ウィア・スラッツ、チープ・プロダクツ、イン・サム・ニンジャズ・ノートブック #3

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ウィア・スラッツ、チープ・プロダクツ、イン・サム・ニンジャズ・ノートブック】#3

2017-06-08 22:32:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オハヨ!」「ドーモ」「オハヨゴザイマス!」「ドーモ」「オハヨゴザイマス!」「ドーモ」翌朝、コトブキは仏頂面でオフィスへ入ってくる社員たちに笑顔で応対し、オジギを繰り返した。アンキタはその様子にやや面食らった。オレンジ色の花々……サマーキャンドルやコスモスの花瓶も気になった。 1

2017-06-08 22:42:37
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「みなさん、今日のおやつはネオサイタマのオカキ・スナックですよ!」さらにコトブキは、小脇に抱えた業務用袋から小分けのパックに収まったオカキ・センベイを仏頂面の社員たちに手渡していった。「お仕事を頑張りましょう!」「ちょっとアナタね……」アンキタはコトブキの手を引いて廊下に出た。2

2017-06-08 22:46:23
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「そういう事はしなくていい。アナタの仕事は?」「データ入力と雑用です」コトブキは答えた。「アイサツに、付け届けの類いはよく効くと思ったんです。悪のダイカンがそうやります。でも賄賂はよくないので、常識の範囲で……」「ダイカン?」「ニンジャ・サムライです」「わかったわ」 3

2017-06-08 22:52:20
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アンキタはデスクに戻ろうとし、花瓶を見てコトブキに再度尋ねた。「花もアナタ?」「そうです。この場所にはオーガニックの暖かみが無いので、人々の精神のバランスが崩れます。人はもっと自然を大事にしないといけません……少しの工夫で業務の効率が劇的に!」「どこで買った?」「朝の市場です」4

2017-06-08 22:57:52
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「こんなゴミの山の麓に?よく探してきたわね」「容易に見つかります。行商の方は郊外から来てくださっているんです」そういうものか。市場など歩いた事もない。アンキタはマンションと職場の間を、甘い匂いに顔をしかめて行き来する毎日だ。「悪い事をしましたか?懲罰的?」「いえ……まあいいわ」5

2017-06-08 23:04:17
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「良かったです。クビになると就業努力が無になってしまうから……」「そりゃそうよね。でも、付け届けは止めなさい」「わかりました!やる事があまり無くて」「私のほうで見つける」二人のやり取りを見ながら、同じネオサイタマからの出張組であるウォンキ=サンがオカキを咀嚼する。「懐かしい」6

2017-06-08 23:09:28
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「そうね。オカキ、最後に食べたのは……」アンキタは腕を組んだ。ウォンキは首を振った。「いや、違います。それもあるけど、昔は職場で皆でおやつを持ち寄ったり、おいしいベントーの情報交換をしたりしたなァと」「良くも悪くもそういうカイシャだったわね」「明日は僕がおやつを持ってきますよ」7

2017-06-08 23:14:07
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「好きにしたら」アンキタは息を吐き、デスクに戻った。そう、良くも悪くも呑気なカイシャだった。あの暗黒投資家はこのカイシャを、ドアを施錠せずフラフラと外出する家主を見送る空き巣泥棒のように見ていたことだろう。彼女はオカキをボリボリと齧りながらUNIXを操作する。 8

2017-06-08 23:20:58
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その呑気の結果、それまで自我患者を助けるべく誇りをもって働いてきたアンキタ達は、一転、自我患者を搾取する為に働く羽目になったのだ。オカキのショーユ味が染みた。ジリリリ、IRC通信機の呼び出し音が鳴り、反射的にコトブキが走ろうとした。「取って!」アンキタが最寄りの社員を指さした。9

2017-06-08 23:24:56
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アンキタはオカキを食べ終えた。ともあれ、オカキの味とエドゥアルトの乗っ取りに合理的な関係は無い。それとこれとは話が別だ。楽しくやれていたのは、カイシャが強みを持っていたからだ。そのすべてを否定する必要も無い。いつの間にか彼女自身が妙な詭弁に絡め取られていたのかもしれない。 10

2017-06-08 23:32:33
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エドゥアルトは既にムンバイ入りしたという話だ。このオフィスと新規の精製プラントの視察の為に。あのムカつくツラを見るのは屈辱的な説明会以来となる。エドゥアルト。エドゥアルト。「あの野郎!」毒づきが声にまで出た。彼女は遅れて気づき、モニタに呪詛めいて打ち込まれた名前に呆れた。11

