-異聞『絶望ノ極大混沌再来期』- 死なずの焔鷹&黒矢流星
不幸中の幸いと言えば、戦場が広かったおかげで途中シアンとはぐれ、自らの死を彼に知られることなく終わった事だろう。 名乗らず喋らず死体に戻った男を皇帝邪紋が気に留めることもなく。 シアンにその事実は伝わらず、ただ戦場で行方不明の生死不明になったという事実だけがシアンの手元に残った。
2017-06-10 02:14:29そして、数週間が過ぎ。 ウリエルが死体のまま蜥蜴魔境から振り落とされ大地のどこかに転がっている間に、シアンは条約の『旗』となり、新たなる盟主として立ち上がり、民を、英雄達を鼓舞していた。 その傍らにかつての友の姿は無い。
2017-06-10 02:16:57一方のウリエルは、死体のまま朽ちていこうとしていた。『庭』ならばいざ知らず、彼が転がっているのは普通の地面。時間が進むにつれ死体は腐敗し、跡形もなく骨へと還るが定め。 ――の、はずだった。 幸運にもその場所に、ある魔境が現れるまでは。
2017-06-10 02:20:58@gczetubou 【名前】ウリエル=トレーフル 【所属】条約 【クラス】君主 【戦功】- 【SP】- 【備考】異聞本編未参加 よろしくお願い致します。 #GC異聞決戦レイド参加
2017-06-10 10:14:44復活の魔境
「お兄様」 黄泉への旅路を歩く最中、マヌエラに会った。 記憶の中の姿よりずっと成長して美しくなった彼女は、しかしウリエルの姿を認めると悲しそうに眉を寄せて、その胸へと抱きついた。 「まだ此方に来てはいけないわ、お兄様」 頬に手を添えて、見上げ、少女は言う。
2017-06-12 09:15:49「お兄様にはまだやることがあるでしょう」 だから、戻って。 そう少女が言う。 「俺はお前と一緒にいられればいいよ」 不思議と自分の意志で自分の言葉を紡ぐことが出来た。これほど自由に心と身体を動かせるのはいつぶりだろう。 「駄目よ。お兄様は、まだ死んではいけないの」
2017-06-12 09:18:11「お兄様」 「でも、俺はマヌエラさえいれば」 「ユベールさまや、シアンさまはどうするの?私のために置いていくの?」 「……」 「お兄様は……私の愛したウリエルお兄様は、そんなことしないわ」 妹を想う姿には嬉しそうに。 死者を想う姿には悲しそうに。 泣きそうに少女は笑う。
2017-06-12 09:24:44「私の大好きなお兄様。私からの最後のお願い、聞いてちょうだい」 ぽう、と、少女の胸から手元へ光が灯る。 「貴方の力は、貴方の生命は、今ここで、この世界で生きている人のために使ってあげて」 愚かにも復讐に狂い、その果てに生命を落とした馬鹿な妹にではなく。
2017-06-12 09:29:26マヌエラが、手に光を灯して差し出した。真紅と金の聖印が光っていた。 「今度は――私がお兄様に、未来を託す番」 ウリエルは、迷った。 彼の中ではずっと妹が一番だった。生きていても死んでいてもそれは変わらない、絶対の基準。 でも、ユベールやシアンや、あの世界に生きる人々達。
2017-06-12 09:39:43彼等を見て、己の心が軋んだのも確かで。 迷って、迷って、迷い続けて。 「……分かった」 最後の最後に、兄は。 妹より、世界を取った。 「お前がそこまで言うなら、俺はお前の愛した世界を護ろう」 マヌエラが微笑んだ。 昔と変わらない、優しい笑みだった。
2017-06-12 09:44:03世界に光が溢れ出す。 苛烈な雷とも、無慈悲な業火とも違う、優しく人を暖める焔の光が二人を包む。 そうして焔の向こうにマヌエラの姿が掻き消えた。 「マヌエラ!」 手を伸ばし、けれど届かず。 遥か遠くの彼我の岸へ。 遺された男は独り。 唇を噛んで、背を向けた。
2017-06-12 09:48:29目を覚ます。 長く固い地面に転がっていた身体は酷く凝り固まっていた。 しかし、夢から醒めたことで、男は自由になっていた。 魔法師の呪いも。 死体ながら動く終わり無き末路も。 どちらからも解き放たれて、自我のままに肉体を操ることができた。
2017-06-12 09:56:45「……」 起き上がり、身体を確かめる。 朽ちかけていた肉体は完全に元に戻り、顔面にあった大きな火傷痕も消え去っていた。あらゆる呪縛も失われ、体温は戻り、意識ははっきりしている。 「ああ、」 完全に、生きている人間の肉体。 完璧なる蘇生と復活。 奇跡が成しえた最後のチャンスだった。
2017-06-12 10:00:57掌に光を灯す。 灯ったのは、暖かな焔の鷹の紋章。真紅に輝くそれは、邪紋ではない。 紛れもない聖印だ。 「俺は」 今度こそ。この力で。 「また死に損なったんだな」 妹の護りたかったものを、護ろう。
2017-06-12 10:03:34幾度も死に損なう。 まだその時では無いと言わんばかりに。 焔の中から無数に死んでは生まれ変わる不死鳥のように。 焔の騎士は、またも死に、そして生きるのだ。
2017-06-12 10:05:55#死なずの焔鷹 先ほどの一連の夢が、己の復活に何かしら関係があるのは確かだろう。僅かに混沌の残滓が感じられる。恐らくは、魔境。 元々死に近い場所にいたのだ。生死の境で妹に会った。 それが指し示すのは、つまり。 「マヌエラは……」 妹は、既に彼岸の彼方にあり。
2017-06-12 10:27:40おそらくこの世界の誰か――反英雄たる存在に、殺されたという事実。 ぐ、と拳を握り締めた。怒りと悔悟。 結局自分は守れなかったのだ。大切な、一人の妹を。 そして、自我の無い間の記憶。 ユベールもまた、喪われた。唯一悪に奪われた。 「くそっ」 自分は無力だ。何もかもが遅すぎた。
2017-06-12 10:32:01だが、まだ希望はある。 シアン。ユベールが遺した忘れ形見。たった一人この世界に取り残された、在りし日のブールモンの民。 「俺がアイツを支えねぇと」 随分と無理をしていたように思う。多くの混沌を取り込んで、人の理から離れようとしていた。
2017-06-12 10:34:23