泣き虫光忠×保護者長谷部

燭台切の亜種、泣き虫な光忠と、その恋人の長谷部がもだもだする話。
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天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

俺はどこにでもいる普通のへし切長谷部だ。そしてこれもまたありきたりだが、燭台切光忠と付き合っている。そこまでは、まあいい。よくある話だ。ただ問題は、俺の光忠が一般的な燭台切光忠からは少々外れた個体だということだ。どういう風に一般的なのではないかというと、泣き虫なのである。

2017-06-04 18:18:43
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「僕は燭台切光忠。青銅の燭台だって切れるんだよ!」そう言って近侍の俺の目の前で顕現したそいつは、最初いたって普通の燭台切光忠に見えた。ごくごく普通に審神者に名乗りを上げ、挨拶を済まし、俺にもどうぞよろしくと手を伸ばしかけ、そこで動きが止まった。「…き、君名前は…?」

2017-06-04 18:24:44
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「へし切長谷部だ。長谷部と呼べ」「はせべくん…」ぽおっと頬を朱色に染めて、目をやたらきらきらとさせてそいつは俺を見た。「今日からしばらくお前の世話係を任されている。よろしく頼む」そう言って右手を差し出すと、がしりと両手で手を掴まれた。正直痛かった。「うん…!よろしく頼むよ…!!」

2017-06-04 18:29:09
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

それからそいつは俺の後をカルガモの子供のようについて回り、「長谷部くん、あれはなんだい?」「長谷部くんは何の食べ物が好き?」「長谷部くんの好きなタイプは?」長谷部くん長谷部くん長谷部くん。とにかく俺を構い倒した。鬱陶しいと思いつつも毎回そうだと情も湧いてくる。

2017-06-04 18:32:44
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

変なのに好かれてしまったなぁ。その時の俺の感想はそんなものだった。実際厨や内番だけでなく、伝え聞く戦場での活躍を鑑みれば、燭台切は優秀な刀だった。だからその頃は俺もまだたかをくくっていたのだ。何故か俺にやたらと懐いてる、ちょっと変わった燭台切光忠なだけなのだと。

2017-06-04 18:37:01
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

燭台切の化けの皮…もとい元々の気質が明らかになったのはそんなある日のことだった。「長谷部くん!」藤が綺麗だから散歩に行こう。そう誘われて藤棚の下を並んで歩いていると、燭台切ががしりと俺の両肩を掴み、真剣な顔で俺の瞳を覗き込んできた。「君が好きなんだ。僕と付き合ってくれ!」

2017-06-04 18:41:45
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「はぁ?」俺はそう言って燭台切の正気を疑った。その頃の俺は燭台切をよく懐いてくる犬猫くらいにしか思ってなかったし、そんな犬猫からいきなり恋愛感情を告げられた所でその気になる筈もない。「お前、頭でも打ったか?手入れ部屋行くか?」そんな言葉をかけた瞬間、金色の瞳からぼろりと涙が零れた

2017-06-04 18:45:45
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「ぼ、僕、初めて見た時から長谷部くんが好きでっ…君じゃなきゃ駄目なんだ…!君が好きで好きでたまらない。お願い、僕と付き合って…!」そう言って大の男が人目も憚らずぼろぼろと泣き出すものだから俺は焦った。ものすごく焦った。可愛がってる犬猫が泣き出したら大抵の人間は焦ると思う。

2017-06-04 18:49:25
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「ま、待て、落ち着け?な?茶でも飲んで一旦落ち着こう」「長谷部くん、僕は本気なんだ…!本気で君のこと好きなんだよ。君のためならなんでもするし、君の言うことならなんでも聞くよ。だから僕と付き合って…!」ひぐひぐ泣きながら燭台切がずずーっと鼻を啜る。伊達男の欠片も残ってなかった。

2017-06-04 18:53:44
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

終いには「はしぇべくんとつきあえないならぼく、とうかいされたい…おれてしまいたい…もういきていたくない…」とぐすぐすと泣き出した。マジでか。そこまでか。 しかし、だ。それだけの重い愛情を向けられていたことを知って、俺の胸は妙なときめきを覚えた。それだけこいつは俺を必要としてるのだ

2017-06-04 18:57:52
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

そう思うと、こう、言ってはなんだが、きゅんとしてしまったのである。要は絆されてしまったのだ。「……わかった。付き合ってやる」「本当!?」パッと燭台切が顔を上げる。その鼻先に俺は指を突きつけた。「ただし、俺がいいと言うまで、関係を進めるのはNGだ」「えーと、つまり…?」

2017-06-04 19:03:54
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「キスより先は、俺の許可がない限り、するな」「手を繋ぐのは!?あと抱擁!!」「うーん、ギリギリセーフか…?ただし事前に申請しろよ」「わかった」こくんと頷いて、燭台切は涙もろくに拭かずにそれはもう嬉しげににこりと笑った。「ねえ、抱きしめてもいいかな?」数秒迷った後、俺は渋々頷いた。

