『霧中山端 之 夢』【夢の話７１】

天晶 @tensyou99

自分は車を運転していた。軽自動車であった。 後ろには誰も座っていない。 目の前には薄霧に覆われた視界が広がっている。どうやらどこか渓谷の近くのようだ。 #夢の話

天晶 @tensyou99

助手席に置いてある鞄が震える。どうやらスマホに着信が来たようだ。左手を鞄の中につっこみ、手探りで通話ボタンを押した。耳にはすでにイヤホンマイクが装着してある。 ある女性の穏やかな声がイヤホンから響いた。もう少しで目的地に着くという内容が聞こえてくる。 #夢の話

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めちゃくちゃ参考にならない情報を呟いておくと、自分がいま通っている会社の求人情報には残業が数字上では１～２時間ほどあると書いてあった。が、実際に会ってそのことを聞いてみると「あ、一応何かいわれると困るから多目に書いといたんだよねー」との返答であった。実際、この会社は残業が少ない。

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それと同時に薄霧の向こう側に車の後ろ姿が浮かび上がる。電話の話し相手である女性が乗っている車だ。 彼女の車の後を追うようにして自分は車を走らせる。２人で移動するならば一つの車に２人で乗ればいいように思えるが、どうやら車を移動させることが目的の一つであるらしい。 #夢の話

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しばらくすると大きな橋が見えてくる。全体としては大きいが、道幅はその大きさからは考えられないほどに細く、自分たちが運転する車が一台づつ、やっと通ることができるほどの幅であった。 相変わらず霧は濃く、周りの様子を隠すように立ちこめている。 #夢の話

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自分が運転する車がゆっくりと橋へと乗り上げていく。 何故か橋の底面はうっすらと水に覆われていた。どうやら進行方向から流れてくるようだ。ということは橋の先には滝やら何やらがあるのだろうかと、自分は適当に当てをつける。 不意に、橋が割れた。 #夢の話

天晶 @tensyou99

跳ね橋のように横の割れるのではなく、自分の進行方向と平行にだ。ちょうど真ん中から割れているせいで今は大丈夫だが、車体が少しでもどちらかに寄りすぎると橋の割れ目に車のタイヤが落ちるだろうし、これ以上割れ目が開けば車ごと落ちる可能性もあるだろう。 #夢の話

天晶 @tensyou99

ちょっとまてこんなの聞いてないぞ。と、自分はマイクに向かって焦った声をかける。まあ、多分大丈夫じゃないかな。と、のんびりした声が返ってきた。 これ絶対死人とか出てるだろ。と、自分は必死にハンドルを握りながら文句を言う。 #夢の話

天晶 @tensyou99

真っ直ぐに運転すればいいだけなのだが、割れ目は徐々に開いてきていおり、路面を水が覆っているせいでハンドルが安定しない。そして自分は無免である。 そんなに出てないよー。との声に、出てるのかよ！と自分は間髪入れずに突っ込みながら頭を抱える。相変わらずマイペースすぎて頭が痛い。#夢の話

天晶 @tensyou99

で、年に何人ぐらい出てるんだ？と、尋ねる。 …２５人ぐらいかな？と、彼女はそのままの調子で返事をした。 多いじゃねぇか！と自分が突っ込んだのは言うまでもないだろう。 #夢の話

天晶 @tensyou99

そんなこんなの会話を交わしている間に自分たちは無事に橋の向こう側まで渡りきることが出来た。その後、しばらく車を走らせてから開けた場所に車を止める。 近くにはログハウスのような建物が一軒あった。ほかに建物は一つも見ることが出来ない。有るのは木と山とおざなり程度の畑だけだ。 #夢の話

天晶 @tensyou99

霧はいつの間にか晴れ、先ほどまでの様子が嘘のように燦々と日が照っていた。 自分たちは車を降りると、ログハウスのような建物に向かう。住居にするには少し大きいぐらいの建物だ。 #夢の話

天晶 @tensyou99

前の車を運転していた女性と合流して、建物の大きさに比例した玄関のすぐ脇にあるベルを押した。すぐに住人らしき男性が出てくる。 若い男性だった。軽装であり、人里離れたところに暮らしている雰囲気に反しない、アクティブそうな体つきをしている。 #夢の話

