エリミネイト・アナイアレイター #1
スッと音を立てて、フスマが開いた。「ドーモ!」現れたのは頭髪が奇妙な黒縁メガネサラリマンだ。ペコペコと頭を下げ、「今参りますので」と告げた。その後、同様のサラリマンが三名現れた。「ドーモ、ドーモ」「いやあドーモ」「ご足労頂いて!」「こういうものです!」差し出される名刺!24
2017-08-31 23:10:14「デクタ・サキモノ…ファッキングファック」スーサイドは受け取った名刺の社名を途中まで読み、首を振って無雑作にポケットに詰めた。「はは」サラリマン達は愛想笑いをした。「さすが勇敢な方」「どいつと話せばいいんだ?」「ハンバキです、ドーモ」七三分けのサラリマンが笑った。「ヨロシク」25
2017-08-31 23:13:39「何をすりゃいい?俺が必要なんだろ」スーサイドは箸でフグサシミ数枚を掴み、咀嚼した。「ウメエな」「食卓上でありますが、シツレイしまして」ハンバキは腕時計型映写装置をアクティベートした。ビヨンボ(註:屏風)に静止画像が浮かび上がった。スーサイドの眉が動いた。26
2017-08-31 23:17:48「この遠景写真は、ネオサイタマ北西の郊外都市です」ハンバキは画像を送りながら、ずれた眼鏡を直した。「我が社が所持する自給自足都市ですね」「管理していた」スーサイドは過去形を繰り返した。「今はダメ。ああそうだよな。このありさまじゃあな。で、困っちまったわけか」「その通りです」27
2017-08-31 23:21:33「もともとこういうデザインじゃねえんだな?」「当然です」「ハッハハハハ」スーサイドは乾いた笑いを笑った。遠景写真であるが、すぐにわかった。それは街というより巨大なドーム状の物体で、ドームを構成するものは、彼がかつて嫌というほど見慣れたもの……鉄条網だった。「で、俺か」「はい」28
2017-08-31 23:23:15ハンバキは言った。「サキモノシティは、弊社が9割の株を保持するアルコロジーモデル都市です。人々はここで平和な経済活動を行っておりました。衣食住の安定と平和。月破砕年以降のこの世界において不断の努力を要するものです」スーサイドはショーユ瓶の底をトントンと卓に打ちつけて急がせた。29
2017-08-31 23:28:38「この街が一人のニンジャによって不当に占拠され、鉄条網化されたのは約1カ月前の事」サラリマンは眉根を寄せて俯いた。「中でどんな非道行為が行われているかわかりません。市民は無事なのか……そして弊社の資産。なにもわからないのが現状です。追加のドローン撮影を試みましたがそれも……」30
2017-08-31 23:31:11「俺がこいつをどうにかすりゃいいッてのか」「単刀直入に申しますと、そうです。ニンジャの名は」「アナイアレイター」スーサイドは遮った。そしてまた毒づいた。「ッたくクソが……!」彼のジツが必要、とDZが言った時から、奴のジツが頭にチラついていた。だからあんな昔の記憶まで蘇った。 31
2017-08-31 23:32:42「これ以上の経済停滞は許容できません」ハンバキは険しい顔で言った。スーサイドはサラリマンを凝視した。ハンバキは視線をそらさない。たいしたタマだ、と彼は思った。やがてハンバキは言った。「ニンジャ存在、アナイアレイターを排除してください」更に強調した。「排除です。殺してください」32
2017-08-31 23:35:08「……」DZがスーサイドを見た。スーサイドはDZを見ない。沈思黙考時間は短かった。「報酬額はここのクローンヤクザ野郎から聞いてる」彼は言い、指を三本立てた。「その三倍支払え」ハンバキ以外のサラリマンが呻き声をあげ、互いに目を見交わした。ハンバキは即答した。「わかりました」33
2017-08-31 23:39:55