#スエズ鎮守府 活動記録その8

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「なぁ、同志Polaよ。我々は、一体いつまでここでこうしていればいいんだ」 「さぁ、どーしウォッカさん。Polaも分かりません～……飲むしかないです～」 スエズから南に100キロ近く。紅海との境界にある港町で、二人の艦娘がレストランのテラス席に腰掛けていた。 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「だから、私の名はウォッカじゃ……まぁいい。とにかく、私の第二改装パッケージを受け取りに行けとは言われたものの、もう放ったらかしにされて一週間だ。鎮守府とも連絡がつかんし、おかしいじゃないか。おかしいぞ」 そう言うのは、白い制帽にウルフグレーの癖が強い長髪の女。 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

紅海に降り注ぐ強い日差しをまばゆく反射する白のロングコートを肩に引っ掛け、やはり流石に暑いのか赤いワイシャツのボタンを幾つか外して着崩している。思案にふけるその琥珀色の眼光はどことなく不機嫌な狼を思わせ、左頬に真横に走る古傷が歴戦を静かに物語っていた。 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「ん～、まぁ～連絡がなかったわけじゃないけど～。とはいえ、あれが指示と言えるのかどうか～……」 丸テーブルを挟んで反対側、グラス……ではなく、その隣のボトルを掴んで口に運ぶもう一人。 「合流まで待機……Pola達、何と合流しろって言うんでしょ～かねぇ～……」 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

そう言った彼女は、プラチナブロンドのうねる髪を無造作に伸ばし、赤ら顔にとろけた瞳を向かいの女軍人へ向ける。 そして、「にへら～」と笑った。 「ところでぇ……もう一本追加いいです？」 「その今の有様で、自分で頼めて、自分の財布で払えて、自分の足で帰れるならな」 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「む、しつれーな。Polaは、寝床に帰るまで人の手は借りませんよぉ～。それに、飲まないほうが手足の末端が震えます～。つまり飲んだ方がいい。Polaのお酒はいつも正しい。薬ですよぉ〜……」 最後の方だけ妙に据わった目で、まるで自分に言い聞かせるように呟くPola。 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

その姿に呆れたように鼻から息を吐き、ウォッカと呼ばれた女軍人――戦艦ガングートはパラソルに遮られた真昼の青空を見上げた。 「しかし……スエズで何が起きたんだろうな」 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

――えーっとガンちゃん。改装パッケージ受け取りに行ってくれるか？ 何でも、ロシアから日本経由で来るらしくてさ。 一週間前、砂漠の鎮守府で提督から言われたことを思い出す。 その際、彼が口に駆逐艦の下着を咥えていたことはなるべく思い出さないようにしながら、思い出す。 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

あの時の提督の口調は普段通りで、その裏には別段何かを隠していたようには見えなかった。 確かに、カミシロというあの男は、全身隙だらけのくせに妙に秘密主義というか、いつでも腹に何かを飼っている節はあるのだが……今回の荷物の回収任務に関しては、特に裏もなかったと思う。 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

スエズ運河に沿って南下し、紅海の出入り口で兵装を受け取る。こんなのはおつかいレベルの仕事だ。 本当は一人でも事足りたが、どこから話を聞きつけて曲解した上に勘違いしたのか「お酒が飲めると聞いて～！」と助手席に飛び乗ってきたイタリア人を連れての運転になってしまった。 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

もっとも、殺風景な砂漠と運河を眺めてのドライブに、マイペースとはいえ陽気な人間が同行してくれたのは、自分をあまり面白みのない人間であると考えるガングートとしても、思いもよらぬ益ではあった。 なにせ、隣で酒を片手にずっと喋っているのだ。お陰で退屈だけはしなかった。 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

受け取り自体もスムーズに終わり、今では乗ってきた軍用トラックごと国連軍の詰め所に置かせてもらっている。 行程は一泊もすれば足りるものの、しかし違う組織の敷地を寝泊まりに使うのも気が引ける。故に近くのホテルに身分を伏せて予約を入れたのだが……そこからが問題だった。 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

