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(これまでのあらすじ:フジキドを誘い、ネオサイタマのネブタパレード・フェスティバルに繰り出したエーリアス。花火を見る場所を一人探しに行った彼女は、家族とはぐれ迷子になったタクロ少年と出会う。) #josh_txt
2017-10-05 20:14:13やがて日もすっかり落ち、周囲にはスモッグめいた霧がうっすら立ちこめ始めた。貪婪の都ネオサイタマの象徴である繁華街の喧騒やマグロツェッペリンが投げかける広告音声もここには無縁の存在であるかのようで、聞こえるのはバイオコオロギの鳴き声と遠い笛の音、そして2人分の足音だけだった。1
2017-10-05 20:19:15タクロと名乗った少年とその手を引くエーリアスの様子は傍から見れば年の離れた姉弟めいていた。「タクロ君、年はいくつ?」「8才。アケビより2つ上なんだよ」「そうかァ、お兄ちゃんだね」「アケビに会えなかったらどうしよう」「大丈夫だって。絶対見つかるから」「うん……」 2
2017-10-05 20:24:11「そのサングラスさ。お母さんとクローズドIRCとか、出来たりするんじゃないの?」少年は静かに首を振った。「さっきから、できない。こわれちゃったのかな」「そっか」「うん」「なンだろね」タクロのサイバーサングラスは時おり「エラー」の文字列を頼りなげにチカチカと表示している。 3
2017-10-05 20:29:31エーリアスは少年を元気づけながら歩みを進める。「そうだ、アケビ=チャンが見つかったらお祝いに表通りで何か買ってやるよ。二人で仲良く食べるんだぞ。何がいい?アイスでも、テンプラでも、トウモロコシでも、イカケバブでも……」「うん……」ピィー……ヒョロロロ…… 4
2017-10-05 20:32:27笛は以前から変わらずに鳴り続けている。(何か……おかしい。しばらく歩いているはずなのに、何で俺たちは表通りにも着かないし、祭りの参加者にも出くわしてないんだ?)周囲を見回せば、ネオサイタマには不釣り合いな、時代を感じさせる西洋様式の廃墟めいた家。 5
2017-10-05 20:35:51エーリアスのニューロンが未知なる脅威への警戒でヒリついた。少年と繋いでいない方の手をこめかみに当て、周囲を探る。なぜ今になるまで敵性存在に気づけなかったか。ウカツだった。何らかのジャミングか。ならばそのジャミング電波の発信源を逆にたどれば…… 6
2017-10-05 20:42:53エーリアスは真剣な面持ちで少年の目を見た。「いいかい、落ち着いて、よく聞いてくれ。今俺たちは、ちょっと危ないことになってる。悪いやつが俺たちを狙ってるンだ」「それって、ニンジャみたいなやつ?」「エッ?」 7
2017-10-05 20:45:31エーリアスは驚きを隠せない様子で少年の顔を見返した。少年はごく当たり前のように続けた。「まえに読んだ本に出てきた。ニンポやジツを使う、わるいやつ」「そ、そうだよな。そう、ニンジャだよ。まァ悪いやつばっかりって訳じゃないけど……うん、あいつは悪いやつだよ」 8
2017-10-05 20:51:04「ぼく達、どうなっちゃうの?」「俺がなんとかする。絶対に大丈夫だから」エーリアスは少年の顔を両手で優しく挟み込むようにして、正面から目を見つめて言った。「だから、タクロ君は……そうだな……この家のところに隠れていい子にしててくれ」「うん」 9
2017-10-05 20:55:32タクロを物陰に導き、エーリアスは続けた。「この後は俺がさ、どう言ったらいいのかな。なんとかするから。やっつける。あいつを」「やっつける?」「ああ。俺も頑張るから、タクロ君も頑張るんだぞ。いい子にしててな」「……いい子にしてたら、ちゅー、してくれる?」 10