2017-06-08 23:38:09
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「サスター!サスター!ヴァスタヴミン!サスター!サスター!」「美味しいお米を食べて、毎日です」「アカチャン……バダ」「スシが……効くよ!」広告音声が乱れ飛び、黄色と黒のツートーンの小型バスが列を為して走行する道路脇、砂埃の中を、アンキタら四人は連れ立って歩いていた。13

2017-06-08 23:49:40
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アンキタは思い立ち、手の空いた者同士でランチに出たのだ。思えばわざわざ食事の為にストリートへ出向くのも初めてではなかったか。味にも注意を払わなくなり、カレースシ・デリバリー業者に頼りきりだった。目抜き通りはやはり賑わう。水の代わりにゴミが詰まった排水路から離れ。 14

2017-06-08 23:54:02
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コトブキは先頭に立ち、三人のネオサイタマ社員を引率するように歩く。彼女はウキハシ・ポータルを用いてこの地を訪れてから、まずは付近を歩き回り、興味の向いた場所に立ち寄り、ゴミの山を眺めたものだ。四人とも、黒いマスクをしている。有害な甘いスモッグの影響を受けぬようにだ。 15

2017-06-08 23:59:27
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コトブキ自身は恐らく影響は受けないが、怪しまれぬように他の三人にあわせた。薄着の子供らは彼らの横をはしゃぎながら走り抜け、行き交うバスには市民が満載され、天井や車体側面にも人々がしがみつく。道路脇に座る者らは心砕けた者達で、特に、サイバーサングラスをかけた直結者が目立つ。16

2017-06-09 00:02:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

直結浮浪者はボックス型UNIXを小脇にかかえ、首筋にLANケーブルを垂らしたまま、サイバーサングラスの表面に「哀れです」「水平」などの電子日本語文字をスクロールさせている。コトブキはアンキタを見やった。上司は目配せを返し、苦々しく頷いた。彼らは自我患者である。 17

2017-06-09 00:07:34
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ニューログラを服用していた者達は、薬価が跳ね上がった事でサポートを受ける事が出来なくなった。まずは貧者がその影響を真っ先に受けるのだ。そしてその次は中流層。正規の薬品はあっという間に富裕層が買占め、更なる値上げを呼ぶ。供給量を増やすことはエドゥアルトが許さない。 18

2017-06-09 00:14:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そしてこれは、全世界で同時に、急激に進行する事態なのだ。立ち寄ったネオサイタマ式のカツ・カレー・スタンドのテーブルを囲み、四人はやや複雑なランチを摂る。「僕らジゴク行きだろうね」ウォンキは溜息をついた。「片棒を担いでるんだから」「そうね」アンキタはにこりともせず呟いた。 19

2017-06-09 00:18:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「気になっているんです」コトブキが尋ねた。「急性重度自我希薄化症というのは、初期症状がありますか?」「どうしたの?」アンキタがコトブキを見た。コトブキは考え込んだ。「やる気がなくなったり……」「"急性"とはいうけど、突然意識がフラットラインする前の兆候はあるわね」 20

2017-06-09 00:21:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「やっぱりおかしい気がしたんです」コトブキは言った。「もともとダメ野郎だったんですが、最近のアトモスフィアに、質的な違いというか……」「何の話?」「雇い主……ア……違いました……知人です。薬価が値上げされた頃と時系列の関係がある気がするんです。きっと、そうです……!」 21

2017-06-09 00:25:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニューログラ服用者?」「今思うと、きっとそうです」「それは何とも」ウォンキの同僚、シモバ=サンが肩をすくめた。「社割がきけばよかったんだけどね」哀しいジョークを呟き、苦笑した。「皆さんも嫌なのに、高く売るんですか?」「カイシャはそういうものなのよ」アンキタは目を伏せた。 22

2017-06-09 00:28:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「でも、やっぱり度が過ぎていますよね?」コトブキは唸った。「考えれば考えるほど、納得できないです!」「シーッ!」アンキタは指を立てた。「乗っ取り野郎はムンバイ入りしてるのよ。全員のクビを気分で飛ばせる(fire)やつなんだから」「カトン・ファイア!」コトブキは息を呑んだ。23

2017-06-09 00:31:58