海を貫く想い

竹村京さん(@kyou_takemura)の書いてくださった、落ちぬい二次です。 今回は世界一チャラついた原潜艦長、長瀬零司の物語。ストイックな潜水艦乗りの世界とチャラついた行為が撒く顛末をご堪能くださいませ! ご感想などは、竹村京さんor#落ちぬいタグへ。 続きを読む
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はじめに

竹村京 @kyou_takemura

#落ちぬい二次 、はじまります。本作は #不知火に落ち度はない の二次創作であり、オフィシャルではありません。意見、指摘などは #落ちぬい タグへお願いします

2017-06-16 23:24:43

本編

竹村京 @kyou_takemura

「やです」 「君、少しは考えているかね?」 「考えました。やです」 横須賀基地の船越地区にある庁舎の一室で二人の男が向かい合っていた。 初老の男は潜水艦隊司令官である中将、壮年の男はある潜水艦の艦長、長瀬大佐であった。拒否の言葉を発したのは長瀬の方である。#落ちぬい二次

2017-06-16 23:27:12
竹村京 @kyou_takemura

「そうは言ってもねえ。潜水艦長ってのは五年も十年も続けるものじゃないのは分かってるでしょう」 「わかってますよ」 「だから、離任する私に代わって潜水艦隊司令官になれという内示があるんですよ」#落ちぬい二次

2017-06-16 23:28:23
竹村京 @kyou_takemura

破格の待遇であると言っていい。艦隊司令は中将職であり、長瀬は大佐、昇任しても少将である。 「ええ。お断りします」 「長瀬君ねえ……」#落ちぬい二次

2017-06-16 23:28:45
竹村京 @kyou_takemura

基本的に、潜水艦長というのは一度任命されたら二度目はない。転属して別の勤務をしている間に将軍に昇任するのが主な理由だが、深海棲艦との戦争にあっては潜水艦長経験者を多く確保しておきたいという面もあった。#落ちぬい二次

2017-06-16 23:30:28
竹村京 @kyou_takemura

「海自の頃から何度も任命された例はあるじゃないですか。俺もそれですよ」 「何度もって、二度が精々ですよ。長瀬君はもう十年近く艦長をやってるじゃないですか」#落ちぬい二次

2017-06-16 23:30:48
竹村京 @kyou_takemura

異動のタイミングで前後するが一度の任期は一年前後、長くても一年半というところだ。にもかかわらず、長瀬は何度も異動や昇任を拒否して潜水艦長であり続けている。 「ええ。お言葉を返すようですが、俺以上に腕のいいドンガメ乗りは海軍にいますか?」 「いないねえ」#落ちぬい二次

2017-06-16 23:31:41
竹村京 @kyou_takemura

潜水艦は深海棲艦に対して有効な数少ない艦娘以外の兵器であるが、その中でも長瀬のスコアは群を抜いている。 「俺を陸に上げるのは軍にとってマイナスですよ」 「君のそのずば抜けた技量で、潜水艦隊全体の指揮を執ってほしいと言ったら?」#落ちぬい二次

2017-06-16 23:33:49
竹村京 @kyou_takemura

「悪い気はしませんけどね。そうなったら俺も潜水艦に乗って連中を追い回しながら指揮を執りますよ」 「無茶苦茶言うね……」#落ちぬい二次

2017-06-16 23:34:42
竹村京 @kyou_takemura

単独行動が原則の潜水艦において、絶対者は艦長である。上位の司令官や幕僚が同乗しても水上艦のように艦長室を明け渡すことはなく、艦の指揮は変わらず艦長をトップとして運用される。#落ちぬい二次