2017-10-05 21:00:25エーリアスは予想外の要求に狼狽した。「アイエッ!?……お、俺が?ナンデ!?」「お母さんは、ぼくがいい子にしてたらちゅーしてくれる。かけっこで一番だったときも、こわい夢みたときも。お姉ちゃんも、してくれる?」エーリアスのニンジャ聴覚は少年の声のかすかな震えを感じ取っていた。 11
2017-10-05 21:05:43「……わかったよ。でも危ないから、君は絶対にじっとして隠れているんだ。あの悪いニンジャは俺がやっつけてやるよ。なんてったって俺は」エーリアスは少年の目を見て何かを言おうとして止め、少しの間考えた後に彼女は少年の頭を軽く撫でた。 12
2017-10-05 21:10:43自我が未だ完全に確立していない子供のローカルコトダマ空間の構造は、広いがシンプルだ。芽吹きつつある不安を覆い隠してやのは実際簡単なことだ。一瞬の後にサイコ診療は行われ、彼女は笑顔で少年に告げた。昔見たカートゥーンの決め台詞だ。そういえば、前にもこれを言った気がする。 13
2017-10-05 21:15:06あの時は自分を鼓舞するため。今回は。「……俺のアイキドーは22段だからな」エーリアスは走り出した。霧の中に下駄の音が勇ましく響いた。 14
2017-10-05 21:17:38……ピー……ヒョロロロ。虚無僧めいた男が一人、笛を吹きながら道を歩く。男の他に道を歩く物の姿はない……いや、一人いる。下駄を履いて走る音が遠くより聞こえ……やがて男の目の前で止まる。「ドーモ。エーリアス・ディクタスです。その笛、アンタのジツだな」 16
2017-10-05 21:24:02「ククク……ドーモ。ハーメルンです。これはこれは、子供に加えて若い娘まで釣れるとは。しかも……ニンジャ?」「俺たちをこんなところに隔離してどうするつもりだ、アア!?」エーリアスは凄みをきかせた。その表情は先程とは打って変わって怒りが満ちている。 17
2017-10-05 21:28:47「決まってるじゃないですか!私のかわいいコレクションに……あなたは少々年齢的に範疇外だが……ククク」辺りの超自然の霧の隙間からは、小さな檻が見え隠れしていた。その中からは、か細い悲鳴が時おり聞こえてくる。「アイエエ……」「お前、ひょっとしてこの子達も」 18
2017-10-05 21:33:54ナムアミダブツ!かつて異国の地で子どもたちが集団失踪した事件を想起した読者の方も多いだろう。ある者は笛の音に誘われ夢遊病めいて歩く子供を目撃し、またある者は奇妙な笛の音を聞き、そしてその全員が集団発狂した……歴史の闇が、いま再びネオサイタマの地に顕現したというのか! 19
2017-10-05 21:38:56「さあ、あなたも変わり種としてコレクションに加えてあげましょう!マテキ・ジツ!イヤーッ!」キイイイ!独特かつ不快な超音波めいた笛の音が鳴り響く!「グワーッ!?」先手を許し、たじろぐエーリアス! 20
2017-10-05 21:43:07「さあ、このジツをもろに受けたあなたはニンジャといえど私に服従重点……、バ、バカナー!」おお、見よ!滲み出る鼻血を袖で拭いながらも立ち続け、不敵に笑うのはエーリアス!「ヒュプノ・ジツの類か?あいにく、そういった類のハッキングはこっちも専門分野でな……!」 21
2017-10-07 20:50:43逆にジツに絶対の自信を持っていたハーメルンは驚きを隠せない!「な、ならばこうだ!イヤーッ!」マテキ・ジツ最大出力!さながら音響兵器めいた高指向性の催眠音波がエーリアスを襲う!「効かねえ……ンだよ!」 22
2017-10-07 20:56:31鼻血を流しながら耐えるエーリアスはジツの切れた一瞬の隙に憤怒の形相でハーメルンに向けて走り込み、飛びかかる!「イヤーッ!」全体重を乗せたジャンプパンチだ!不意をつかれ、ブリッジ回避もままならずまともにこれを受けたハーメルンは地面に転がる!「グワーッ!」 23
2017-10-07 21:01:59