【隻腕の墓標】第五話

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ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-1 その日の金剛も、いつもと同じように夢を見ていた。

2017-07-18 22:36:32
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-2 毎晩のように見せつけられる光景だが、到底見慣れるようなものではない。 夢は幻覚でありながら、金剛を容赦なく傷付け、心を抉り取る。

2017-07-18 22:36:47
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-3 言うなれば、黒歴史めいたアルバムを見せつけられるようなもの。もっとも、それは金剛による殺人の記憶に他ならず、黒歴史とは程遠い汚れた記憶のリフレインだった。

2017-07-18 22:36:57
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-4 「目を覚ませ金剛!」 摩耶が金剛に向けるのは剥き出しの敵意の目。その目がとても痛かったことを、金剛は今も記憶している。

2017-07-18 22:37:06
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-5 「目を覚ますのは貴女デス、摩耶。タカオの姿を落ち着いて見るのデス。 摩耶、そこにいるのは"タカオだったもの"。彼女は墜ちたのです。もう、それは深海棲艦デス」

2017-07-18 22:37:17
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-6 丁寧に選んだ言葉も、しかし摩耶には届かなかった。 「……砲身を高雄に向けるんじゃねぇ」 「下ろすことはできない。摩耶が身を呈して庇おうとしてるそいつは、もうenemy。ここで私が下ろして、代わりに誰かが襲われたらどうするの」

2017-07-18 22:37:37
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-7 「ここに居る誰かが沈むかもしれない。me、夕立、鳥海、そして摩耶、貴女も。味方誰かが殺されるかもしれない。 なら、私は35.6連装砲を下ろせない」 「……なんでその中に高雄がない」 「摩耶、落ち着くっぽい…」 「夕立は黙ってて」 「ひっ」

2017-07-18 22:37:53
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-8 ああAAAhaaaaa!!! 響くそれは獣の咆哮。 身体を掻き毟り、血を滲ませ、慟哭をあげる人ならざるものの哮り。

2017-07-18 22:38:09
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-9 摩耶を取り囲む光景。 摩耶は高雄"だったもの"を庇おうと、金剛の砲身の前に立つ。それを鳥海と夕立が手出もできず見守っていた。 金剛の中で焦燥感が募ってゆく。時間がない、もう余裕はない。仲間割れしている場合ではない。

2017-07-18 22:38:16
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-10 高雄の深海棲艦化の進行は著しい。今にでも牙を剥きそうだった。 このままでは本当に、誰かが…… 「高雄……?」

2017-07-18 22:38:23
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-11 均衡は摩耶の背後から崩れた。 ぽん、と。 それはごく自然な仕草だった。高雄の手が、ゆらりと摩耶の肩に伸びたのだった。

2017-07-18 22:38:32
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-12 ゆらりと伸ばす幽霊めいた腕の動きに、生気はない。 しかし摩耶の肩に手を乗せた高雄のその仕草は、摩耶の姉、艦娘としての姿が確かに重なった。

2017-07-18 22:38:39
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-13 既に体は既にドス黒く変色し、触手のように戦慄くオーラが身体を包み込んでいた。 髪も白く変色し、悲鳴をあげるように悶える帽子が、駆逐艦イ級を想起させた。

2017-07-18 22:39:01
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-14 かたや艦娘、かたや深海棲艦の風貌。 しかし明らかに姉妹のやり取りの光景が、伺えた。 伺えてしまった。

2017-07-18 22:39:10
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-15 深海棲艦化は完了してしまったのか? 金剛の胸中でその疑問が浮かぶより先に、あまりにも高雄の摩耶の肩に手を乗せる仕草が自然だったため、金剛の中で油断が生じてしまった。

2017-07-18 22:39:20
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-16 「た、高雄?高雄!?無事なのか!?」 摩耶が期待と懇願を込めた声で振り返る。 その刹那。

2017-07-18 22:39:29
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5-17 ごきぃ。 摩耶の腕がちぎれた。 タカオだったもののが爪を立てると、指ごと摩耶の肉を貫き骨に到達し、そのまま万力で捻られたように、摩耶の腕は肩から分離した。

2017-07-18 22:39:43
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-18 「ギャアァァァァァァァ!!!!!」 摩耶の悲鳴が引き金となった。 限界まで張りつめていた緊張が、見い出せてしまった姉妹の姿に解かれた反動は、爆発を生む原動力となった。

2017-07-18 22:40:08
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-19 艦娘各々の反応は違った。 鳥海は呆然として動けなかった。 夕立は凄惨な光景に悲鳴をあげた。 動いたのは、金剛だけだった。

2017-07-18 22:40:17
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-20 弾き出されるような速度で金剛は地を蹴り、一気に摩耶をタカオから引き剥がした。艤装の砲身は、摩耶を失ったタカオに向けられている。 「good night,タカオ」 金剛に迷いはない。 深海棲艦と戦う時と一緒。照準を合わせて撃ち倒すのみ。

2017-07-18 22:40:31
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-21 その迷いのなさが、金剛の苦悩の引き金となると知らずに。

2017-07-18 22:40:44
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-22 「やめろぉぉぉぉ!!!」

2017-07-18 22:40:53
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-23 金剛は気づかなかった。引き金を引き、高雄だったものを終わらせるために全神経を注いだ彼女は、その腕を振りほどく摩耶に気づけなかった。 金剛が気づいた時には、金剛の目の前には鮮血の花が咲いていた。 そして更に時遅れて、摩耶がタカオを庇おうとして飛び出したのだと気がついた。

2017-07-18 22:40:59
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-24 摩耶は即死だった。35.6センチの砲弾が頭部に直撃したのだから無理はない。 そして頭部という艤装もない脆い部位に直撃したのだから、防げる道理もない。摩耶の頭を砕いた砲弾はそのまま貫通し、タカオの胸に吸われてタカオの命も散らした。

2017-07-18 22:41:21
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

5-25 「あ……」 ゆっくりと摩耶の体が倒れる。瞬きすら許さないスローモーションが、金剛の網膜に焼き付けられる。上顎を失った口腔から吹き出す血糊と、霧散する脳髄脳漿の飛沫が、映写機のような金剛の頭に刻みつけられる。

2017-07-18 22:41:30
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