2017-06-16 23:35:06
竹村京 @kyou_takemura

潜水艦長である長瀬こそそれをよく知っているはずなのに、わざわざ横車を押すような事を言うとは、よほど潜水艦を降りる事が嫌だと見える。#落ちぬい二次

2017-06-16 23:37:05
竹村京 @kyou_takemura

「私は潜水艦乗りじゃないので教えてほしいんですがね。何だってそこまで潜水艦長に拘るんですか?」 どこかへらへらとしていた長瀬の目から笑みが消えた。 「あいつらをこの手でぶっ殺せるからに決まってます」#落ちぬい二次

2017-06-16 23:37:27
竹村京 @kyou_takemura

その「手」からは、小さくモーターの駆動音のようなものが聞こえた。かつて乗り組んでいた艦が深海棲艦に沈められた際に、何百人もの仲間と一緒に奪われた腕である。 「わかりました。上には、また、昇任拒否と伝えておきますよ」 「ありがとうございます」#落ちぬい二次

2017-06-16 23:38:29
竹村京 @kyou_takemura

「でも、気を付けなさいよ。昇任や転属の拒否なんてのは普通はあってはいけない事です。人事が気に入らなければ退官。それが軍というものです。いつまでもわがままが通るとは思わないように」 「肝に銘じます」#落ちぬい二次

2017-06-16 23:39:54
竹村京 @kyou_takemura

退室しようと頭を下げかけた長瀬に、中将が待ったをかけた。 「ああそれと。君の我儘を聞いたんですからこちらの頼みも聞いてもらいますよ」 「艦を降りること以外なら何でも」 「よかった。艦娘の対潜訓練の相手をお願いします。詳細は後ほど届けさせますから」#落ちぬい二次

2017-06-16 23:41:13
竹村京 @kyou_takemura

「艦娘の訓練……ですか。しかし原潜と訓練したところで艦娘の役に立つとは」 「あちらから申し込んできたんですから、それなりの目的があるんですよ、きっと。それで、受けてくれますね?」 「ええ、承知しました」 かかとを鳴らして礼をし、長瀬は司令官室を退室していった。#落ちぬい二次

2017-06-16 23:41:50

竹村京 @kyou_takemura

数日後、本土から比較的近い太平洋上に設定された訓練海域。その水面下を潜水艦は進んでいた。 「間もなく艦娘との訓練海域に入る。若い女の子とキャッキャウフフムーチョムーチョだぞ、喜べお前ら」 艦内放送で長瀬の命令が響く。既に全員が戦闘配置についていた。#落ちぬい二次

2017-06-16 23:43:19
竹村京 @kyou_takemura

設定された訓練海域を目指して長瀬の潜水艦と相手の艦娘たちは別々に進出し、開始時間になったらそれぞれ演習を開始する。潜水艦は艦娘を探して攻撃し、艦娘は潜水艦を探して攻撃するのだ。 「よし、そろそろ時間だ。警戒を厳とせよ」#落ちぬい二次

2017-06-16 23:45:03
竹村京 @kyou_takemura

それからしばらくは動きがなかった。潜水艦側は原則としてパッシブで探知するため、艦娘側が目立った音を立てない限り探知できない。曳航アレイを繰り出し、広く音を探っていた。 「ソーナーに感。艦娘のアクティブと思われる」#落ちぬい二次

2017-06-16 23:45:38
竹村京 @kyou_takemura

ソーナーのディスプレイにはほぼ真正面の位置にアクティブソーナーの音源が表示されていた。 「この音源をエコー1とする。発射管1番から4番、訓練魚雷装填。潜望鏡深度」 襲撃前の最終確認として、潜望鏡による目視確認のための浮上を命じる。#落ちぬい二次

2017-06-16 23:47:10
竹村京 @kyou_takemura

「290度より水上航走音。艦娘と思われる」 二秒ほどの沈黙。長瀬が呟いた。 「……待てよ」 副長が長瀬に注意を向け、命令を待つ。 「浮上中止。面舵20、5番6番音響デコイ装填」 副長が復唱し、各所に下命してからその意図を尋ねる。#落ちぬい二次

2017-06-16 23:47:41
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