サイダー×錦戸

よつげ @Eight_os

１ あー…駄目だ。何言ってんのかさっぱり分からない。 　 只今、一学期期末テストの真っ最中。 開始30分で早くも私の手は止まった。 焦りが脳内を満たす。 こんなんだと、今回もあいつに負けてしまう… #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

2 …駄目だ、どうにかしないと、と思いつつも、全く思い浮かばない。 あいつはどうだろ… 目線は紙に向けたまま、意識で斜め後ろの彼の様子を窺う。 　 スムーズにペンが動くさらさらという音が聞こえた。 あーあ、絶対負けたわこれ… #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

3 「亮〜！」 　 テスト終了後、すぐにその斜め後ろの席に向かう。 もうテスト死んだ…とか私が言う前に、彼はにやっと笑った。 「その感じやと駄目やったんや？」 「うるさい…」 　 錦戸亮。幼なじみ、ご近所さん、成績を張り合うライバル。 　 そして…私の好きな人。 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

4 いつかは伝えた方がいいんだろうけど、多分わたしの気持ちなんてバレバレだし、このままでもいいかなって思ってしまう。 「そんなかわいそうなお嬢さんに。これやるわ笑」 「え！？いつの間に買っといてくれてたの！？」 高校近くのコンビニで買えるサイダー。 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

5 他の人には馬鹿にされるけど、私はこれが大好きだった。 特にこの季節。サイダーを飲むのにこれ程いい季節って他にない！ 「お前が欲しがるかなって笑」 「ありがとう！亮はいいの？」 「自分の分も買ったし笑」 亮はその気持ちを唯一分かってくれた人でもあった。 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

6 喉も渇いていたので、早速口に運ぶ。 サイダーの甘い刺激が舌と胸に刺さった。 ───────────────── 次の日。 「朝から37．5度か…」 これがうわさの夏風邪というものだろうか。 無理しちゃいけない… でも、亮に会いたい… #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

7 「おはよ、亮」 「あ、おはよ」 結局来てしまった。 …まあ、１日くらい大丈夫だろう。風邪なんだからすぐ治るはず。 「あれ？顔色悪ない？」 「！？…だ、大丈夫だよ？」 「ほんまに？」 「…うん」 やっぱり亮は勘が鋭い。 …こんなんじゃ、とても告白なんて… #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

8 …来たことを次第に後悔した。 とにかくだるくてしかたがない。 頭はうまく回らず、授業の内容も全部入らない。 おまけに体育もあって、5時間目はもうピークだった。 　 ところが悪いことはとことん重なるもので、授業後半で先生から指名されてしまった。 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

9 前に出て書けと言われ、重たい足をどうにか動かして黒板の前に立つ。 不幸中の幸い、予習はしてあったので問題はすぐ解けた。 そのまま席に戻ろうと、一歩踏み出した、瞬間。 　 視界が歪曲した。 あ、やばい…と思うより早く、私は教室の床に倒れ込んだ。 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

10 みんなが騒ぐ声も、先生の大丈夫かと言う声も、全てを遠くに感じた…その時。 　 「大丈夫？」 聞き覚えのある、その声だけが、近くに聞こえた。 頭が少しクリアになってくる。 　 顔を少し上げると、目の前に亮の顔があった。 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

11 ちっ、近い！！！ 「あ、ご、ごめんねー、大丈夫だから…」 　 そう言って立ち上がろうとするも、うまく力が入らずよろけてしまう。 すると、亮の顔がさらに近づいてきた。おでこがくっつく。 「！？」 「…やっぱ熱あるやん」 ボソッと言われ、情けない気分になる。 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

12 「先生！俺こいつ保健室まで連れてきますわ」 そう亮が事もなげに言って私をおぶった。 突然体が密着してドキドキが止まらない。 「り、亮…」 「黙っとれ」 亮って力あったんだな… 私をおぶっているその腕はすごく力強かった。 背中から体温を感じる。 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

