ビー・ギブアップ・オール・ホープ #1

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えみゅう提督 @emyuteitoku

「ム~ン?何だチビ助、エレファント三号の知り合いか?姿が見えんあたり、あっさり死んだらしいな。石ころどころか、泥ダンゴだったか!」「三号でも、石ころでもねえ!コランダム=サンだ!イヤーッ!」「フンヌッ!」スクトゥムがマンモスに飛び掛かり、がっぷりよつに組み合った。26

2017-08-05 18:39:17
えみゅう提督 @emyuteitoku

「スクトゥム!」コールドレインが駆けだす。「待て!こいつは俺にやらせてくれ。ジュージュツを、ムテキ・アティチュードをここまで馬鹿にされちゃあ気が収まらん!」憤怒に燃えるスクトゥムに対し、マンモスはにかりと白い歯を見せる。「グフフ、そう言わずまとめてかかってこい!」27

2017-08-05 18:41:30
えみゅう提督 @emyuteitoku

余裕を見せるマンモスだが、スクトゥムに組み付かれた体制は実際不利。一同でカラテを振るえばディープオーダーが有利。しかし、動ける者はいなかった。イクサ場に気配無く乱入者がエントリーしていたのだ。それを知らぬスクトゥムはマンモスの怪力に歯を食いしばりながら耐える。28

2017-08-05 18:43:00
えみゅう提督 @emyuteitoku

「んぎぎぎ!ちょ、やらせて欲しいとはいったが、全部一人でってのは――な!」スクトゥムも乱入者の姿を目にし、思わず飛びのいた。「逃げるな!グヌ?!」急にスモウ相手がいなくなったマンモスはもんどり打って倒れ込む。「グムム、何だというのだ…ムヌ、ようやく来たかノロマめ」29

2017-08-05 18:44:07
えみゅう提督 @emyuteitoku

乱入者の姿にナバルは思わず目を輝かせた。「わあ…美人さんだ。綺麗な人」裾を短く上げた衣装から覗くのは、細くすらりとした獣脚。袖のない上着から転び出るのは、薄っすらと残る脂肪の下にしなやかな筋肉をバランスよくとり付けた腕、布のメンポで隠されていても分かる美しい輪郭と鼻筋。30

2017-08-05 18:45:41
えみゅう提督 @emyuteitoku

そして、一際目を引くのは擬宝珠を象った煌びやかに装飾された冠。均整と絢爛を一体とした体躯の前では、無骨な肩部装甲の鈍色さえも、美しい彩に思える。乱入者はしゃなりと歩みを進め、指先を下に向け手を合わせ、オジギする。逆さまの合掌、これはいかなる意味か?31

2017-08-05 18:46:55
えみゅう提督 @emyuteitoku

その理由は彼女が首を垂れた時、明らかとなった。背中側にもう一対の両腕、腕が四本あるのだ。彼女は背部の腕で正位置の合掌、四本の腕のラインがインド神話に伝わる神器ヴァジュラの如きシルエットを形作る。なんと奥ゆかしいオジギか。「ドーモ、はじめまして。ガネーシャです」32

2017-08-05 18:48:06
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ドーモ、はじめましてガネーシャ=サン。ライオンハートです」ライオンハートは両の拳を打ち合わせオジギした。しなやかなガネーシャの挨拶の対象となる、力強く堂々としたアイサツだ。他に続くアイサツはない。皆、二人のアイサツが代表アイサツだと思ったからだ。33

2017-08-05 18:49:38
えみゅう提督 @emyuteitoku

皆、ガネーシャこそがタンソウホウ・クラン最強の深海棲艦だと感じた。しかし、ライオンハートはだけは違った。(確かに圧倒的なカラテを感じる。だが、ガネーシャ=サンではない。澄んだ目だ、カラテを奪い、名を奪い、圧制を行う者の目ではない。むしろ、やさしみに満ち溢れている)34

2017-08-05 18:50:42
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ムウン!遅いぞガネーシャ!一体何をしていたのだ!」マンモスがガネーシャに食い掛る。「師に纏わりつく者がいたのでな、眠らせるのに手間取った」二人のやり取りの合間にライオンハート達のニューロンに情報が共有される。『みんな!無事か!返事をしてくれ!』リンクスからの通信だ。35

2017-08-05 18:51:46
えみゅう提督 @emyuteitoku

コトダマ空間の把握に長けるリンクスらしからぬ大声での通信だった。(リンクス。まずは心を鎮めろ、落ち着いて――)『アンダーテイカーが…アンダーテイカーが応答しないんだ…!』なだめようとするライオンハートにリンクスが涙声で伝えたのは、輸送艦を追っていた、友の――36

2017-08-05 18:52:52
えみゅう提督 @emyuteitoku

「そんな!」ナバルが声を上げた。 Scutum:おいおい!静かにしろ!リンク・ジツの意味がないだろ! Naval:だけど、リンクスの通信に応答できないってことは Links:ニューロンの信号が、ないんだ… Coldrain:脳停止か…考えたくはないが―― 「バカ言うな!」37

2017-08-05 18:55:15
えみゅう提督 @emyuteitoku

スクトゥムはコールドレインに掴みかかる。「考えたくないならそれ以上言うな!もし言ったら――」「やめろスクトゥム!」ライオンハートは取り乱すスクトゥムを叱責する。「今はイクサの最中であること忘れるな」「けど…けどよ」「アンダーテイカーの速力だ、範囲外に逃げたのだろう」38

