ワトソンの念頭にある男性性の問題と日本語圏でいう「弱者男性」問題とはズレてますよねという事
大変に今更ながらワンダーウーマンの日本でのタイアップ曲について知ったわけですけれど「そもそもあんなのフェミじゃない!」というフェミと「いいやそれでもフェミだ!」というフェミとが侃侃諤諤やってる映画について私たちはどこまで後退した地点から議論を始めなくちゃいけないのか感が半端ない。
2017-07-28 13:38:56エマワトソンの件、ワトソンが「自分の弱さや繊細さを否認し必要な助けを求められずに追い込まれる男性」を念頭においているのに、「自分こそ弱者だから面倒をみろ!と強硬に主張する男性」が自分たちこそ呼びかけの対象であると誤解したところが、そもそも根本的にすれ違っているのでなかろうかと。
2017-07-29 08:43:280. エマワトソンの件、かなり今更などうでも良い話のはずなのですが、上記ツイートに対して「フェミニズムにとって弱者男性問題はどうでも良いってことなんですね」みたいな反応があるようなので、一応書いておきます→
2017-07-31 23:17:131. 上記ツイートのポイントは、ワトソンの念頭にある男性性の問題と日本語圏でいう「弱者男性」問題とはズレてますよねという事。前者はここ goo.gl/2t3Wy7 の連ツイで述べたいわば暴力的男性性、後者は「女性にモテる男性性」の話で、文脈が大きく異なる。
2017-07-31 23:19:112. 英米では、この「暴力的男性性」はミドルクラスでも大学や職場での性暴力やDV、あるいは世俗的失敗に耐えられない自死などに、労働者/貧困階層ではそれに加えて暴力事件で命を断たれる若者の多さに結び付けられることが多く、男性性ステレオタイプからの「解放」はその文脈で課題となる。
2017-07-31 23:20:593.ワトソンが自死に結びつけて男性性ステレオタイプからの脱却を語るのは、ほぼ間違いなくこの文脈。男性が弱みを見せたり、性的でない親密さを求めたりすることを「男らしくない」とする規範(伝統的に英米で強い)に対し、悲しさや辛さを見せてもいい、親密さを希求するのは悪いことではない、と。
2017-07-31 23:21:584.ここで「性的でない」親密さが問題になるのは、女性を対象とした性的欲望の主体たることは男性性規範に沿うから。性的な親密さだけは許容されても友愛や共感といったそれ以外の親密さが築けない(ここにホモフォビアも働く)場合、助けが必要になってもそれを求められないまま追い込まれてしまう。
2017-07-31 23:25:085.この文脈では「女性にモテない異性愛男性の不幸」はほぼ論点にならない。出てくるとしても「あなたの男性性は、一般的に言われる《強さ》や世俗的成功に左右されないように、性的パートナーの有無や多寡にも左右されない」というだけ(「モテないことを嘆いてもいいんだよ」とは言うかも)。
2017-07-31 23:29:256. 上記リンク先連ツイに書いたように、こういう心理的アプローチには当然限界があるものの(非モテ男性が救われないからではなく、問題の個人化に終始する恐れがあるから)、英語圏では割と目にするので、一定の必要性や有効性も感じられているのだろうとは思う。
2017-07-31 23:31:157.したがってワトソンの演説が日本語圏でいう「弱者男性」を救うかと言ったら多分直接は救わないし、そもそもそれは問題になっていない。これは「私が弱者男性についてどう思うか」とか「フェミはどうか」とかでなく「ワトソンの国連演説がどのような男性(性)を念頭に置いているのか」という問題。
2017-07-31 23:32:348. それでは、フェミニズムにとって日本語圏で言うところの「弱者男性」問題はどうでも良いのかと言うと、それはまた別の問題(そもそもワトソンはフェミニズムを代表するものでは全くない、というのがまずあるけれど、それはそれとして)。単純にいえば「弱者」の定義によるだろうと思う。
2017-07-31 23:33:439. 男女の賃金格差を念頭に置けば喫緊の課題は女性の貧困とはいえ、「弱者」が貧困層や社会的マイノリティを指すなら、経済格差や社会差別は性別に限定されずフェミの課題。翻って「自分が欲望する女を入手できない異性愛男性」を一様に「弱者」と呼ぶなら、その「救済」はフェミの課題ではない。
2017-07-31 23:35:5810. 勿論その「入手できなさ」が階級や人種的偏見などによる場合、それは階級問題や人種問題としてフェミの課題となりうる。ファットフォビアなどの外見や体格に基づく差別や偏見も同様。ただ、フェミニズムはそれを「とりわけ異性愛男性の直面する問題(『弱者男性』問題)」としては考えない。
2017-07-31 23:37:3311. 勿論これはいわゆる「弱者男性」がみずから問題を切り出したり定式化したりすることに反対するものではないし、「性愛パートナーを持つ〈権利〉は誰にでもある」にはフェミニズムも賛成するだろう。しかし「だから全男性に実際の性愛パートナーを保証しろ」には合意の観点から同意できない。
2017-07-31 23:40:2612. とはいえ、「性愛パートナーを持たない人」の中でなぜとりわけ男性が「弱者」として自己規定するのか(なぜとりわけ男性が性愛パートナーの欠如を社会問題として定式化しようとするのか)というところに現代日本の異性愛男性性の問題の一環がありそうだな、とは思う。
2017-07-31 23:41:10【告知】公開研究会「道徳的保守と性の政治の20年ーLGBTブームからバックラッシュを再考する」、飯野由里子さん、遠藤まめたさん、山口智美さんをお迎えして、来週末(8/5 土)14:00〜 東大駒場キャンパスです。どうぞみなさまお越し下さいませ。 twitter.com/akishmz/status…
2017-07-30 11:32:21【イベント告知】公開研究会「道徳的保守と性の政治の20年—LGBTブームからバックラッシュを再考する」 2017/8/5(土)14:00- @東大駒場キャンパス|登壇者:飯野由里子、遠藤まめた、山口智美|詳細は goo.gl/BP6Hy5 どうぞお越し下さい。 pic.twitter.com/jYyhfDuBAk
2017-07-09 09:25:59