梅桃桜。第五話『ひきこもりはゴスロリエンジェル！』

はるか @Kurosu_Haruka

「へ？　わたしが生徒会長のご自宅にお届けもモノですか？」 「ああ。いつもなら副生徒会長の梶原文香に行ってもらってるんだけどなぁ」 「文香ちゃん、今日はお休みですね、黒繩先生」 「そうなんだよ」 　放課後の教室、先生はため息をつきながら、わたしの肩を叩く。 #梅桃桜

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「ま、そんなわけでよろしく頼む」 「生徒会報。こんなもんあったんですね、うちの学校。てゆうか生徒会なんてあったんだ」 「生徒会長が引きこもりでな。主な生徒会活動は副会長による生徒会長の立ち直りへの説得作業なんだ」 「なんつー生徒会ですか」 「凄いだろう？」 #梅桃桜

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「まあ凄いというかなんというか」 「というわけで、頼んだぞ、梅桃桜子」 「いいんですけど、生徒会長の人、海地区住まいですよね」 「なんだよ」 「わたし、思いっきり山地区住みで通学路逆なんですけど」 　なにせ断崖絶壁に部屋がある。 「いいからいけよ」 「えっ」 　 #梅桃桜

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「いけよ」 　肩をギリギリと力強く握られながら頼まれると嫌とはいいにくい。 「わ、わかりました、梅桃桜子、任務了解です」 【梅桃桜。第五話『ひきこもりはゴスロリエンジェル！』】 ────── 「生徒を脅すなんて、なんて先生なのよ」 #梅桃桜

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わたしは冷静に動揺しながら、初めて会うクラスメートの家を訪ねる。海沿いの地区。基本的にお土産屋さんや民宿が多いのだが。 　橋から島の中央にある神社へ続く道にあるひときわ大きなホテル。住所はそこになっている。 「あらやだ、お金持ち？　友達にならなくちゃ」 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

「こんにちはー！　どうも、梅桃です！」 　我ながら軽薄な挨拶をしてしまった。受付にいる仲居さん的な女性に変な顔をされてしまった。 「いらっしゃいませ。お泊りでしょうか？」 「い、いえ、その金沢エマさんに学園からお届け物が」 「え？　お嬢様のお友達であらせられますか？」 #梅桃桜

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「ま、まあ、そんなところですが」 「お嬢様のお友達ご宿泊うううううううううう！！！！！！！！」 「ひい！？」 　突然叫びだした仲居さんに、わたしは肝を冷やす。 「なんだと！！　お嬢様のお友達だと！？」 「文香様以外のお友達だとぉぉぉ！？」 #梅桃桜

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クソ！　なんだこのキチガイ旅館は！　あの先公、めんどくさいから、わたしに押し付けたな！？ 「さあさあ、お通りくだされえええええええ！！！！」 「ひいい！？」 　仲居さんのつばが顔面にかかり、鼻がくっつくほどの距離で叫ばれ、わたしは腰が抜けるかと思った。 #梅桃桜

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あれよあれよと奥の間に通されると、和風の旅館から一転、天蓋つきベッドのあるお姫様風の部屋だった。 「お、おお……女の子なら一度は憧れるプリンセスベッドッ」 　感激して見惚れてしまう。 「さあさ、お嬢様のお相手をしてくだされええええ！」 「まだいたんですか！？」 #梅桃桜

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仲居さんのような人はピシャリと襖を閉めて、激しい足音を立てて去っていく。 　プリンセスな部屋に襖だけがやたらと浮いている。 「あ、あの、金沢さん……？」 　恐る恐るベッドに声をかけても返事はない。 「金沢エマさ…………ぶっ！？」 #梅桃桜

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突然、背後の襖が倒れてきて、わたしは下敷きになり全身に激痛が走る。 　何事だ一体。 「キャハハハハ！　ベッドに寝てると思ったぁ！？」 「お、おもってまじだ……」 　どうやらこの声の主が、わたしを下敷きにしている襖の上に立って、高笑いしているらしい。 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

早くどけないとぶっ殺すぞ、テメェ……とまで喉から出かかったが、必死に作り笑いを決める。 　なにせ、相手は傷心のひきこもり。わたし以上のメンヘラーだ。機嫌を損ねては帰る時間が遅くなりかねない。 「あ、あはは、ごきげんよう……」 「踏まれてるのに笑ってるぅ」 「あはは」 #梅桃桜

