エリミネイト・アナイアレイター #1

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「テメェらが……アレか。ヘッ!」ストリート・ニンジャはせせら笑った。「ここらをシメてるとかほざいてる、身の程知らずどもッてワケかよ」ストリート・ニンジャのヘビめいた目の向く先には、横倒しに重なった炎上モーターサイクルと、百人近い敵を前に不敵な態度を崩さない三人の男がいた。 1

2017-08-31 21:39:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

特に大柄な男がアフロヘアーの男を見た。「……シメてるってよ」杖をついているが、漲るカラテは隠しようもない。アフロヘアーの男は鼻を鳴らした。そしてヘビめいたストリート・ニンジャに言った。「ま、それで構わねえよ。テメェらをここでボコる事にはかわりねえんだからな」 2

2017-08-31 21:42:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

もう一人、マーブル都市迷彩装束のニンジャが身じろぎした。肯定するように。ストリート・ニンジャのこめかみに激怒の血管が浮き上がった。「死にてえようだな、マジによ」「ハ、ハ、ハ。なんたって俺はスーサイドだぜ?」アフロヘアーのニンジャがアイサツした。「ドーモ」 3

2017-08-31 21:45:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ルイナーです」続いて、マーブル都市迷彩装束のニンジャが。最後に、杖をついたニンジャが名乗った。「アナイアレイターです」金色の瞳に火が灯り、身にまとう長丈の謎めいたマントの裾がざわざわと蠢く。ストリート・ニンジャは理由の分からぬ畏怖を押し殺した。「ドーモ。ピットヴァイパーです」4

2017-08-31 21:53:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ドルルン!ドッドッドッドッドッドッ……うるさいモーター音を轟かせ、ピットヴァイパーの斜め後方、ガトリング・スリケンガンを構えたニンジャが進み出た。「ドーモ。ミートハンマーです」更に進み出る。「レザボアです」更に進み出る。「シックラーです」「スペルウィーヴァーです」 5

2017-08-31 21:59:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハッハハハハハ!」「ゲラゲラゲラゲラ!」更に、付き従う百名近い非ニンジャ達が威嚇的に笑った。ナムサン!数!ピットヴァイパーは言い放った。「なんてった?シマナガシ!これが力ってもんなんだよ、サンシタ野郎ども。無政府世界を制するのは力だ」「同感だ!」アナイアレイターが笑った! 6

2017-08-31 22:01:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「制するッてのはどうも……違げえなァーッ!」マントが翻った。それは……おお……その繊維、一糸一糸は、恐るべき鉄条網、命もつ刃である!四方八方に殺傷の刃を飛ばす!「かかれェーッ!」ピットヴァイパーは恐怖を覆い隠すように、声をからして叫んだ。手下たちが雪崩れ込んだ! 7

2017-08-31 22:05:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「イヤーッ!」スーサイドとルイナーがアスファルトを蹴って、跳んだ。「イヤーッ!」「アバーッ!」シックラーの首から胸にかけてをルイナーのカラテは無惨に抉り取った。「イヤーッ!」「グワーッ!」レザボアの首がスーサイドのジャンプパンチを受けて190度回転した。 8

2017-08-31 22:08:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おのれ!」スペルウィーヴァーがジツを構え……「グワーッ!?」白い光に力を吸い取られた。スーサイドだ。ピットヴァイパーは足元で跳ね暴れる鉄条網を避けながら必死に叫ぶ。「やれッ!数で有利!つまり有利だ!」シャカリキの過剰摂取で高揚する手下達はシマナガシの三人になおも向かってゆく!9

2017-08-31 22:11:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アバッ!?」「アバババーッ!」スペルウィーヴァーの身体を経由して白い光が連鎖し、付近の者どもの命を焼いていった。「グワーッ!?」光はピットヴァイパーを捉えた。その下半身は既に鉄条網に拘束されている。「イヤーッ!」ルイナーはミートハンマーの顔を蹴り、ピットヴァイパーへ……! 10

2017-08-31 22:14:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ルイナーのカラテがピットヴァイパーを仕留める。その動きが徐々に鈍く、停止に向かう。その映像は、スーサイドのニューロンの記憶だからだ。シマナガシの記憶。月が割れて、まだそう経たない頃の。……名前も忘れたストリートの廃ビルの屋上に、城を構えていた頃の。 11

