稲川淳二の『つぶやき怪談』(2017.07.27)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

三脚にカメラを固定して、 ぐーっと寄って、アップを撮った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それは――多少うつむき加減になってて、 ほぼ横顔のショートヘアの女の子だったそうですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ぐーっと寄って、アップになったとき、 その子の左目が悲しそうに、じーっとこっちを見てるんで、 どきっとしたっていうんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

うわぁ――、たまらないな・・・・・・ と思った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

でも、そこで取材は終わらず、 少女の立ち寄った場所だとか、証人だとかのインタビューを取ってまわって、 最後に女子中学生が埋められていたという山林へ行ったんですね、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

深い山林の中に、ロープが張ってあって。 もちろん、すでに死体は上げられていますから、穴は埋められてる。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、彼がね、もちろん少女は死んで埋められてるわけですから――、 彼女には見えたわけではないんだけれども、 その埋められた少女の目線で撮影しようと思ったそうですよ――。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そこでロープの中に入って低い位置から、まわりの木々やこずえとかを、 ずーっと撮っていった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

少女はこんな状況で死んでいたんだという感じで暗い山林を撮って。 他にもいくつか撮った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、撮っているうちに、 突然ずぼっと。 おろしたてのスニーカーをはいた足が、土の中にもぐっちゃった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「うわぁっ！」 とびっくりして、ロープから飛び出した。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「嫌だなぁ――」 と思ってみたんだけれども、 どうも足がもぐったところは、少女が埋められていた場所らしい。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

あれこれ撮って、で、その日の仕事を終えて、 ビジネスホテルに、帰ってきた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

なんだか汗ばんでるんで、さっそく浴室でシャワーを浴びた。 「さて上がろう」 と思って、何気なく壁に、鏡に目がいった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

蒸気で曇ってる鏡にうっすら自分の影が映っている――。 うん！？何か変だ！――！ 何かが違ってるというんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その時、鏡の上を水滴が、 つうっ―― と、流れた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そこに細く映った部分を見て、 あれ？ と思った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

髪の毛が見えたというんです――。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

彼、みんなから“和尚”といわれるぐらいですからねえ、 昔から丸刈りなんだ。 しかも・・・・・・まっすぐ鏡に向かっているのに、 どうやら影は正面のものじゃない――。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

おまけに、おかしいなと思って動いてみると、 影は全く動かない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

気持ち悪くなって、急いで蛇口をひねって、 水をざばぁっ！ とかけたんですよ――。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、鏡が見えた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

とたんに、 「うわぁっ！」 そのまま固まっちゃった――。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

鏡にはあの少女が映りこんでいたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

うつむき加減で、横向いて、ショートヘアの少女が、 じっ―― と自分を見ている――。