天晶 @tensyou99

男性の案内で屋内へと進む。屋内も木造で、目に見えるところに多くの木材が使われている。宣伝文句をつけるなら「木のぬくもりを感じる家」とか、「まるで森の中にいるような心地よさ」とか、そんな感じになりそうだ。 #夢の話

天晶 @tensyou99

前２人がなにか話していたがその内容を聞かず、自分はそんなどうでもいいことをつらつらと考えながら歩いている。と、不意に進行速度が緩まった。どうやらメインの部屋に近づいているらしい。 #夢の話

天晶 @tensyou99

どうもただならぬ様子に自分が首を傾げると、前を歩いていた女性が自分の方を少し振り向き、自身の唇に人差し指を当てた。 正直な話、自分は何かする気は全くなかった。なので、彼女のサインにもただ頷いただけで深くは追求しなかった。 狭い廊下を抜けて、広い部屋にでた。 #夢の話

天晶 @tensyou99

その広い部屋を囲むようにして設置されたガラス戸から、陽光が惜しげもなく注ぎ込まれていた。その陽光は磨き抜かれたフローリングで反射して、部屋に光を充満させている。 あまりの眩しさに自分は目を細めるが、それでもなお眩しく、右手を目の前においた。 #夢の話

天晶 @tensyou99

その部屋にはテーブルや椅子などの家具が一切置いていなかった。そのせいで視界は広々として、それは何も置いていない教室や体育館を連想させた。 家具がない代わりに、部屋に無数にあるモノが置いてあった。 オモチャだ。 #夢の話

天晶 @tensyou99

人形の割合が高いが、積み木なども所々に混ざっている。そして、そのオモチャたちで遊んでいるのは、一人の女性であった。ぱっと見たところ、年齢がわからない。彼女の年齢を不明瞭にしている原因が一つあった。 #夢の話

天晶 @tensyou99

彼女は障害者であった。おそらく生まれつき精神疾患などを患っているのだろう。独特の雰囲気をまとい、彼女自身の情報を不明瞭にしていた。 彼女のお気に入りは人形らしい。唐突に現れた自分たちを気にもせずプラスチック製の人形で遊んでいる。 #夢の話

天晶 @tensyou99

人形で遊んでいる、と聞くと着せかえや人形劇などを思い浮かべるが、彼女の人形での遊び方は少し変わったものであった。 彼女は、プラスチック製の人形の首を捻り、捻り、捻り、捻り、引き伸ばし、引きちぎった。 #夢の話

天晶 @tensyou99

きゃっきゃっと、手を叩いて彼女は無邪気に笑う。その様子を男性は複雑な顔で見ていた。どうやら彼の娘か、それでなくとも近しい人物のようだ。 自分が彼女に近寄ろうとすると、一緒に来た女性がそれを腕で制した。自分が抗議の視線を送ると女性は黙ったまま首を横に振った。 #夢の話

天晶 @tensyou99

しかし、あのままでは何の進展も得られんぞ。との内容を、自分は手振りのみで女性に伝える。男性は色々と試してはいるが、反応は芳しくない。 どうみても方法が良くなかった。彼にもそれは分かっているだろうが、おそらくどういった風に方法を変えればいいのかが分からないのだろう。#夢の話

天晶 @tensyou99

自分は一緒に来た女性の手をそっと除けると、人形の首を千切る女性の方へと歩み寄る。男性は少々、不安な顔をしながらも自分へと場所を開けた。 自分は彼女の傍らに座ると、人形の一つを手に取り彼女に習うように首を捻り、ちぎり取った。 #夢の話

天晶 @tensyou99

きゃっきゃと、手を叩き喜ぶ彼女。自分はその声に答えるかのようにまた一つ、首を引きちぎった。 相手と同じ土俵に立つこと。それがこういったケースでは非常に重要となってくる。 それを見ていた男性も、同じように人形の首を引きちぎる。やはり女性はきゃっきゃと喜び、手を叩く。 #夢の話