燭へし同棲botログ:長谷部と!

2017/5-8:酔っ払い長谷部を見守る鶴丸と大倶利伽羅
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燭へし同棲bot @dousei_skhs

【長谷部と!】 「……なあ、飲み過ぎじゃないか」 「そんなにのんでない」 「いやいや……」 俺はカウンターの隣に座る相手から、まだ中身の残るグラスを取り上げた。「あー」とかなんとか言っているが、このまま潰れられたら、こいつの過保護な恋人にお小言を頂戴するのが目に見えている。

2017-08-25 22:15:14
燭へし同棲bot @dousei_skhs

この俺に世話を焼かせるなんざ大したものだぜ。俺は、普段のしゃんとした姿勢を崩し、カウンターに半分もたれかかっている隣の人物──長谷部を見ながら苦笑した。 「すまないが、」 「……ああ」 知り合いのバーテンに声を掛けると、彼は少し呆れた顔をしながらも水を置いてくれた。

2017-08-25 22:18:25
燭へし同棲bot @dousei_skhs

今日、仕事終わりに携帯を見ると、珍しい相手から飲みの誘いが入っていた。 長谷部からだった。 俺は今日もともと直帰するつもりだったし、何よりこいつから誘ってくるのはとても珍しいことだ。嬉しい驚きに頬を緩ませつつ、すぐさまOKの返事をした。

2017-08-25 22:20:56
燭へし同棲bot @dousei_skhs

このバーを指定してきたのは長谷部だった。こぢんまりして落ち着いた雰囲気のここは、俺もよく知っている場所だ。久しぶりの人物と気に入った店で飲める。これは思わぬ楽しみが出来たと、俺の心は躍っていたんだ。──飲み始めるまでは。

2017-08-25 22:23:08
燭へし同棲bot @dousei_skhs

序盤から飲み方がおかしかった。そして光坊よりも酒に強いはずの長谷部が、今はこんな酔っ払いになっている。 俺はそのとき思い当たった。もしや「らしくないことを俺に聞きたいがために、勢いづけのとして無茶なペースで飲んでいるのではないか?」と。これは我ながら天才的なひらめきだった。

2017-08-25 22:25:47
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「鶴丸」 「んー?」 「光忠のことなんだが」 「……んん?」 長谷部が三杯めを空けたくらいだろうか。少しゆるい口調になった彼から、俺もよく知る名前が飛び出してきたのは。 「お前は光忠をしっているだろう?」 「うん。お前だって知っているだろう」 「俺と出会うまえの光忠のこと、も」

2017-08-25 22:26:30
燭へし同棲bot @dousei_skhs

顔を伏せているせいで表情は読み取れないが、そんなことをするまでもなく、長谷部の意図はとてもわかりやすいものだった。どうやら、俺のひらめきは的中したらしい。 「……長谷部」 「うん?」 「お前さん、俺に聞かせて欲しいんだろう」 「…………」 「自分の知らない時期の光坊のことを」

2017-08-25 22:27:40
燭へし同棲bot @dousei_skhs

光坊とは、長谷部の恋人である、燭台切光忠という男のことだ。俺と昔から何かと縁のある人物で、長谷部と出会う前からの知り合いでもあった。今でも連絡は取り合うし疎遠になったわけでもない。というか、長谷部というかすがいが出来てから、より仲がよくなったと思うくらいだ。

2017-08-25 22:28:42
燭へし同棲bot @dousei_skhs

今の光坊については、当然長谷部の方がよく知っているだろう。しかしどうしたって、出会う前の光坊の情報は俺の方がたくさん持っている。──長谷部はその部分、つまり自分と出会う前の光坊の空白部分について知りたいと思ったのだろう。理由はわからないが。

2017-08-25 22:30:34
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「そうか。お前から飲みに誘ってくれるなんて珍しいと思ったが」 「……すまない」 「はは、謝ることはない。好いた相手のことなんだ。来し方行く末、なんでも気になって当然さ」 そう言って笑顔を見せてやると、長谷部も安心したように微笑んだ(これも珍しいことだ)。

2017-08-25 22:31:04
燭へし同棲bot @dousei_skhs

確かに、こいつから酒に誘われたのは以外だし嬉しくもあったが、なるほどなるほど、こういう目論みがあったとはな。いやいや、これはこれで面白い。人生には驚きが必要だ! 「よし、……じゃあ何を話そうかな」 「な、なんでもいいんだ」

2017-08-25 22:31:46
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……ふうん。なんでも、……」 長谷部の俺を見る期待に満ちた目に、じわっと悪戯心が湧いてきた。これは自分のよくない癖だとわかってはいるが、わかってはいても止められない。ここは一つ、光坊の格好悪い話でもしてやろうかと口を開きかけた、そのときだった。

