ビフォア・ザ・ストーム・ゴーズ・アウェイ #2

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「別に、マッポは殺してないし…気絶してるだけでしょ」彼女はまだ少し反抗的だった。これ以上の時間を浪費する気はない。シャドウウィーヴは舌打ちし、情け容赦なく腕を捻り上げた。関節が軋み、アンブラは痛みで思わず喘いだ。「この先の話だ。突入チーム同士が戦闘し、住民まで犠牲になるぞ」 23

2017-10-09 23:23:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シャドウウィーヴは続ける「そうなれば奴らも引っ込みがつかない。地の果てまでお前を追ってくる。暗黒メガコーポはニンジャを多数抱えている。お前のカラテで抵抗できるか?いや、十秒ももたないな」彼はアンブラの目を覗き込んだ「そして奴らはお前を屈服させ、奴隷にする。その力も何もかも。 24

2017-10-09 23:27:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だから、やめろ。お前はもう人間ではない。人間の考え方をやめろ。いいか、お前はニンジャになったんだ」…しばしアンブラは獣めいて歯ぎしりをし、睨み合った。この男は敵のはずだ。いや、間違いなく敵だ。抑えつけ、力を奪いにきた男だ。親や学校のセンセイと同じ、可能性を摘み取ってゆく男だ。25

2017-10-09 23:31:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そのはずだ。だが最後の方の言葉に、何か引っかかるものがあった。何故この男は、これほど哀しげに命じるのだろう。彼女は短い思案を行った。それは全く理論的ではなく、感情的な判断だった。「……解った」アンブラは頷いた。次第に理性が戻ってきた。確かに、他の住民が犠牲になるのは良くない。26

2017-10-09 23:35:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼女は暗黒メガコーポが大嫌いだった。将来について何を考えても、最後は暗黒メガコーポに行き着く。途方もなく巨大なオブツダンのように、自分の人生の前に聳え立っている。奴らに大手を振って暴れさせる機会を与えるのは良くない……。最高に良くない……。 27

2017-10-09 23:37:34
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「……解ったよ、ごめん、そこまで色々考えてなかった。止めるよ。クソ野郎にはなりたくないし」彼女は目を閉じ、肩を落として、荒い深呼吸を行った。「制御の方法は解るな?」シャドウウィーヴは手を離した。「解ってる」アンブラは目を閉じたまま言った。そして鋭いカラテシャウトを発した。 28

2017-10-09 23:41:14
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「……イヤーッ!」次の瞬間、ロワイヤルタワー・ホッカイドを包んでいた超自然の影が、余りにも呆気なく溶け消えて行った。 29

2017-10-09 23:43:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

不快な漢字サーチライト光が、再び窓の向こうを横切った。今回はそれが天井に微かに反射し、途方もなく暗い室内を、一瞬だけ照らした。床に散らばるゴミと、白いミニバイオクジラの縫いぐるみと、脱ぎ散らかした衣服と、教科書や試験プリント類と、バットで穴だらけになった壁。 30

2017-10-09 23:45:54
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地上ではチーフマッポが通信機にがなり立てる。影は晴れた。武装ヘリや突入チームを派遣する必要は無いのだと。それから安堵の息を吐き、温いマッチャを飲んだ。厳しいサングラスの奥で笑みを作ると、勇気付けるように、近くにいた少年の肩を叩いた。もう大丈夫。君の家族はきっと大丈夫だ、と。 31

2017-10-09 23:51:04
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少年は意を決して、チーフマッポの耳元で告げた。「あのね、ニンジャがいたんですよ」と。「うん?そうか」チーフマッポはその意味を理解できず、肩をすくめた。「それで?」「それで、何かして、解決したんですよ」「そうかもしれんな」「絶対そうですよ」少年は誇らしげだった。 32

2017-10-09 23:54:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

数十分後、復帰したビル警備マッポチームが屋内の安全を報告。ビル内の住民の避難が開始された。影は晴れた。二つの影が屋上からその様子を見下ろしていた。男は地平の果てを睨み、暗黒メガコーポの接近を警戒し続けていた。武装ヘリは現れない。衝突は回避されたのだ。少なくとも、今のところは。34

2017-10-10 00:00:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まだいる」アンブラは屋上の縁に座ったまま、煙草を吸い、サングラス越しにシャドウウィーヴのほうを一瞥した。「私の夢なんだから、もう消えてもいいと思うんだけど」 35

2017-10-10 00:02:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「夢でも狂気でもないと言ったろう」シャドウウィーヴは向き直り、両手を広げて見せた。砕けた月に照らされて、彼の足元の影がざわめき、精密な影の地球儀めいたものを編み上げた。「ご覧の通りの、これが現実だ」「それ……何?」アンブラは問うた。明らかに興味を惹かれていた。 36

2017-10-10 00:05:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「これでお前を見つけた」シャドウウィーヴはそれを回した。精密なステッチめいて、経路が影の地球儀に描かれてゆく。ドサンコ。キョート。北米。東欧。死海。東アジア中部。あるいはエジプト。何箇所も。しばしばそれらの地点は六分儀状に拡大され、精密な都市の輪郭らしきものすら編み上げた。 37

2017-10-10 00:09:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「他にも行くべき場所がある。探さなくちゃいけないのは、お前だけじゃない」「どういう事?」アンブラは首を傾げた。「長い話になる。ここは落ち着かない」シャドウウィーヴはライダーゴーグルをかけ、路地裏で待機するアイアンオトメへとIRCを送った。「まずはどこか目立たない場所へ行く」 38

2017-10-10 00:13:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そしておもむろに踵を返し、跳躍した。「……動き続けろ」「ちょっと、この高さ……!」アンブラは青ざめた。だがシャドウウィーヴは軽々と六車線道路の距離を渡り、定期的に動く何本もの漢字サーチライト光すらも巧みに回避して、なめらかな抛物線を描きながら、反対側のビルへと着地した。 39

2017-10-10 00:16:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そして彼女に向かって手招きし、「ついてこい」とマスターは言った。インストラクションが始まるのだ。アンブラはそれを本能的に悟った。そして不敵に微笑み、タワーの縁から跳躍した。 40

2017-10-10 00:19:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ビフォア・ザ・ストーム・ゴーズ・アウェイ】終

2017-10-10 00:20:53