2017-08-05 18:56:09
えみゅう提督 @emyuteitoku

無理な理論ではあるが、可能性はある。即興ではあるが、ライオンハートの言葉は皆を落ち着かせるには十分だった。しかし、皆が何とか縋り付いた微かな希望をすり潰すように、イクサ場の中心に砕けた何かが投げ込まれた。「ねーねーねー!なーんか揉めてるけどさ、こーれのことぉ?」39

2017-08-05 18:57:38
えみゅう提督 @emyuteitoku

鼓膜に不快に張り付く甲高い三人目の乱入者声よりも、投げ込まれた残骸がディープオーダーの意識を釘付けにした。原型を留めぬほどに砕かれていても、見慣れた細部の特徴をどう見紛おうか。それはアンダーテイカーの象徴である棺型の艤装だった。「――夢だよな、これ?嘘だろ?」40

2017-08-05 18:58:37
えみゅう提督 @emyuteitoku

スクトゥムは現実を受け入れられなかった。コールドレインは呆然と目を見開き、ナバルは両手で顔を覆い、チェルノボグは深く俯いた。深い悲しみの中でライオンハートは努めて冷静に艤装を投げ込んだ敵を見た。アンダーテイカーの最後の報告にあった輸送艦の特徴に酷似する姿があった。41

2017-08-05 19:00:03
えみゅう提督 @emyuteitoku

駆逐艦を十隻は詰め込めそうな巨大な運貨筒、それを繋ぐ余りに太すぎる煙突のようなロープ。狂いきったバランスの艤装を引きずるのは、曲芸師めいた衣装の人型。ライオンハートは冷静に状況判断する。(確かに輸送艦に見える。だがただの輸送艦に敗れるほどアンダーテイカーは甘くない)42

2017-08-05 19:01:33
えみゅう提督 @emyuteitoku

思案するライオンハートの姿を見て、ガネーシャは不気味な輸送艦の前に跪く。「師よ、まずはアイサツを」「ん?あ、そだね。カラテで何かする時はアイサツするんだっけ。だいじょーぶ、ちゃんと覚えてるって。ではではコホン――皆さま本日はご来場ありがとう!」悍ましき曲芸が幕を開ける。43

2017-08-05 19:03:21
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ボクらの団の演目は多種多様!時間がどんどん進んでも、いくらだってついて行けちゃう不思議なサーカス」まるでアイサツとは思えない口上が始まった。隙だらけのはずなのにその場の全員が聞き入ってしまう。決して届かない膨大な力を前にした時、意識は自然と動きを止めるものだ。44

2017-08-05 19:04:58
えみゅう提督 @emyuteitoku

「進化の象徴、変化の顕現。道化師はいつだって変わりゆく時代に合わせて、観客の楽しませ方を変えていかなきゃいけないのサ!」今この時まで輸送艦だと思われていた人型は、運貨筒を片手でぽいと持ち上げた。その瞬間だらりと垂れていた煙突のようなロープが力強く屹立する。45

2017-08-05 19:06:24
えみゅう提督 @emyuteitoku

「おいおいおい!冗談だろ!!」慄いたのはスクトゥムだ。運貨筒だと思っていたのは海面に出ていた砲塔の一部、ロープに見えていたのは砲身、持ち上げられた艤装の正体は、想像を絶する極大単装砲!砲塔と砲身を合わせれば五メートルを越える狂気の塊が片手で軽々と掲げられていた。46

2017-08-05 19:07:49
えみゅう提督 @emyuteitoku

圧倒的な力の奔流、ライオンハートはその感覚に覚えがあった。(この怖気…あの時に似ている。あの重巡の目に、青い光が灯った時のような――まさか、こいつは…!)「世界の誕生からこの時に至るまで、未来を追いかける方法は今も古きもただ一つ…進化し変わり続ける事なのサ」47

2017-08-05 19:08:43
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ボクは【変幻】オールドワン――軽巡洋艦フューリアスでぇぇーーーっす!!よろちくび」「いよっ!流石ボス、ナイスジョーク!ブラジャーブラジャー!」「ぱいぱい落ち着いて、ってか?!ヒヒャヒャヒャ!」盛り上がるバカ二隻の隣でガネーシャは恥ずかしさで顔を背けていた。48

2017-08-05 19:09:56
えみゅう提督 @emyuteitoku

笑えないジョークである。状況もとても笑えるものではなかった。対峙するのはオールドワン。深海星鬼が試製した深海棲艦のアーキタイプであり、星鬼自身ですら制御出来なかった旧使徒の一つ。今までに、ディープオーダーは二隻のオールドワンと出会い、それを退けたこともある。49

2017-08-05 19:11:42
えみゅう提督 @emyuteitoku

だが、その両名共に真にその権能を振るってはいなかった。吹雪には殺意はあっても敵意がなく、片鱗が身に宿るに留まっていた。ソルトレイクシティには敵意はあっても殺意がなく、何より戦いに慣れていなかった。ディープオーダーは本当の意味でオールドワンとイクサを交えてはいなかった。50

2017-08-05 19:12:29