マイアミ鎮守府特別編「Bride」 中編

ーこの作品に登場する「彼」は作者の許可を得ており実際違法ではないー マイアミ鎮守府物理書籍版「OverKill」より
1
前へ 1 2 ・・ 5 次へ
orphe @orphechin

「いいから僕のカタログ、返せよ!」 取りすがる男に女は蹴りを食らわせる。意外と武術の心得のある蹴りと見え、男は勢い良く吹き飛び、無様に地面にたたきつけられた。 「あんたみたいなザコのキモオタ、ケッコンする資格もなければ提督やってる価値もないんだよ」女が笑う。 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:06:06
orphe @orphechin

「提督ってのはね、あたしらみたいに綺麗な女だけがやってればいいの。艦娘ちゃんみたいな、ね。あんたみたいな豚、輜重の最下等の仕事だってもったいない」「ねえねえ、このカタログ燃やさね?ケッコンなんてさせちゃダメだよ」「同意同意。燃やそ」2人がライターを取り出す。 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:08:48
orphe @orphechin

女がカタログに火をつけようとした時、その体がぐらり、と揺れた。男のナイフがその腹に突き刺さっていた。 女は悲鳴を上げることも出来ずに崩れ落ち、その上に男がのしかかりナイフを振るう。 唐突な暴力を前に、片割れは動揺し身が固まる。 そして、マスク姿の彼を目にする。 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:11:35
orphe @orphechin

「ちょっとそこの人!」一瞬提督の被っていたウサギのマスクの異様さに目を疑いつつ、女は彼に叫ぶ。「ねえ、あの子助けないといけないの!協力して!」協力、か。今までぼんやりと三人の争いを眺めていた提督の脳裏に、その単語がリフレインする。 そして言葉が口をつく。 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:12:00
orphe @orphechin

「悪をやっつけてほしいってことか?つまり裁いてほしいと?」 「は?」裁きという言葉に女は驚く。だが友人が刺されたという焦りが、その驚きを脇に押しやる。「そうよ裁いてよ!あのキモオタ殺して!ねえ!」 裁き、か。 「いいだろう」 マイアミ提督は懐から銃を取り出す。 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:13:49
orphe @orphechin

そしてレイジング・ブルで女の腹を撃った。腸が背中を突き破って弾丸の衝撃ごと外に飛び出す。崩れる女の顎を、提督は蹴り上げる。間抜けな音がして、女の顎が砕ける音がした。肩を掴んで持ち上げる。口の奥から、破裂した内臓の逆流する血が吹き出ている。 そこに銃を突き入れ撃つ。 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:16:30
orphe @orphechin

次いで、倒れ伏すもう一人の女にもブルを2発を残して全弾撃ち込む。 男が呆然とした顔で提督を見る。 困惑したような媚びたような嬉しそうな、まぜこぜの顔。 その額のど真ん中を彼は撃ちぬいた。落書きだらけの壁が赤一色に染まる。 そして彼は、最後の一発をカタログに向け撃つ。#マイ鎮特別編

2016-08-06 23:18:56
orphe @orphechin

彼にとってはもう何度も見慣れた光景が広がっていた。血と臓物。人間の死。地面に唾を吐き、提督は空を見上げ、呟く。「お前の見る景色は、ここよりはいい眺めか?」そして元いたホテルに向かい、歩き出す。 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:19:13
orphe @orphechin

<ジョーンズ>が瓶詰めの状態にされて発見されたというのを知ったのは、彼がちょうどラウンジで羽黒と朝食をとっていた頃だった。 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:39:57
orphe @orphechin

「丁寧な仕事ぶりだな」 現場に到着した<ナイジェル>の第一声がそれだった。 <ジョーンズ>は自宅のキッチンで、いくつもの瓶に「仕分け」された状態で発見された。彼の秘書艦である吹雪の遺体は見つからず、現在愛宕の部下が周囲を捜索している。 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:40:27
orphe @orphechin

「確かにお前の言う通り、随分と丁寧な殺しだな」マイアミ提督が大瓶に詰まったアルコール漬けされた頭部を持ち上げ、言う。その目はくり貫かれ、酢漬けにされて別の小瓶に納められている。「手慣れたやり方、って感じか」「あの天狗面の趣味か?そうは思えねえが」 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:40:48
orphe @orphechin

