の記憶を夢に見たのも、これのせいか。 17

2017-06-01 23:14:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あるいは…「フフフ」デシケイターは乾いた笑いを笑った。エゾテリスムの死と、それに伴うエメツ事業の停滞に、自覚以上のイラつきがあるか。サンズ・オブ・ケオスを通じて知り合ったエゾテリスム。その思考には何の共感も持たなかったが、あれが用いた奇妙なジツには投資の価値が十二分にあった。18

2017-06-01 23:18:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は目を細めた。ここからでもムンバイの破壊の爪痕は視認できる。既にその地域の住民の排除は済ませた。傭兵部隊が封鎖を終え、軍事力をもって監視にあたっている。エゾテリスムの最後の破壊はそれまでの比ではない最大規模だった。産出させたエメツも最大だ。だがその夢は永遠に潰えた。19

2017-06-01 23:24:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まあいい。短期的には十分すぎるほどの量だ」彼は顎を掻いた。崩壊地域を確保した彼は、速やかにシンケンタメダ・カンザイ・メディケア社のヘッドオフィスを築いた。シンケンタメダは彼が敵対的買収で手に入れた製薬企業であり、ニューログラの製法はこの企業の門外不出の財産である。 20

2017-06-01 23:32:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニューログラ。端的にいえば、この薬はIRC中毒による急性重度自我希薄化症の特効薬だ。ネットワーク接続の慢性化によって自我を摩耗、UNIXを抱いたまま昏睡し、目覚めず、最悪の場合は死に至る……。誰もが恐れる病である。ゆえにこの特効薬の名を知らぬ者はない。 21

2017-06-01 23:38:53