「#9「望とノゾム②」　＜フォビドゥンフォレスト５話「選ばれし者、選ぶべき者」＞

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2017-02-05 01:03:33

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フォビドゥンフォレスト５話「選ばれし者、選ぶべき者」 「#9「望とノゾム②」

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「涼ちゃん、昔の卒業式の資料ってまだデータ化してなかったっけ？」 「そうだな…」 金枝先輩の質問に、藤宮先輩がデータ化済みの目録を捲る。生徒会では、毎年恒例の行事を中心に２・３年前から関連資料のデータベース化が始まっている。主に後輩が参考に出来るようにする為だ。 1

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開校から２０年にもならねぇ歴史の浅い学校とはいえ、本気で取り組むと結構な作業量になる。今の進捗は目標の半分ってところだ。最優先は今年の記録を残すことで、その時に参照した過去の文書をついでにデータ化し、余裕がある時にそれ以外もやっていく感じだ。 2

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会長は在学中に完了させたいそうだが多分厳しい。任期は後半年だし、５月の選挙の後は引き継ぎで精一杯の筈だ。会長なら受験は推薦で一発合格かも知れねぇが、卒業準備もある。データベース化は、俺が卒業までに終わらせるつもりだ。次の選挙で俺がどうなるかは自分でも分からねぇけどな。 3

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作業の流れとしては、何かの行事の時にはまずデータ化済みの過去数年分を参照しながら一度最後まで作る。その後でもっと古い資料を参照しつつデータに落とし、並行して今回分を修正するのがいつものやり方だ。古いのも役には立つが、去年や一昨年のが一番参考になるからな。 4

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「確か…ああアレだ。」 藤宮先輩は俺の後ろの棚の最上段を指差した。段ボールの一つに「未処理　卒業式関連」と書かれている。今ちょうど先輩達は今年の卒業式の書類を作っていたところだ。一通り終わったから古いやるのデータ化処理もやるんだろう。 「俺、取りますよ」 俺は立ち上がった。 5

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「すまん、頼む」 藤宮先輩の言葉を待たねぇうちに俺は棚に近付く。 「あっ片桐さん僕が取りますよ！」 鳩寺が勢いよく立ち上がって俺の方を向いたようだ。椅子が倒れる音が聞こえたんで俺が振り向くと、鳩寺が慌てて椅子を起こしている。 「いや、別にいいぜ」 俺は棚に向き直る。 6

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俺は少し体を伸ばして箱に手を掛ける。俺より背の低い鳩寺だと踏み台を使うかジャンプしなきゃならねぇんだがら俺に任せりゃいいのに。俺は箱を俺の椅子に一旦下ろす。 「運びますよ！」 椅子を直した鳩寺が手を伸ばしてきた。 「いやいいって…」 俺は少し呆れ顔だったと思う。 7

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この箱は大して重くもねぇ。多分１０キロもない。そもそも先輩の所に持ってくだけだ。 「じゃあ片側を持たせてください！」 「かえってやりにくいだろ！」 両腕で抱えられるサイズだし、そんな真似をされるとぶっちゃけ邪魔なくらいだ。 8

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「はい…」 鳩寺が今日一番の俯きを見せた。あと一息で立位体前屈になりかねねぇ程の俯き加減だ。 「ハル…」 「片桐…」 恵里や久浦、挙句に先輩達まで俺に非難がましい目を向けてくる。朝来はロッカーの横をぼうっと見てる。よし。お前はそのままでいてくれ。 9

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「片桐…良くないんじゃないか」 先輩が俺を窘めてきた。やめてくれ。俺がイジメをしてるかのような気分になるだろ。俺は持ち上げたダンボールを鳩寺に持たせた。 「…頼む」 「はい！」 満面の笑みがまぶしい。鳩寺は先輩達のところまで恵里の後ろを通って走っていった。 10

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軽い筈の荷物だが、小さめの体格で無駄に走ったせいで途中二度ふらついていた。コレはコレでイジメをしてる気分だ。どうすりゃ良かったんだよ。鳩寺は先輩達に礼を言われ、恵里に褒められて帰ってきた。 「ただいま戻りました！」 鳩寺は上目遣いで俺を見上げてきた。 「お…おう」 11

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一仕事終えたクワガタみてぇな…つっても伝わらねぇか…フリスビーを取ってきた犬を彷彿とさせる顔だった。 「あ、ありがとうな…」 俺は狼狽えながらも礼を言った。 「はい！恐縮です！」 恐縮すんなよ…箱一つで…。会長以外だと俺に懐いてくるんだよなコイツ…何でだ？ 12

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俺は思い切って本人に聞くことにした。 「鳩寺…何でお前、俺にくっついてくるんだ？会長ほどじゃねぇにしても…」 鳩寺は瞬きをしてから意外そうに言った。 「片桐先輩は…先輩達の中でも早い内に、僕のこと名前で呼んでくれたじゃないですか？」 「え？名前で？」 13

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中学生の後輩はだいたい苗字で呼んでる筈だがな…。現に今も鳩寺と呼んでる。俺はこれでも人の呼び方には悩む方で、例えば会長相手でも「佐祐里さん」との呼び分けに悩むくらいだし、新司も本人相手だと名字で呼んじまうくらいだ。コイツを望、と名前で呼んでたら覚えてる筈なんだが…ん？ 14

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「はい…覚えてませんか？望って呼んでくれたじゃないですか…またその呼び方にして頂けると嬉しいんですが…」 「のぞむ…」 「はい！」 「いや今のは違う」 俺は床の方に顔を向けながら、開いた片手を鳩寺の方に突き出す。ある気配を感じて右の方を向く。さっき朝来が見てた方だ。 15

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さっきの棚の右隣、賞状や写真のショーケースの側面の上の方を俺の仲間のコクワガタ、ノゾム…こと赤井望が歩いていた。俺は顔の横を汗が伝うのを感じた。もう察してくれた奴もいるだろうが、多分間違いねぇ…。鳩寺の奴、俺がどっかでノゾムを呼んだのを自分のことだと勘違いしちまったんだ…！ 16

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