14年と4年と再会
―――――――――――― . 雲も無く 風も無い 天の星には届かず 地からは遙か遠い 虚空を裂いて聳える塔のてっぺんに 空っぽの玉座がありました
2017-06-12 21:23:49塔の周りは茨で覆われており 誰ひとり何ひとつ寄せつけません 時さえ凍てつかせるような 真空の温度は在るもの全てを拒みます
2017-06-12 21:24:03玉座は空です 王冠がありました 王の錫杖がありました 王の剣がありました 王の定めた法がありました この国の全ては王のものです
2017-06-12 21:25:38それでも全ては王のもの 此処は王の御座 王が臨むは 地の彼方に天の果て 王が望むは 生の輝きに死の爪痕 王が希うは 世界の終わり
2017-06-12 21:26:40観客は既に無くとも 永遠に帰らぬとしても …………………………………… ………………………… ……………… …… #虚空塔希終譚 ――――――――――――
2017-06-12 21:28:14問うた。 お前は私の知るお前であるのかと。 「私は私だよ」 この4年間で“変わって”いないのかと。 「変わらずにあるものなど存在しないよ」 その軽薄な微笑は確かに、私の知る男のものであった。
2017-06-12 21:30:03続けて尋ねた。 既に深く庭に埋もれた地まで、危険を冒してまで足を運んだのは何故か。 反英雄の脅威は恐らく三者とも健在であり、満足な運用は望めぬというのに。 私が、必要なのかと。
2017-06-12 21:30:37「反英雄と戦うんだ。 此方としても全力を尽くさなくてはいけないだろう? だから、君も戦うんだよ。 君は私のものなのだから」 予想はしていた。 だが、二つ返事の承知はできない。 そんなものに付き合う必要などない。 大陸外にでも、何でも逃げるべきだ。 そうすべきだ。
2017-06-12 21:30:58「嫌だよ」 端的な否定。 「確かに、このまま君の存在を秘して、反英雄の力が弱まるのを待つ方が賢明だ」 部分的な肯定。 「条理の内においては、君はとても強い。反英雄さえ退けられたのなら、移動型魔境を喰らって、ともすれば以前より力をつける事もできるだろう」
2017-06-12 21:31:34「でも、私は戦える機会があるなら、戦ってみたいんだ。 それにほら、君に全力を出させる機会なんて今を逃したら、数百年後か下手をしたら数千年後の話じゃないか」 楽しそうに、笑う。 いつものように。
2017-06-12 21:32:11咎めた。 そんな本気など出す必要はない。 出すべき時、出さなくてはいけない時ではない。 我々にとっては。 必要経費以外の消費などすべきではない。 浪費どころか、今まで積み重ねたものに対する冒涜だ。
2017-06-12 21:33:06「誰もが皆、全身全霊を掛けて戦っている。 それなのに、私だけベットしないというのはアンフェアだろう?」 理不尽に掛けられた秤の上。 偏らせる事こそがある種の報い。 ならば 何にも報いない事は、ある種の公平なのだろう。
2017-06-12 21:33:16「そして、私の所有するものなど 私自身以外には たったひとつしかないじゃないか」 そう、所有するのは私だけ。 何ひとつ近づかずとも済むように 何ひとつとして近づけさせない為に それでいて全てを満たせるように 望む全てを揃えてきた。
2017-06-12 21:33:56「選べるのは常にたったひとつだ」 人差し指を立てて。 「私が私として歩んできて、 存在して、 そして進んでいく軌跡はたったひとつ。 私はその唯一無二の軌跡を愛している」 折り曲げて。
2017-06-12 21:34:35「あるかもしれなかった未来を夢想するのもまた楽しい」 嗚呼。 全く。 「けれど、 ――あの日、ああしていれば なんて “選ばなかった後悔”に囚われるのは 私にしてみれば、つまらない」 何かを想う事すら出来ない癖に。
2017-06-12 21:35:29「あっ、それもそうだね。 うん、だからこそかな」 失念したというような、素振り。 失する念も無いのに。 「私には心が無い。 故に真も無い。 表出し、残された結果だけが、 私を語る全てだ。 だからこそ、妥協はしたくないし、虚飾は不要だよね」
2017-06-12 21:37:02「私は今が一番好きだよ。 だから、ずっと今この瞬間が最高なのだと言う為に、 常に一番選びたいものを選ぶ」 なんて、幸福で傲慢な王だろう。 「私は君と一緒に、 全力で戦ってみたいな。 そして、その先が見てみたい」 なんと酷い、人だろう。
2017-06-12 21:37:29「私が君に望むのは、 いつもと何にも変わらない」 . . 「私の願いを叶えてくれ給え」 あの日のように。 男は手を差し出した。
2017-06-12 21:37:57そうだろう。 何せ、自分の魂さえ、 こんな不確かなものに吹き込んで 無くしてしまったのだから。 それによって生まれた私が 刹那的に掛け捨てられるのなど、 当たり前の事なのだ。
2017-06-12 21:38:28