へるげえむアリス・ロンド。第一話『桜花』

はるか @Kurosu_Haruka

言葉を遮るように、花子はわたしを突き飛ばす。倒れた拍子に頭を机にぶつけた。 「いたた……なにするの、花子ちゃん……」 　花子の返事はない。 「花子ちゃん？」 　彼女に視線を向けると、そこには── 「嘘……でしょ？」 #へるげえむアリスロンド

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無惨にも鍾乳石に頭から股間までを貫かれた花子の姿があった。 　花子ちゃん……っ。 　幼馴染の名を叫びたかったが、恐怖と悲しみのあまり嗚咽しかでない。 「ごめん、私が助かるためには二人を殺さなきゃ……」 　佐原は顔に刺さった机の破片を抜きながら微笑む。 #へるげえむアリスロンド

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「ど、どうして？　わたしたち友達だったよね」 「クラスだけの仲じゃんか。殺してもなんとも思わねえっての」 「そ、そんな」 「私の下の名前、覚えてんの？」 「……へ？」 「覚えてるなら生かしといてやるよ」 「え、えっと……佐原……えっと」 「死ねええ！」 #へるげえむアリスロンド

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わたしにも鍾乳石に貫かれるのかと体を強張らせた瞬間、佐原の頭が砕けたスイカのように飛び散った。鮮血と脳漿が、わたしの頬に飛んでくる。 「ねえ、桜」 「あ……あうう」 　倒れた首なし佐原の死体の影から花子が現れた。 「殺らなきゃ、殺られる。でしよ？」 #へるげえむアリスロンド

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「花子ちゃん、どうして無事なの……？」 「まずは花子生存を喜んで欲しかったなぁ」 　苦笑いし、彼女は頭をかく。すると同時に誰かが背後から、わたしの肩を叩いた。 「ひいい！？」 　座わりこんだまま慌てて振り返ると、そこには微笑む花子の姿があった。 #へるげえむアリスロンド

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「え！？　あれ！？」 　慌てて前に立つ花子と背後の花子を何度も見比べる。 「花子が二人ぃ〜っ！？」 　と驚いたのもつかの間。正面の花子は忽然と消え去ってしまった。 「も、もう頭がいっぱいいっぱいだよう！」 「幻を操る力なの」 「幻……？」 #へるげえむアリスロンド

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「このふざけた企画を考えたやつから与えられた力だと思う」 「三人殺せっていう……？」 「そう。殺し合わせるための力」 　背筋がゾッとした。この血塗られたひどい戦いを強いてきた相手にではない。目の前の親友が楽しそうに笑ったからだ。 #へるげえむアリスロンド

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「ついてきて、桜。見せたいものがある」 　花子について廊下を進むと、防火シャッターで封鎖された場所があった。その周りには何人かの変わり果てた死体が転がっている。 「うう……見せたいものって、この死体？」 「違う違う。シャッターについてるポスター」 #へるげえむアリスロンド

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「ポスター？」 　確かにシャッターにはパステルカラーで描かれたイラストと文字が書いてある可愛らしいポスターが貼ってある。 「ここから先、二階への階段？」 「そう。そして、そこから先に書かれてるのが重要」 「三人殺したものだけが通れます……？」 #へるげえむアリスロンド

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さらにその先を読み進めて、わたしは青ざめる。 「夕方までに二階へたどり着けなかったものは非業の死を遂げるであろう……？」 「それ、ひごうって読むんだね。ひぎょうかと思ってた」 　そんなことはどうでもいい。 「三人殺さなきゃ、わたしたちが死ぬ……？」 #へるげえむアリスロンド

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「そだよ。だからみんな狂ったように朝から殺し合いを続けてる」 「そんな……」 　ううん。今は嘆くよりも、 「ねえ、花子ちゃん」 「なあに？」 「今、何時？」 　花子は答える代わりに、わたしの背後を指差す。振り返ると時計が見えた。 #へるげえむアリスロンド

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「三時……？」 「うん、多分午後のね」 「夕方って正確には何時のことなんだろう……」 「わたしの中では五時が夕方かな」 「よ、四時が夕方っていう人もいたよ」 「夕日が見えたら夕方っていう人も聞いたことある」 　季節は四月。日が入るのは五時前だ。 #へるげえむアリスロンド

