ビフォア・ザ・ストーム・ゴーズ・アウェイ ＃１

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

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NINJA SLAYER PLUSより【ビフォア・ザ・ストーム・ゴーズ・アウェイ】＃１ pic.twitter.com/FYybHSoWmw

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「フゥー……」ウェイストランドの氷雪嵐がもたらす冷気の中で、チーフマッポは重い息を吐いた。目の前には部下のマッポ隊。その向こうには家族の安否情報を求める住民たち。規定により、バリケードを解除するわけにはゆかない。さらなる混乱と、やおもすれば多数の犠牲者を生み出しかねないからだ。1

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だがこのまま膠着が続けば、衝突を余儀なくされるだろう。ガガピー。無線機が鳴る。ようやく本部とのIRC音声通信が開いた。『ドーモ』「ドーモ！地上部から危険ケミカル反応や危険ニューク反応は検出されていない！せめて住民を避難させられんか！？」チーフマッポはIRC通信機でがなりたてる。２

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返ってきたのは無表情な電子オペマイコ音声『オツカレサマドスエ。建物内における危険についての懸念は、依然として払拭されておりませんドスエ』「上階へ向かったチームは！？」『ヤナマンチ社、並びにマトモ社のビル警備チーム、ともに通信途絶。局所的磁気嵐またはバイタルサインの消失可能性も』３

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「ファック！これ以上は持ちこたえられんぞ！衝突が起こりそうだ！」『そのために皆さんが雇われています』右腰のライオット拳銃がいつになく重く感じられる。彼は暗黒メガコーポへの罵倒を嚙み殺しながら、電子マイコに問うた。「応援はまだ到着しないのか！？中の調査を行えんと、身動きが……」４

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『ご安心ください。このブリザードがやみ次第、ヤナマンチ社に加え、アダナス社、およびカタナ社の科学的関心チームが近隣のベースコロニーから出撃予定』「本当か！？有難い！」声を弾ませかけ、口に手を当てた。「……いや、ちょっと待ってくれ！アダナス社に、カタナ社まで強行調査チームを！？」５

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エキサイトしすぎた事に気づいたチーフマッポは声のトーンを落とし、周囲を一瞥してから無線機に囁いた。「……このコロニーの規模がわかっているのか！？戦闘領域じゃないんだぞ」……関係各社の数が多すぎる。このままではビル内で間違いなく、各暗黒メガコーポチームの”不慮の衝突”が起こる。　６

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ドサンコ・メガコーポ組合はそうした悲惨な事故を覚えていないのか？いや、それすらも全て承知の上でのリサーチか？…ふざけやがって。チーフマッポは怒りのあまり、ソーセージめいた指で無線レシーバーを握りつぶしそうになった。『非常時ですので、ご了承くださいドスエ』電子オペマイコの無表情。７

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『そして今回の異常事態に対して、関係各社は大きな興味を示し、強行調査チームの派遣を検討しておりますドスエ。カラダニキヲツケテネ』「くそったれめ……！せめて、内部の住人を退避……！」ガガピー。無線はシャットダウンされた。「ファック……！」　８

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コロニーマッポ達の防寒コートには、サッカースタジアムで戦う選手めいて、大小さまざまの暗黒メガコーポ・スポンサー章ワッペンが縫い付けられている。2038年の国家崩壊後、警察機構は民間事業となり、チーフマッポですら暗黒メガコーポの規定に従う。現場判断の余地は、かつて以上に少ない。　９

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チーフはぬるいマッチャを飲みながら、威厳を示すために胸を張り、再び重い息を吐いた。バリケードで押し合いを続ける住民たちの中に、まだ幼い少年の姿を見つけると、そこに自らの家族を重ね合わせたか、チーフマッポは厳めしいティアドロップ型サングラスの下で、すまなそうに眉根を寄せた。　10