13 保健室まで運んでもらったものの、そこに先生はいなかった。 とりあえずベッドに寝かせてもらう。 亮が隣に座って言った。 「…具合悪いんやったら言えや」 「ごめん…迷惑かけたくなくて」 「俺ってそんな頼りない？」 亮が寂しそうに笑うから、胸が締め付けられる。 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

14 「亮、迷惑かけちゃってごめんね。もう大丈夫だから…教室行っていいよ？」 とりあえずそう言うと、亮が言った。 「今行ったってもう間に合わへんやろし…迷惑ちゃうから。俺ほんまに心配したんやからな？でもお前が大丈夫なんやったら行くわ。」 じゃあな、と亮が出ていく。 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

15 あぁ、やっぱり亮いい奴だな。 私のこと気にしてくれて、だから余計に好きになってしまう。 　 …それに比べて私は、自分のことばっかりだ。 バレてて恥ずかしいから言えない、でも会いたいって、自分勝手すぎる。 …こんなんじゃ駄目なんだ。 変わるなら、きっと今。 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

16 走んなきゃ。 「亮、待って…」 フラつく足で亮を追いかける。 亮はまだ近くにいた。 　 「わっ、ちょ、お前何やねん休んでろって！」 いきなり私が追いかけて来たから焦ってる。どうしたんだって顔してる。 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

17 今言ったって、真剣に受け止めないかもしれないけど。 でも、今なら正直に言える気がする。 熱に浮かされて頭がぼーっとしてる、今なら。 亮のＹシャツを掴んだ。 「亮…私、亮のことが好き」 「え、それわざわざ言うために来たん？笑」 「…真剣なんだけど」 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

18 「あ、ごめん」 小さく謝ってから、亮は言った。 「…気づいとった、何となく」 やっぱり…私の気持ちはもう勘づかれてたんだ。 笑うかな… ダサいって思うかな… すると、 「…でも俺の気持ちには、気づいてくれんかったんや？」 「え…？」 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

19 どういう意味か尋ねようとしたその時 キーンコーンカーンコーン… 授業終了のチャイムが鳴った。 ───────────────── 結局、あの後亮にはうまくはぐらかされて、答えは聞けずじまい。 私は次の日学校を休んだ。 あーあ…亮に会いたかった… #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

20 授業は退屈だけど、亮に会えるっていう、それだけで楽しいって思えるのに。 …告白して、気まずくなるのは目に見えてるのに、会いたいと思ってしまう自分がいた。 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

21 午前中寝ていたら熱は下がった。 暇になったお昼すぎ ピンポーン なんだろ、宅配便かなんか？ そう思ってインターホンで確認すると、 「あ、えっと、俺、やけど…」 亮の姿があった。 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

22 「ごめんな急に！これ今日配られた手紙と、プリントと、あとこれ俺のノート！写すん使って！」 「ごめんね、ありがと！助かる〜」 「大丈夫？夏風邪って長引くって聞いたけど」 「大丈夫大丈夫！熱下がったし、明日には学校行けるよ！」 上手く亮と話せて安心した。 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

23 正直、気まずくなるんじゃないかと心配だった。 すると、 「それから、これ…」 「うん？」 　 亮が出したのは、例のサイダーだった。 　 「何これ笑普通風邪の時ってスポーツドリンクとかでしょ。」 「何あげたら喜んでくれるかなーって」 あぁ、その心遣いが嬉しい。 #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

24 サイダーを口に流し込む。 まるで胸を刺すような刺激が、今の私には切ない。 熱が下がった私には、自分を正直にさせる何かは残されてないけど。 幼なじみは、もう卒業したい。 どうか人生最大の、勇気をください…！ #エイトで妄想

よつげ @Eight_os

25 「昨日、いきなりあんなこと言ってごめん」 「…」 「でも、本気だから。だから…」 考えてみてもらえないかな。 その私の言葉に、亮はしばらく考えて、言った。 「明日…学校来るんやろ？」 「？…うん」 「昼休み、体育館の裏」 「え…」 「絶対来い！」 #エイトで妄想