翌日に帰投する旨を鎮守府に連絡しようとした矢先、向こうから一通の伝聞が届いたのだ。それが、「合流まで待機」というわずか六文字の命令だった。 「提督も、普段なら英語で通達を出してくるが……今回に限っては日本語だ。ということは、よほど切羽詰まっていたんだろうな」 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「もしかして、Pola達って割とピンチです？ でんじゃらす？」 「そう言いながら、一向に飲む手は止めないんだな、貴様は」 「……？ なんで飲む手を止める必要が？」 「……そうか」 本気で意味が分からない顔で首を傾げる重巡から、静かに目をそらすガングート。 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

彼女もまた、懐から煙草の包みと愛用のパイプを取り出す。 最近、自分も学んだ教訓がある。それは、肩肘を張っていると損をする一方であるという事だ。 いつも真面目に取り合っていると、あの補佐艦を務めている「ぬいぬい」言っているちっこいののようにいつか泣く羽目になる。 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

そもそも秘書艦のちっこいのがあの調子なのだ。こういう各々のマイペースさが、スエズ鎮守府の色なのだろう。 С волками жить --- по-волчьи выть.――狼と暮らすなら狼のように吠えろ。日本語で言うところの、郷に入っては郷に従えである。 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「吸っていいか」 「どうぞ～。ウォッカさんはパイプ好きなんですねぇ～」 「祖国にいた頃は部隊が厳しくて、これくらいしか楽しみがなかったんだ」 慣れた手つきでボウルに葉を詰め、マッチで火を点け息を吸う。手間をかけ、徐々に火を育てていく。パイプの楽しみの一つだ。 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

紙巻きや葉巻、電子タバコより手間がかかる面倒臭さが良いのだと、かつてこの遊びを教えてくれた自分の祖父も言っていた。 「真っ昼間からお酒飲んでパイプ吹かして……最高ですねぇ～、まるで休暇みたいです～」 「だが、実際は休暇を申請した覚えもない。やはり気がかりだ」 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「ウォッカさんは真面目ですねぇ。でも、待機命令は出ているわけですし～。言わば任務中ですよぉ。もう少しこの時間を楽しみません～？」 「貴様は楽しみすぎだ。だいたい、任務中と言うなら飲酒などもっての外だろうが」 「それ、ロシアの人が言っても説得力ないですよ～」 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

ケラケラと笑うアルコール漬けのイタリア人を前に、パイプ片手にロシア人が嘆息する。こんな会話も今日で七日だ。Polaは別命を待とうと言うが―― 「……ん？」 「あら、なんでしょね～」 と、街中に設置されているスピーカーから、けたたましいサイレンが鳴り響いた。 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

同時、二人の網膜に映る拡張現実スクリーンに、体内ナノマシンが受信した警報と通知が展開される。これは軍属の人間全員に発信された、国籍、所属組織を問わずの情報共有だ。 「発信元は、紅海にある国連軍の観測所か。どうやら、休暇まがいの待機任務はこれで終わりのようだな」 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「スエズ運河を目指して、二隻の所属不明艦が接近中……それも人型……なーんか嫌な予感しますねぇ～」 パイプを咥えたガングートと、ワインボトルを抱えたPolaが立ち上がる。正体不明の人型艦がいるのは洋上。となれば、海を走れる自分達の出番だ。 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

役割を自覚してからの二人の行動は早かった。 「私は国連軍の詰め所に停めてあるトラックを港に出す！ 貴様は先行、沿岸部に市民へ避難勧告を出すのを忘れるな！」 「一応、艤装を積んでおいてよかったですねぇ～。んっく、ん……ぷぇ」 「……待て、どうして今飲んだ」 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「最後の一口ですよぉ。折角のワインを飲み残しておいたら、死んでも死に切れないじゃないです～」 「貴様というやつはどうしてこう……もういい！ とにかく走れ！」 「あいあい～……っへへぇ、ウォッカさん頑張ってく〜ださ〜いねぇ〜」 「貴様も頑張るんだろうがっ！」 #スエズ鎮守府

アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

ふにゃふにゃな敬礼を返し、てけてけと奇妙な動きで走り出すイタリア重巡。その後姿に向けて、やっぱり言いたい説教系単語が喉奥で大渋滞から玉突き事故を起こしかけたのを、頬を膨らます事で何とか押しとどめたガングートは、 「. . .Обалдеть!」 #スエズ鎮守府