2017-08-25 22:32:46
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「光坊はな、」 「おい」 「うおっ」 カウンターの向こうから、男の腕がにゅっと伸びてきた。その腕は美しい所作でもって、俺の前の空いたグラスを、水の入ったものとすり替える。

2017-08-25 22:33:25
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「ああ驚いた。……伽羅坊。客の話を邪魔するのは無粋だぞ」 「俺の客は俺が決める」 「ええ……」 それは伽羅坊の腕だった。 伽羅坊、──大倶利伽羅。ここでバーテンとして働いている、俺たちの知り合いだ。少し捲ったシャツの袖から、トレードマークの倶利伽羅龍の刺青がちらりと見えている。

2017-08-25 22:35:34
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「おおくりから……」 「……長谷部。あんたも水を飲め。残るぞ」 「ん……」 俺たちの会話に顔を上げた長谷部の目には、少し伸びた前髪がかかっていた。伽羅坊はとても自然にそれを指で払い、再び背中を向ける。その瞬間に見えた表情は、口調とは裏腹にとても優しいものだった。

2017-08-25 22:36:57
燭へし同棲bot @dousei_skhs

……見ようによっては恋人同士にも見えるなあ。なんて思ったことが光坊に知られたら恐ろしいから、口が裂けても言わない。けれど、それほど二人の様子は親密に映った。 しかし、勿論だがこの二人は恋仲などではない。 伽羅坊と長谷部は親戚なのだ。

2017-08-25 22:38:10
燭へし同棲bot @dousei_skhs

しかし親戚とは言っても、この二人の血縁はややこしく遠い(らしい)。何度か説明してもらったことがあるが、その場ではなんとなくわかっても家に帰ると忘れてしまっているものだから、いつしかどちらに聞いても詳しくは説明してくれなくなった。

2017-08-25 22:38:47
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「鶴丸」 「うん?」 「長谷部がもう限界だ。送ってやれ」 「俺の心配は?」 「あんたはちっとも酔っていないだろう」 「なんでバレた」 「……何年の付き合いだと思っているんだ」

2017-08-25 22:39:06
燭へし同棲bot @dousei_skhs

溜め息をつく伽羅坊を見て微笑むと、笑うなと一蹴された。相変わらず俺には手厳しい。 しかしまあ、血の繋がりがあるという点を除いても、伽羅坊も長谷部には甘い。……”も”というのは、長谷部甘やかし隊の不動の筆頭には光坊が君臨しているからだ。

2017-08-25 22:39:54
燭へし同棲bot @dousei_skhs

光坊は長谷部をとんでもなく可愛がっている。それはいやと言うほどわかっているが、伽羅坊の長谷部に対するそれもなかかだと思う。本人に言ったら即座に否定するだろうから言わないが、今のやり取りで推して知るべし、だ。

2017-08-25 22:40:45
燭へし同棲bot @dousei_skhs

実は、伽羅坊は長谷部と光忠、どちらとも繋がりがある。だから伽羅坊はどちらも知っている。光坊と出会う前の長谷部も、長谷部と出会う前の光坊も。お互いに相手を見出す前の、まだ誰のものでもなかったふたりを。

2017-08-25 22:41:37
燭へし同棲bot @dousei_skhs

光坊と出会ってからは長谷部より光坊と仲が良くなったような伽羅坊だが、今でも長谷部になにかあったなら迷わず飛んでいくのだろうと思う。だってこいつは昔…… 「知っているんだぞ」 「何をだ」 「昔、長谷部が誰かさんに泣かされたことがあったそうだな」

2017-08-25 22:42:38
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「…………」 「それを知るなり、別の誰かさんは木刀を持って光坊の、あっ、光坊って言っちまった」 「…………」 「まあいいや。そいつはその足で、光坊のところへ殴り込みに行ったらしいじゃないか」 「……誰から聞いた」 「秘密だ」 「チッ」

2017-08-25 22:43:23
燭へし同棲bot @dousei_skhs

俺もその場にいた訳ではないから人づてに聞いただけだが、その昔、まだ伽羅坊が光坊よりも長谷部とよく一緒にいた時分のこと。珍しく長谷部が泣いているのを、伽羅坊が偶然見つけた。しゃくりあげる長谷部の口を半ば強引に割らせると、なんでも最近恋仲になった相手と諍いがあったのだという。

2017-08-25 22:44:24
燭へし同棲bot @dousei_skhs

聞けば長谷部は何も悪くない。すべて光忠という男が悪いのだと、伽羅坊は判断したらしかった。第三者が聞けば、確実に伽羅坊の判官贔屓……というか、身内を庇う心理が働いた結果だろう。それでも一度伽羅坊に灯った怒りの炎は治まらず、光坊は大事な身内を泣かされた彼にボッコボコにされたらしい。

2017-08-25 22:44:50