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「バッカじゃないの？」 「テメェ、ぶっ殺す……！」 　わたしは力づくで立ち上がり、逆にエマを襖の下敷きにしてやる。 「あははは！　このアホ助がー！　わたしを怒らせるとこういう目に──」 　殺気……？ 　わたしは顔を数センチ横にずらす。 　するとそこには抜き味の日本刀。 #梅桃桜

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襖の下から日本刀で突かれかけたのだ。 　思わず、よろけてわたしは尻もちをつく。 「こいうぅ、エマさまに調子くれてくれるじゃんかぁ」 　白髪に赤い瞳。ゴスロリの少女。彼女は真剣を、わたしの首につきつけている。 　なんだ、この新手のキチガイは。 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

正直、前回のセリカより頭のおかしいやつなんて、この島には存在しないと思っていた。その認識を改めよう。甘かった。許してもらえるなら謝る。しかし、セリカもある意味危ないが、あいつの危なさは命には特に著しい問題を及ぼさない。しかし、目の前のこいつ、金沢エマは違う。 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

目がイッてる上に刀を持ってる。更にいうなら、この旅館で殺されても死体は出なそうだ。遠い海に沈められて魚の餌になりそうな気がする。偏見なら謝る。しかしエマの目を見てると本気で命の危険に── 「ほら、これ。持ちなさいよ」 　鞘入りの別の刀を投げ渡され、わたしは唖然とする。 #梅桃桜

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「誰か知らないけど、せっかく来てくれたんだから殺し合い（アソビ）ましょう」 「は？」 　エマは刀を、わたしの喉に突きつけながら笑っている。なんだこいつ。せっかく来てくれたクラスメートといつもこんなのもしてんのか。文香ちゃんすごいな。いつも生きてるあたり剣豪なのか？ #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

「ま、待って、話し合おう。それに作者がデスゲーム系以外書けんのかって言われてですね、今作では殺し合いはご法度で──」 「殺し合い（あそび）だっつってんでしょおおおおおおおおおおお！」 「やめろ、これは恋愛小説なんだよ、このキチアマ！」 　もはや彼女は止まりそうにない。 #梅桃桜

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これは恋愛小説なのに！ 　──仕方がない！！！ 　わたしは刀を抜き、相手の刀身を刃先で止める。 「牙王魔刄流剣術……奥義『一点止』──」 「な、なんですって……」 「我が剣術は活人術。業は斬っても人は斬らず──」 　彼女の刀を弾き、自らの刀身を鞘へ収める。 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

「妹は拳（けん）で制し、わたしは剣（けん）で征す──」 「な、な、な……」 　──決まった。 「許嫁は、あなたに決定よ！！！」 「は？」 「おめでとおおおございまあああす、おじょうさまあああ！！」 　旅館のみなさんが前後左右の襖をぶち破って溢れ出してきた。 #梅桃桜

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────── 　わたしは角隠しを着せられ、何故か神輿に載せられている。横にはウエディングドレスを着た金沢エマが幸せそうな顔で、わたしに寄り添っていた。こいつ胸が大きいな。いや、そんなことよりなんでわたしが和装なんだ。どうせならウエディングドレスを着せてほし── #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

「そうじゃなくて、なんなのよ、このありさま！」 「腰入れよ、見てわからないのかしら？」 　何故か奥神社へと向かって運ばれている。 「目立つからやめてよ！」 「みんなビビって目をそらしてるから逆に目立ってないわよ。ねぇ？」 「ねぇ、じゃねえよ！？」 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

「お嬢様の輿入れだぁぁぁぁぁ！！！」 「めでてえええなああああ！！！！！！」 「今日は吉日大安だべぇええ！！」 「今日は友引だよ……！！」 　まずい。この旅館の人たち、みんな狂ってる。 「てゆうか、ぐぐったら（上流の家庭の）嫁入り。婚礼。って出たよ！？」 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

「なにが？」 「輿入れの話……！」 「そうよ。輿入れだもの」 「あんた許嫁って！？」 「別に許嫁になった直後に結婚しちゃだめなんて掟はないわよ。ねぇ？」 「ねぇじゃねぇよ……！」 「今日は大安吉日じゃああ！！！」 「めでてえええなぁ！」 「友引だっつってんだろ……！」 #梅桃桜

はるか @Kurosu_Haruka

「トントン拍子で縁談が進んだわ。ねぇ？」 「どこがだよ……！　勝手に進めてんじゃねえわよ……！」 「あなた名前は？」 「名前も知らないやつと輿入れしようとしてたの！？」 「名前は？」 　神輿の上で刀を突きつけられ、わたしは動揺する。 銃刀法違反仕事しろよ！ #梅桃桜