2017-08-31 22:17:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

いや……その頃はもう、違う場所だったか。棲家を変えて、また変えて。それで最高だった時代。ニンジャは老化しないと言うが、成熟はする。あれはもう十年も前か?まだ十年は経っていないか?十年も、コロナビールとハッパで楽しく笑い続けたら、それこそ妙なルーチンというものだろう。 12

2017-08-31 22:20:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フィルギアはその時すでにネオサイタマにはいなかった。次に旅立っていったのは誰で……スーサイドは早かったか……遅かったか。諍い?決定的な決裂?バカな。そんな理由などない。彼らはいつもやるべき事をやってきたし、一人一人が離れていったのも、同様の事だ。 13

2017-08-31 22:25:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

散り散りになった面々。互いの健勝を祈りつつも、いちいち連絡など取り合ったりはしない。そんな、こっ恥ずかしい事は。だから普段のスーサイドが、こんな記憶をいちいち引きずり出す事もない。なかった。「全くよォ……」スーサイドは呟いた。隣でオイランから酌を受けていたDZが彼を見た。 14

2017-08-31 22:31:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

プレシーズン「シトカへの軌跡」シリーズ:【エリミネイト・アナイアレイター】#1

2017-08-31 22:33:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

DZはクローンヤクザによく似ている。いや、実際クローンヤクザなのかも知れなかった。だがクローンヤクザほど丁寧な言葉で喋る事も無いし、時々「ファック」「クソが」と小声で毒づいている事もある。エージェントだと言うが、仕事の詳細ははっきりしない。出会いも信用のおけない経緯だった。 15

2017-08-31 22:38:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

DZ……DZのクライアントは、スーサイドのジツを必要としているのだという。ソウル・アブソープション・ジツ。ジツとは長い付き合いだ。他人の命を吸う惨たらしいジツ。このジツで、スーサイドはどこまでも利己的になることができた。だが彼は結局つねに自制が効いていた。破滅などゴメンだ。16

2017-08-31 22:45:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーゾドスエ」スーサイドの隣で、オイランがサケを傾けた。スーサイドは注がれたサケを一息に飲み、椅子にもたれた。フージンの壁画墨絵が描かれた個室と円卓。オイランが彼とDZに一人ずつ。だが、円卓の他の席は埋まっていない。ネオサイタマくんだりまで彼を呼び寄せた連中は現れていない。17

2017-08-31 22:48:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

円卓には既にフグサシミを盛りつけた大皿がある。透き通るほどに薄いサシミ。フグの毒はニンジャをも殺す。熟練の職人だけが毒を避けて調理する事ができる。無毒化されたバイオフグが開発された事もある。だがネオサイタマ市民の舌には不人気だった。「……」スーサイドはハシでふた切れつまんだ。18

2017-08-31 22:53:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」DZはそれをじっと見ている。宴の相手が現れぬうちに食事を始めるのはカナリ・シツレイである。「何だよ」スーサイドは咀嚼しながら睨んだ。「いや、何も」「連中の遅刻のシツレイと相殺しとけ」「……」DZはただ肩をすくめた。サイバーサングラスに、しかめ面。 19

2017-08-31 22:55:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お前……」スーサイドは尋ねた。「クローンヤクザか?」何度か繰り返した問いだった。DZはまた肩で反応した。それから言った。「確かに俺には兄弟が多い」その都度返って来た同じ答えだった。スーサイドは身を乗り出した。「オイ。お前。知ってるンだろ」「何を?」「仕事の内容だ」 20

2017-08-31 22:59:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」「知ってるんだよな。お前」「今話す必要もあるまい」DZは無感情に言った。「じきに彼らが来る。DSETARC(デクタ・サキモノ・エメツ・テクノロジー・アンド・リサーチ社)。直接詳細の指示がある」サイバーサングラスの透過率は0。「知ってるんだよな。お前」ネクタイを掴む。21

2017-08-31 23:03:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「フー……」DZはスーサイドの手を払い、タイを直した。そして言った。「ああ。知っている」「言え」「……俺から言えるのは、いいか?」DZはゆっくりと言葉を口にした。「賢くいけ、スーサイド=サン。俺のこの言葉を、よく咀嚼しろ。そのフグのように」「ハン」「全て条件を呑め。全てだ」 22

2017-08-31 23:05:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」「返事はイエスだ。イエスでいい」「オイ。知っているなら……」「イエスだぞ」「チッ」スーサイドは鉄面皮を殴りつけたい衝動に駆られたが、留まった。「……まあいい。確かにお前はクローンヤクザじゃねえようだな」「前から言っている」「兄弟は多い。ああそうだな」 23

2017-08-31 23:07:42