【隻腕の墓標】第五話

0
前へ 1 2 ・・ 9 次へ
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-26 深海棲艦化した高雄と、頭を失った摩耶が、力を失い重なり合うように倒れた。一瞬で二人の命が失われた。一同が絶句し、悲鳴を上げた夕立はその光景に気絶。 そして金剛は、

2017-07-18 22:42:09
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-27 「ああぁぁあぁぁぁぁあアァァァァァァァ!!!!!!!!」

2017-07-18 22:42:14
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-28 ぐぼぉ、と金剛さんが嘔吐する。胃液と夕食の残渣物の混じった、酸性臭が拡散された。 私はその光景を、静かに見つめていた。

2017-07-18 22:42:30
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-29 「摩耶ァァァァ!摩耶ァァァァァァァァ!」 悶えて、両手を伸ばして、もう伸びないのにまた伸ばそうとして、また嘔吐する。金剛さんの顔は吐瀉物まみれだった。吐瀉物まみれになりながら、また絶叫して、泣いていた。

2017-07-18 22:42:51
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-30 「ごめんなさい…」 なんて哀れなのだろう。なんて可哀想なのだろう。ベッドの上の金剛さんは、とっても醜く歪み、辛そうな顔をしていた。 その顔を見ていると、私の胸もぎゅっと締め付けられる思いだった。

2017-07-18 22:43:02
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-31 藻類基地に所属されてから、もう半月が過ぎた。初めての出撃からもう2週間。その合間に何度も出撃があった。 しかしその間、金剛さんの絶叫が止むことは1夜としてなかった。

2017-07-18 22:43:26
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-32 慣れたもので、金剛さんがひとしきり暴れて落ち着くまで、私は隣のベッドから眺めていた。既に様子見ですらなく、眺めるだけになっていた。 こうなった金剛さんは、落ち着くまで悶え続ける。

2017-07-18 22:43:37
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-33 以前は何度か、駆け寄り、起きるように身体を揺すったこともあったが、全て効果がなかった。 だから、今は割り切ることにしていた。これが、金剛さんの背負ったものの重さなのだと。私は右腕と"前の"提督との思い出を抱えているけど、金剛さんはこれを背負っているのだと。

2017-07-18 22:43:47
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-34 金剛さんが落ち着いたタイミングで、私は金剛さんの汚物処理にかかる。手慣れたもので、動揺も迷いも無駄手間もない。 顔を拭いて、枕カバーも新しいものに変えてから、私は改めて眠りにつくのであった。

2017-07-18 22:43:54
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-35 おはようございます。今朝も良い天気です。 南西海域は亜熱帯なのもあり、今日も湿度はとても高いです。突然スコールが降ることもありますが、日常茶飯事なので、降ったら雨宿りをするという考えで今日も生きてます。

2017-07-18 22:44:23
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-36 そんな今日の私の格好は、上半身タンクトップで下は半ズボンだった。最近、出撃以外はずっとこんな感じである。 藻類基地に赴任し、初出撃から帰還してからの、毎日の日課に新しいトレーニングが追加された。 即ち、右腕の訓練である。

2017-07-18 22:44:29
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-37 思えば、これまで片手腕立て伏せやランニングくらいしかろくにやっておらず、右手を鍛えることを私は放棄していた。腕が上がり切らないのには違いないが、盾を装備して腕を全く上げることが叶わないのは論外だと、結論づけた上での判断だった。

2017-07-18 22:44:48
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-38 軽くストレッチからの外回りランニング。片手腕立て伏せを済ませると、私は鳥海さんの工房から借りたお手製ダンベルを、右手に握った。 無論、握りきれずに落としそうになる。しかしこれでもまだマシな方だった。初日は持ち上げることすら叶わなかった。

2017-07-18 22:45:01
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-39 「理想は、このまま上がる高さまで振ることなんですけどねー」 金剛さんが大剣の訓練をする広場で、一人呟く。 まぁ段階を順に上がろうと決めていることなので、悲観はしない。 まずはちゃんと保持できることから……あ、落とした。

2017-07-18 22:45:09
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-40 落としたら、筋肉を休める。深呼吸をして、消耗した筋繊維に酸素を抽送。 そして再開。それを何セットも繰り返す。

2017-07-18 22:45:21
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-41 そうこうしていると、そのうちに、 「Good morning,ハマーン」 金剛さんが起きてくる。 「おはようございます」

2017-07-18 22:46:05
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-42 「いやー、毎晩ゴメンネ」 とんでもないです、というやり取りも、もはや日課となっていた。 初めは本当に申し訳なさそうにしていた金剛さんも、最近は感謝の面を見せてくれるようになった。進歩かな、と私は一人嬉しくなる。

2017-07-18 22:46:15
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-43 やっぱり、起きている間くらいは、金剛さんにも笑顔になってもらいたいから。

2017-07-18 22:46:23
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-44 「さて、やりますか」 背負っていたリュックを降ろし、腕をブンブンと振り回して、金剛さんは鉄板増設鈍重竹刀を振り回す。やはり竹である意味はない。 ……訳ではなく、金剛さんはそれらの鉄板をパージして、もとの竹刀に戻した。

2017-07-18 22:46:30
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-45 「手間になるのですから、最初から竹刀でいいじゃないですか」 「分解と組み立ても鍛えることに繋がるからね。確かに面倒なんだけど、訓練の一環ってことで」

2017-07-18 22:46:40
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-46 藻類基地としての初出撃の後。 私は金剛さんに頼み込み、朝の訓練を一緒に行うことになった。 金剛さんはこれまで一人で素振りをしてきたので、こうして対面でトレーニングをするのは初めてだし、願っても無いことだと快く受け入れてくれた。

2017-07-18 22:47:14
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-47 私と金剛さんが行なっているのは掛かり稽古というものだ。ひたすらにお互いかかってゆく、実戦形式に近いもの。スタミナの続く限り、差し込める限り、限界を超える思いで、互いに挑み続けるというもの。

2017-07-18 22:47:21
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-48 金剛さんは竹刀による剣術。私は、 「また改良して貰ったのデスカ?」 「はい。更に軽量化できないかなと思いまして」 仕込みナイフ付きの手甲の、特訓をしていた。

2017-07-18 22:47:29
前へ 1 2 ・・ 9 次へ