- schsch_schwein_
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@schsch_schwein_ 「手を、ありがとうございます」 「…………」 「その」 「謝りませんから、ね」 我ながら何と子供っぽいのだろう、とは思いつつ。 どうにも口が尖るのは抑えられそうにないようだ。
2016-08-12 02:27:46@carnevans215 手を取ってくれたことに、小さく笑み、引っ張り上げる。 男にしてはたっぱのない己だが、それでも小柄な彼女よりは大きいので、自然と見下ろす形になった。改めて綺麗な子だな、と素直に思う。柔肌の火傷や裂傷、斬傷が、一頻り治ってることにも安堵を覚えて。↓
2016-08-12 02:46:15@carnevans215 「このくらいはね」 「治してくれて、綺麗な魔法を見せてくれたから」 「ん?」 続く言葉に、あっけらかんと笑った。 「いいよぉ。僕だって、謝らないもの」 自分で、己の生業を、否定するつもりはない。 だから、これでおあいこ、と。↓
2016-08-12 02:47:16@carnevans215 「それに尤もだからね。だから、いい」 知ったような口を利くのは憚られたけれども、彼女の憤懣は全く以て道理、だと。
2016-08-12 02:47:25@schsch_schwein_ 尤も、か。そうか。 「あの」 もっと怒ってもいいのですよ、と言葉にしかけて、止める。 今回、被害に遭ったのは明らかに彼の方なのに。いいというなら追及もできないけれど、狩りに勝ったのは彼だ。何か要求するくらいが正当なのでは、と思う。↓
2016-08-12 22:09:44@schsch_schwein_ しかし、尤もという、その言葉。不満の一つも見せない顔。 それらが彼の、彼の生き方に対する一つの答えだというなら、それを甘んじて見留めるのも、私の責務なのかもしれない。 本当に人好きのする青年である。↓
2016-08-12 22:09:54@schsch_schwein_ 「……よろしい、ですか。分かりました」 屈託の無い笑みに釣られて口元が緩む。 先程までの殺劇が嘘のような穏やかさに思わず息をついたところで、 東の山の峰から、光の筋が零れ落ちた。↓
2016-08-12 22:10:05@schsch_schwein_ 夜が引いていく。 「……改めて、"宝石商"殿」 貴石の光を抱える青年に向き直る。 「本日はご無礼を致しました。之なる振る舞いは、我が領主の思惑から外れたこと。どうか、黄金領には一切関わりのないこととお考え頂きたい」 身勝手なお願いですが、と。↓
2016-08-12 22:11:29@schsch_schwein_ 「私はこれ以上、貴方に刃を向けることはありません」 「ですので、どうかご安心なさってほしい。ここから立ち去る際にも、その命を脅かすようなことは致しません」 「私は……もう少し、此処に残ります」 頭を下げ、酌量を乞う。↓
2016-08-12 22:12:58@schsch_schwein_ 見送りもせず申し訳ないとは思うが、迷惑ついでだ。今はいっそ好意に甘えさせてもらおう。 本来の朝陽が森を埋めていく。 朝ぼらけの白い月が頭を上げ、夜の貴族に微笑んでいる。
2016-08-12 22:13:48@carnevans215 ふわり、月から微笑みが零れる。 つい今しがたの、どこか拗ねたような表情が和らいで、綻び、その変化に思わず、きょとんと瞬いたところで。 夢の燎原の彼方に、現の朝が訪れる。↓
2016-08-12 23:25:03@carnevans215 礼を尽くした言葉と下げられた頭に、再び呆気にとられる。 「謝らないでってば。謝られると、困っちゃうからさぁ」 許さないでいてくれて、よかったのに。 望むならば、いつでも、続きを受けて立つのに。 「……はいな、大丈夫。心得ているよ」↓
2016-08-12 23:25:22@carnevans215 けれどもそれは、恐らく彼女が折り合いづけてくれたこと、ゆえ。 「ん、わかった。……綺麗だものね」 首肯し、受け取った。 灼花の地に立つ、紅玉の小刀。拾って返そうとも思ったが、夢の燎原を覚ませてしまうかもしれないと思えば、勿体なく、そのままに。↓
2016-08-12 23:25:48@carnevans215 その熱情色の宝石を眺め、少し感じ入った心地で、口にする。 「“宝石商”、か」 己には勿体ないくらいの呼び名は、存外嬉しかったから。それも。 「ちゃんと貰ってくよ、“明月の”」 日輪に添う、月色。 明るい朝日の中にあって、なお、白く。 あかつき、の。 ↓
2016-08-12 23:26:20@carnevans215 名残を惜しむように、暁の空を仰いで。 それから、明月の姫に顔を向けると、軽く片手を上げて。 「またね」 その三音と、微笑みを一つ。 夜は朝を背に、帰る場所へと、歩き出した。
2016-08-12 23:26:28@schsch_schwein_ 「はい、いずれ。また」 目を細めてその後ろ姿を見送った。 確かな足取り。 やがて、強欲の姿が消える頃。 鳥達の声が朝の空気を揺り起こす。 かくて長く燻り続けた怨嗟の刃は彼へ達し、 明月は木立に背を預け、遠く西の空を眺める。↓
2016-08-13 00:08:02@schsch_schwein_ 朝露に濡れた土の匂いがした。 地に根付く緋色の花もじきに散るだろう。 「けど、それでいいんです」 私たちは、生きていかなければいけない。 それは前に進むのと同じこと。 だから、いつまでも甘く温かな夜には留まれない。 留まれはしない、が――↓
2016-08-13 00:08:28@schsch_schwein_ (今は) (今だけは、少し、このままで……) せめて、この花弁が露と消えるまで。 夜明けに揺れる虹炎が、何処かの果てに還るまで。 この光景を、瞳に灼き付けていよう。↓
2016-08-13 00:08:55月の犬と黒豚。 獣の姫君と宝石商。 白灼月と黒欲炉。 pic.twitter.com/5oxHiX3V0V
2017-09-12 04:36:36