稲川淳二の『つぶやき怪談』(2017.07.27)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

流れ落ちる水滴が、ちょうど左目から、 まるで――、涙がこぼれ落ちるように見えた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、われに返ったとたん、 「うわああぁっ！」 自分で声あげて。 浴室から飛び出したそうですよ・・・・・・。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「とうとうその日は一晩中、眠れなかったよ。淳ちゃん」 って言ってました。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

翌朝、一番に東京に帰ってきて。 撮ったものを局の編集に渡したわけだ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「現像、頼むよ」 片付けしててもなんだか落ち着かないから、 そのまま埼玉の家に帰った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

なんだか体が熱っぽくて疲れてる。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

風呂入って、体温めて寝たほうがいいなと思ったんで風呂につかって、 「ふぁーっ」 としてるうちに、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ああ、そうか、そうだよなあ――。 あの娘が埋められてるあそこに入って、 スニ―カーの裏にはまだ土がついてる。 それがいけなかったんじゃないかな」 と思ったんだ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それであわてて体を拭いてね、風呂場で洗ってやろうと思って、 玄関までスニーカーを取りにいって、で、持ってきて。 風呂場で洗った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ところが――。 どうも洗ってる最中に気持ち悪くなってきた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

こんなことしてもしょうがないな―― と思って、窓を開けて。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

風呂場の裏には川が流れているから、 何も考えずに、川に、 ぽーんと、靴を投げちゃった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

普段はその川、そう水かさはないんですが、 上流で雨でも降ったのか、結構な流れになっていて、靴がふたつ、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

つうー と流れていったんで、 「ああよかった」 と思った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ところがその日の夜中、 プルルルル　プルルルル！　 電話ガ鳴って目が覚めた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

家族は皆寝ている。 なんだろう――と、受話器をとったら、 テレビ局の編集マンからで――。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それが震えたような声で、 「夜中に悪いね」 というんで、 「何かあったの？」 と聞くと、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「いやちょっと、聞きたいんだけど、 気持ち悪いのが映っているんだよ」 「えっ！」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「あんたさ、あの山林を撮ってるシーンがあるじゃない？ 木々の間にさ、道が一本通っているやつ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その細い道の先にさ、ショートヘアの女の子が立ってこっち向いているんだけど、 そんな映像撮った覚えある？」 って聞くんで、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「そんなの撮ってないよ」 と答えると、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「勘弁してよ、今さ、ここひとりしかいないんだよね――」 と編集マンがいうから、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「わかった。とにかく明日いくから。早くいくから」 というと、 「頼むよ」と、彼が言った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

なんの間違いかしらないけれど、 この世界でいう“事故”っていうやつでね・・・・・・。 実際それがワイドショーで使えるかってことになる。 映像としてね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

となると、せっかく撮った映像がパーになるかもしれない。 だから、心配で、翌朝、一番にすっ飛んでいった。