あらたべろにかはしぬことにした2

実験小説
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しらゆきはやて @shin_mywk

ふとそんな気がしたので、振り返ると昨日の女の子が立っていた。 「まだ声を掛けた覚えはないのだけれど」 「そんな気がしたからだよ」  女の子は少し思案する仕草を見せた。 「そんな気がしたから……うん、悪くない。シンプルでいて明瞭。納得に足る答えだ」  女の子は数回頷いた。

2017-08-01 19:27:20
しらゆきはやて @shin_mywk

今日は晴れている。青い秋空が寒々しい。日が落ちるまでは、まだ時間がある。 「今日もやはり君は楽しくなさそうな顔をしているね。明日にでも地球が滅ばないかと考えているようだよ」 「それは違うね」ぼくは反論した。「今この瞬間にでも滅んでしまえと思っている」

2017-08-01 19:28:23
しらゆきはやて @shin_mywk

「心配しなくても、この世界は慢性的に滅びに向かって行ってるよ 「そんな抽象的な話は不毛だと思わないか?」 「いや…………そうだな。そうだ。君の言う通り、そろそろ文明が滅んでも良い頃合いだな。一旦リセットして猿からやり直すべきだ」 「同感だ」

2017-08-01 19:28:53
しらゆきはやて @shin_mywk

ぼくは本気でそう思っている。他の人間にこんなことを言うと馬鹿にされるか無視されるだけだろう。  その中で彼女は、ぼくと同じように思っていると感じた。  彼女もまた、本気でそう思っているのだ。

2017-08-01 19:29:25
しらゆきはやて @shin_mywk

「『気になる』ことは病気だ。精神的疾患だ。人間はただ生きてから死ぬまでプログラムされていることだけをこなせばいいだけなことに、誰も気付かないだけだ」 「難しすぎて、ぼくには分からないな」 「嘘をつけ」 彼女は即答した。

2017-08-01 19:30:07
しらゆきはやて @shin_mywk

「君は分かる筈だ。分かる筈の側だ。生きているか生かされているかの違いも分からないような愚鈍で蒙昧な輩とは違う。だろう?」 「同意を求められてもな」 「君が同意しようが同意しまいが関係はない。そうならば声を掛けた私が馬鹿みたいじゃないか」 「なかなか暴論を正論のように吐くね」

2017-08-01 19:30:45
しらゆきはやて @shin_mywk

だが僕は彼女を馬鹿にする気はなかった。話を聞くのに退屈しない人間は、もしかすると彼女が初めてかもしれない。  それは旋律だった。ぼくの心に抵抗なく、するりと感じ入る旋律。 「仮に君が馬鹿だったとしたら、今君が言った事はただの与太者の世迷い事となるわけだ」

2017-08-01 19:31:14
しらゆきはやて @shin_mywk

「いんや、心配しなくて結構さ。こうして会話が続いている以上、君も同類さ。分かる人にしか分からない会話なんて、甘美な響きだろう?」 「だが少数派はいつも淘汰される」 「難儀な世界だ。私もそろそろ退屈を見つけるとしようか。君の気分を知ってみるのも悪くない」

2017-08-01 19:31:50
しらゆきはやて @shin_mywk

「退屈なんて知らない方がいい。うっかりすると、この世からどうやったら完全に消失出来るかばかり考えてる」 「……結構。今度一緒に考えようじゃないか」  車のクラクションが鳴った。道のど真ん中にいた僕は、すぐさま道脇に退いた。  女の子の方を見る。  もう彼女の姿はなかった。

2017-08-01 19:33:18