- Jindai_Komaki_
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「はっ……!?」 視界の先には蛍光灯の明かりと白い天井。そして静寂。 「わたし……いったい」 背中の下が硬い。どうやらわたしは並べた机の上で熟睡していたらしい。 「教室? どうして、わたしこんなところで」 通い慣れた場所。ここは夢桜学園。 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 09:47:02起き上がると、黒板の文字が目に入る。 「おはようございます、枝垂桜さん?」 わたしの名前の下には文が添えられていた。 「これから、あなたは『へるげえむ』に参加していただきます?」 へるげえむ? なにそれ。レクリエーションかなにか? #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 09:51:34しかし、その先の文は、わたしの背筋を凍らせた。 「あなたたちの命を狩人から逃げつつ、三人の生徒を殺してください?」 なにそれ。たちの悪い冗談だよね……? 「各階の謎を解き、無事校舎から脱出できればクリアーです……?」 どういうこと? なにこれ…… #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 09:54:43「ひ、人の腕え!?」 黒板の文字を読み進め、視界が教卓にさしかかると、その上にある血溜まりとグロテスクな人の一部が目に入る。 「冗談だよね……!? 冗談だよね…!」 わたしは動揺し、たたらを踏む。 でもこの腕、見覚えが。 「こ、これ先生の腕だ」 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 09:58:06【へるげえむアリス・ロンド。第一話『桜花』】 「この腕のつけてるシャツ……先生の。間違いない」 激しい恐怖が浮かんでくる。どうしたら。まずここから逃げ── 「こんにちは、枝垂さん」 「あ、あなたは……!」 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 10:01:52教室から逃げようと扉へ向くと、そこにはクラスメートの華原美奈子が立っていた。どことなく様子がおかしい。 「枝垂さんは今目覚めたの?」 どうしたのだろう。美奈子の目は、すわっている。 「う、うん。今目覚めたよ」 「三人殺さないといけないんだってね」 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 10:05:56「こ、殺すってなに言って……あうっ!?」 突然、肩をなにかが貫き激痛が走る。 「ごめんなさいね、うまく狙えなくて」 美奈子は泣き笑いを浮かべながら、こちらに一歩近づく。 「動かないでね、今楽にしてあげる」 「これ……華原さんの仕業……?」 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 10:10:28わたしのブレザーは右肩部分に血が滲み、赤黒く染まり始めていた。肩の骨を砕き貫いたのだろうか。激しく痛み、右腕が動かない。 「なにをしたの……?」 「動かないで。また頭を外して苦しめたくないから」 「答えてよ!」 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 10:13:46美奈子は握った拳の親指の上に銀色の玉をのせていた。それを飛ばしてきたのだろうか。 「さよなら、枝垂さん」 「……っ!」 小さく悲鳴を上げて、わたしは目を閉じる。 怖い……っ! 死ぬのは嫌ぁ……! しかし、しばらくしてもなんの衝撃も受けない。 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 10:17:08恐る恐る目を開けると、そこには── 「か……かはっ」 血泡を吹き、両膝をついている美奈子の姿があった。 「か、華原さん!?」 さらに口から血を派手に噴き出しながら痙攣する彼女の胸をなにか棒のようなものが貫いている。 「な、なにこれぇ!?」 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 10:20:35「怪我。ないみたいで良かった」 「花子ちゃん!?」 美奈子の胸を貫いた棒のようなもの。その反対側を掴んでいる少女。彼女は幼馴染の華村花子だった。 「桜。一緒に逃げるよ」 「花子ちゃん、なにがどうなって……!」 「いいから!」 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 10:23:08花子はわたしの手首をつかむと強引に走り出す。 「は、花子ちゃん! どうなってるのぉ……!?」 「三人殺さなきゃ、この学園から出られない」 「そ、そんなの……」 「できないって? そんなこと言ってる場合じゃないよ」 「でも!」 「廊下を見なよ!」 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 10:24:43廊下に出で、わたしは驚愕のあまり足を止めた。 