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「あと一時間強で、三人殺さなきゃ、わたしたちは……」 「多分、死ぬ。だから時間がない」 　花子はわたしの腕をつかみ、強引に引いてくる。 「殺しに行くよ」 「花子ちゃん、待ってよ……っ！」 「なあに？」 「わ、わたし、人は殺せないよぉ！」 #へるげえむアリスロンド

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「殺さなきゃ、桜が死ぬ」 「ど、どうして花子ちゃんは平気で同じ学校の生徒を殺せるの……？」 「わたしには夢があるから」 「夢……？」 「知ってるよね。わたしはバスケで世界を制したい」 「諦めてなかったの……？」 「当たり前じゃん」 　花子を苦笑する。 #へるげえむアリスロンド

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「なら、どうしてバスケ部のない夢桜学園を受験したの……？」 「わたしの夢は一人じゃ叶わないから」 「ま、まさか」 　花子はバツが悪そうに目をそらす。 「約束したよね、二人でバスケの世界を征するって」 「わ、わたしはもうバスケは……」 　気管支喘息。 #へるげえむアリスロンド

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小学六年の夏のバスケ大会。わたしは試合中に喘息が発症。それ以来、激しい運動はできなくなった。 「桜が諦めても、わたしは夢を諦めてない」 「もう無理だよ……」 「わたしにとって夢がすべてだから」 　行くよ、そう呟き花子はわたしの腕を思い切り引く。 #へるげえむアリスロンド

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「桜には三人殺してもらう」 「無理だってばぁ……」 「そうしないと、わたしの夢は永遠に叶わなくなる」 「知らないよ！　そんなの……っ」 「じゃあ、今すぐ桜を殺す！」 「……ひっ」 　殺意剥き出しの表情で様られ、わたしは怯え尻もちをつく。 #へるげえむアリスロンド

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「どうせ死ぬなら、わたしの手で殺してあげる」 「じょ、冗談だよね」 「それで三人。せめて桜の魂は世界につれていくよ」 　氷のように冷たい目。 　……花子は本気だ。 「め、目指せ、世界！」 「うん？」 「夢は大切だよね、花子ちゃん！」 「そうだね」 #へるげえむアリスロンド

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「二人の夢、叶えなきゃ！」 「うん」 「頑張って生き抜こう！」 「そうだね、桜。わたしが守るよ！」 　彼女は優しい顔に戻り、わたしを抱きしめる。 　危なく殺されるところだった。 「とにかく時間がない。わたしが誰かを半殺しにするから桜は、とどめを刺して」 #へるげえむアリスロンド

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「わ、わかった」 「よし。急いで獲物を探そう」 　本音を言うとまったくわかってはいない。正直、生きるためとは言え誰かの命を奪うなんて、わたしにはできそうもない。 　でも時間まで人を殺さず助かる方法を考えよう。 なにか方法があるはずだ。絶対に。 #へるげえむアリスロンド

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【へるげえむアリス・ロンド。第一話『桜花』】終 #へるげえむアリスロンド

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「どうしよう、花子ちゃん！」 「どちたの」 「デスゲームで人の命を大切にしてると、なんだかノリの悪い人みたいに見えない！？」 「でもそれが桜でしょ？」 「次回、へるげえむアリス・ロンド。二話！」 「『超えられない壁！？　そして想い！』」 「平和が一番」 #へるげえむアリスロンド

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「なにやってんの、新主人公！　もっところそうよ！」 「どうしましたのよ、アリス」 「スピーディーにサツガイ、それがへるげえむでしょ！？　なにあのまったり展開！」 「オドレは理由を見つけたら手当り次第に殺してたからのう……」 「しょうがないよね」 #へるげえむアリスロンド

はるか @Kurosu_Haruka

「こ、こんにちは、アリスさん。桜です」 「あなたって地味すぎるよね」 「じ、地味ですか」 「ありすみたいに決め台詞ないし」 「しょうがないよね的な……？」 「まだ誰もころしてないし」 「ひ、人の命を軽々しく扱ったらだめだよ……」 #へるげえむアリスロンド

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「ありすだって命を軽々しく扱ってないよ」 「か、軽々しく奪ってたでしょ」 「だいたい正当防衛から、ころされてもしょうがない理由が相手にあったからしょうがないよね」 「横暴すぎる……」 「桜ちゃん、もう少しノリノリで行こうよ」 「頑張ります……」 #へるげえむアリスロンド