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「アイエエエ！家が……お母さんが！」宇宙服めいた防寒着の少年は、異常なありさまの高層マンションを呆然と見上げていた。三十分前、小学校帰りのバスから降りると、彼の住むタワーマンションの中階から上は闇に包まれていた。漢字サーチライトの光すらも通さない、巨大な超自然の影であった。　11

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……影の輪郭は巨大な薔薇の蔦か黒い触手のように蠢き、徐々に下の階まで勢力を広げようとしていた。　12

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ここは極寒のドサンコ・ウェイストランド。壁で守られたコロニーのひとつ。その中心部に屹立する高層ビルディング、「ロワイヤルタワー・ホッカイド」。かつてレジャー人気で高値を誇った大規模ラグジュアリー・マンションだが、今では永遠の価値下落を続ける巨大な負債の塊だ。　13

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それでもまだコロニーに人は大勢残っている。ウェイストランドのエメツ鉱脈を探し求め、労働力の流入も続いている。人々はこの過酷な地で暮らし続けているのだ。　14

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タワーマンションの周囲には、既に何重にも人だかりができていた。建物のエントランスと駐車場入り口は、コロニーマッポとその武装ビークル群によって完全封鎖されている。そのバリケードと接するのは、住民と思しき者たちが少なくとも二百名。その後方には、野次馬と思しき者が数百名。　15

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「どうなってんだ！？火災なのか！？俺の三十年ローンどうなってんだ！？」「危険です！何らかの化学兵器が使われた可能性も」「ザッケンナコラー！中に家族がいるんだよ！」「危険です！近づかないで！」「通せコラーッ！」サーチライト光に引き寄せられ、野次馬の数はなおも増え続けている。　16

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まだ中階層から上には住民が残っている。コロニーマッポと住民の緊張は高まり、今にも衝突へと発展しそうだ。「ア……ア……」この少年にも家族がいる。あのタワーマンションの高層階に、母と妹がいるのだ。そこが彼の帰るべき家だ。　17

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「あの、あの……どいてください、どいてください……！」人ごみをかき分けて進もうとしたが、無駄な努力であった。屈強なコロニーマッポ隊が簡易バリケードを作り、エントランスへの道を封鎖して、住民たちと押し合いを続けている。人々は怒気を孕み、少年のことなど目に入らない。　18

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「ヤッチマウゾコラーッ！」見覚えのある別の階の老婦人でさえ、苛立ち、杖を振り上げてマッポに食ってかかっていた。まるで獣だ。家族を思う気持ちが、普段温厚な人々を獣へ変えようとしている。少年は怯え、無力感に苛まれた。今の自分に何ができよう。できるのは、巨大な影を見上げる事だけ。　19

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……その直後、少年は異様なアトモスフィアを感じ取り、怖気を振るった。「アイエッ……？」その感覚は、少年が眠れない夜にベッドの下や階段の下、クローゼットの中、あるいはトイレに向かう途中のそこかしこの暗闇から感じる、言いようのない恐怖にも似ていた。　20

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少年は怯えながら、周囲をキョロキョロと見渡した。闇に潜む怪物の恐怖。目に見えない、この世のものではない何か。それと同じ感覚が、いま不意に少年を襲っていたのだ。「アイエエエ……？」少年は不安で爪を噛みながら、懸命に探し求めた。そして見つけ出した。この不穏な胸騒ぎの出どころを。　21

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……やや後方の人ごみの中、黒いニンジャフードを目深に被った男が、タワーマンションを見上げていた。少年の場所から見ると、男の顔の部分には暗い影が落ち、口元しか見えない。周囲の人々の目はバリケードでの悶着と上空の影にのみ集中しており、この男の存在に全く注意を払っていないようだ。　22

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それでも少年にはわかる。この男は何かがおかしい。この世のものではない。もしやタワーマンションを覆う暗黒は、この男が作り出しているのではないか、そして人々が困惑する様子をここで眺めているのだろうか、とすら思えてきた。　23