「え……ほんと、なんなのこれ」 そこはわたしの知っている通い慣れた学園ではなかった。廊下は長く伸び、いくつも横道が見える。教室の数も何十倍にも増えていた。 明らかに元の学園よりも広い。 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 10:26:43「夢桜学園は三階建て」 「え……?」 「今いるのは三階」 「そんなわけない! わたしの寝てたのって教室だよ、わたしたち一年の!」 一年の教室は全て一階にある。 「桜。わたしもわたしたちの教室で目が覚めたよ」 「え? 花子ちゃんも?」 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 10:29:32わたしは今飛び出してきた教室を振り返る。 「『そこ』じゃない。三階にあった別の『わたしたちの教室』」 「ど、どういうこと?」 「この場所が普通じゃないってこと」 恐ろしくなり、わたし廊下を見回す。 先が霞んで見えないほど続く窓がない廊下。 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 10:32:36「このヘンテコ三階から降りる条件が三人殺すことなんだよ」 「そ、そんな。窓を見つけて外に逃げようよ!」 「窓の外、見る?」 再び花子はわたしの手首をつかみ、走り出す。 「ちょ、ちょっと花子ちゃん!」 「時間がないの。死にたくないでしょ?」 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 10:36:54見つけた窓の外。その先にはなにもない空間が広がっていた。漆黒の闇。時折虹色に歪む、不気味な空間。 「そ、そんな」 「窓から外には出られない」 「こ、ここはいったいなんなの!」 「それは、わたしにもわから……桜!」 腕を強く引かれ、わたしはよろめく。 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 10:40:03今まで立っていた場所。まさにそこへ鍾乳石のようなものが降ってきた。 「あ、あぶな!?」 花子に腕を引かれていなければ、わたしが── しかし、唖然とする間もなく腕を引かれてフラフラと引き回される。そんなわたしを追うように鍾乳石が降ってきた。 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 13:33:04「ひ、ひいいい!?」 「桜! 自分で避けて!」 「そ、そんなこと言われてもぉ……!?」 花子はわたしの腕を離し、反対の手に持っていた先が縛ってある長い布を振る。 あんなもの持ってたんだ。今気がついた。 「って、それどころじゃ……!」 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 13:37:06なんとか二つの鍾乳石を避ける。すると今度は花子の上に鍾乳石が現れた。 「危ない、花子!」 しかし彼女は微動だにせず、手にした布を石の刃に叩きつける。 「わっ!?」 石は砕け、破片がいくつもこちらに飛んでくる。 「そこだ!!」 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 13:47:47花子の手にしている長い布は近くの教室の扉を破壊し、心地の良い破壊音が響く。 美奈子の胸を貫いたのは、あの布のようだ。 「敵は中にいる! 殺ってくるね!」 「花子、わ、わたしはどうしたら!?」 「石つららに当たらないように頑張って!」 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 13:51:44と言われたものの、一人で廊下に残されるのは心細く、花子について教室に入り込む。 「見つけた、つらら野郎!」 「来ないでええええ……!」 佐原さん……!? 悲鳴を上げたのはクラスメートで、それなりに親しい生徒だった。 花子は布を振り回す。 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 13:54:27耳をつんざくような風切り音が響き、花子は布を佐原に向かって振り下ろす。 「きゃああ!」 布の先端が当たった机が爆発したかのように飛び散る。飛来した机の破片が顔へ突き刺さったものの、佐原は辛うじて布をかわした。 「ちっ。避けないでよ!」 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 13:56:44「花子、待って! 佐原さんは友達でしょ!?」 「先に攻撃してきたのは、こいつだよね」 花子は、砕けな、と呟きながら布を振り上げる。 「待ってってば!」 わたしは花子を抱きしめ叫ぶ。振り下ろされた布は佐原を外れ、壁を破壊し崩した。 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 14:01:14「バカ、桜! 殺らなきゃ殺られる!」 「どうしちゃったの、花子ちゃん。……おかしいよ」 「おかしくなんか」 「花子ちゃんは人を殺せるような人じゃなかったのに……」 「そうしなきゃ桜を守れない」 「佐原さんは友達だよ。話し合えば協力しあって──」 #へるげえむアリスロンド
2017-04-20 14:03:51