2017-06-04 19:09:06
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

気づけば俺は既に燭台切の腕の中にいた。燭台切は俺の頭に頬ずりしながら、「えへへ、長谷部くんの匂いだぁ…」とうっとりと呟く。おいやめろ。せめて顔くらい拭いてからにしてくれ。そう言いかけたが、燭台切があまりに嬉しそうだったので、ひとつ溜息をついてそのまま抱擁を甘んじて受け入れた。

2017-06-04 19:12:42
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

これが、俺と光忠の馴れ初めである。 光忠はなんというか俺のことになると兎角子供っぽくなるというか、俺が演練でよその燭台切と話せば「僕を捨てる気なんだ…!」とさめざめと泣き、俺がちょっとでも戦場で怪我をすれば「長谷部くん死なないで…!」とわんわん泣いた。とにかく手間のかかる奴だった

2017-06-04 19:17:35
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

これでも奴はまがりなりにも第二部隊長で、戦場では鬼神の如き活躍をするというのだから(俺は練度差の関係で一緒に出陣したことはなかった)、世の中わからない。恋は人を狂わせるというが、光忠は俺に狂っていた。 「長谷部くん、はい、あーん」光忠が手製のずんだ餅を差し出してくる。

2017-06-04 19:26:19
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

光忠は他の燭台切光忠の例に漏れず料理が上手い。俺は口を開いて程よい塩気と甘みのあるずんだ餅をもぐもぐと咀嚼し、ごくりと飲み込む。次を催促するようにあ、と口を開くと、「はぁ…長谷部くんが今日もかわいい…」隣で燭台切が何やら悶えたが、いつものことなので俺は気にせずに書類仕事を進めた。

2017-06-04 19:37:14
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「長谷部くん長谷部くん」「なんだ」「抱きしめてもいい?」「…後ろからなら。あと仕事の邪魔はするなよ」あの日約束した通り、光忠は俺に触れる時必ず一言断りを入れる。「やった」光忠はいそいそと俺を後ろから抱きしめ、しばらく落ち着く位置をごそごそと模索し、俺の肩の上にこてんと顎を置いた。

2017-06-04 19:43:09
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「ふふ、長谷部くん、かわいい…大好き…」耳元でうっとりとそう囁かれ、背中にぞくりと震えが走る。「っ…耳元で囁くな!」「どうして?」不思議そうにそう尋ねられ、「…お前の声は気が散る」答えると、うぐ、と後ろで涙ぐむ気配がしたので、俺は慌てて振り返ってその頭を撫でてやった。

2017-06-04 19:49:06
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「はしぇべくん…」「ああもう!俺が言い過ぎた!だから泣くな。な?」わしわしと頭を撫でると、拗ねたように光忠が唇を尖らせた。「…じゃあ、キスして?」「…わかった。目を閉じてろ」「うん!」そう言ってわくわくと瞼を伏せる光忠に俺は唇を近づけ、キスをしてやった。額に。

2017-06-04 19:53:46
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

それでも光忠は嬉しそうに額を撫でふにゃりと笑み崩れる。「長谷部くんからのキスだぁ…」「泣き止んだか?」「うん。僕もう一生顔洗わない…」「いやそれは洗え。頼むから」本当にこいつ俺の事好きなんだなぁ、と思うと同時に罪悪感でずきりと胸が痛む。 俺達はまだ一度も口づけをした事がなかった。

2017-06-04 19:58:56
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

俺が許可していないのだから当然だが、手を握ったり抱きしめたりするのが精々で、付き合って三ヶ月経っても俺達の関係に特に進展はなかった。それでもごくごく幸せそうに俺の隣で微笑む光忠を見ていると、それでもいいのかななんて思うのだが、このままでいいのかともう一人の俺が問いかけて来る。

2017-06-04 20:02:46
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

光忠も男だ。男の身に発散しなければならない性欲があることも、人間同士の恋愛が肉欲を含む物だということも理解している。きっといつだって、俺が許可さえすればこいつは俺にもっと深く触れてくるのだろう。 だが、俺は変わるのも、変えられるのも、怖かった。結局は自己保身だ。ただのエゴだ。

2017-06-04 20:08:04
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

そんな自分勝手な我儘に光忠を付き合わせている。その自覚はあった。だからこそ、こいつが可愛くて、愛しくて、そして申し訳ない。そんな矛盾を抱えながら、俺は光忠と交際を続けている。 「長谷部くん、大好き」 光忠の笑顔を今日も免罪符にして、狡い俺はずっとその事を見ないふりをしている。

2017-06-04 20:12:19
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

そんなある日のことだった。主が審神者会議に出席するため、近侍の俺が付き添いとして現世までついていく事が決まった。時々ある事だったので俺はいつも通りに行こうとすると、光忠が「駄目だよ、本丸を代表していくんだから、最高にかっこよくしていかなきゃ」と俺の髪型や武装を整える。

2017-06-04 20:25:44
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

俺の武装の紐のバランスを整える、珍しく引き締まった光忠の顔を見てどきりと胸が高鳴る。「…うん、これで完璧」光忠が俺に笑いかけようとして、はたと気づいたように顔を青ざめさせた。「どうしよう…!こんなにかっこいい長谷部くんを見て、よその奴が長谷部くんに惚れちゃったら…!」

2017-06-04 20:28:59