「あの天狗面が現場掃除して帰るタイプだと思う?」<ドン・ファン>、愛宕が言う。「血1つ、毛の一本すら床にもテーブルにも残ってないわ」「そいつはタッパーに詰まってるしな」マイアミ提督が髪を詰めたケースを振る。 「じゃあこれは」「おそらく吹雪ちゃんにやらせたのよ」 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:41:17
orphe @orphechin

「地下室を調べてみたら、同じような瓶が見つかったわ。いずれも女性の体。ご丁寧に日付のラベリング付きのヤツよ。<ジョーンズ>は噂通りの変態だったみたいねえ」「因果応報って奴か」<ナイジェル>が言う。「今までの殺しの共通点だな。憲兵ごっこのつもりか」 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:43:16
orphe @orphechin

「奴は罰を与えるために動いている」提督が言う。 「これは奴にとって裁きなんだろう」 「裁き?誰が俺らを裁けるんだ。皆後ろめたい事はやってるさ。誰も俺たちを裁く権利なんかない」<ナイジェル>が苛立つ。 「権利以前に、艦娘を苦しめた事はない私は無罪ね」愛宕が言う。 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:43:36
orphe @orphechin

「何言ってやがる、最低の女衒が。お前の<ドン・ファン>という名前の理由はそっから来てるのは周知の事実じゃねえか。知ってるぜ、お前が艦娘志願の娘を娼館に売り飛ばしてるのはな。LV99、憧れの重巡洋艦、お前のそんな外面を信じて志願したガキどもをな」 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:44:03
orphe @orphechin

「だってあの子達は艦娘じゃないもの」愛宕は言う。「むしろ私は教育してあげてるのよ。人を簡単に信じると酷い目にあう。彼女達は社会の荒波を知って成長し、私は教育料を頂く。誰も損なんかしてないわ」「それでガキどもが死んでもか。お前の顧客はハードプレイが好きだからな」#マイ鎮特別編

2016-08-06 23:44:40
orphe @orphechin

「いずれにせよ私は私のやっている事を間違ってるとは思わない。私は誰にも裁かれない」皮肉の笑みを顔に貼り付け愛宕は続ける。 「だがあいつはそう思わないかもな」提督が返す。「知らないわ。何様のつもりだっていうのよ」 「神様だろうさ」「馬鹿馬鹿しい」愛宕が吐き捨てる。 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:45:30
orphe @orphechin

「神にどんな資格があって私を裁けるのよ」 「神が、資格だの整合性だのを考慮すると本当に思うのか」提督の言葉に愛宕は舌打ちし、押し黙る。「間違いなく、次に狙われるのはここにいる誰かだ。各々殺されないよう準備でもしておくんだな。俺も羽黒とホテルに戻る」 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:46:36
orphe @orphechin

「ちょっと、天狗探しはどうするのよ」愛宕が言う。 「ほっときゃそのうち来るさ。お前の所にも、俺らの所にも」提督は家を出る。<ナイジェル>も、「俺も一度帰るわ、誰かを探す気分じゃねえ」と残し、提督の後を追った。一人残された愛宕は遺体の詰まった瓶を掴み、床に叩きつけた。#マイ鎮特別編

2016-08-06 23:47:34
orphe @orphechin

「お前、最近おかしくないか。あーいや、その変なマスクは前からだが…」 <ジョーンズ>の家を出た提督に、<ナイジェル>が話しかける。「ああ。元より俺はイカれてると思うが、それがどうかしたか」「以前のお前は、神様がどうとかなんて話さなかったじゃねえか」 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:48:03
orphe @orphechin

「神とか裁きとか、俺たちにとって一番縁遠いもんだろ。毎日好き勝手に殺して奪ってやりたい放題。天狗が何考えてるかなんて、知ったことじゃねえはずだ。そうだろ<グラハム>」「その通り」提督が言う。「奴の考えなど関係ないし、理解も及ばない。奴の裁きの基準など知らない」 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:48:22
orphe @orphechin

「ただ」、と提督は言う。 「奴の力、俺はそれを知りたい。否応無しに他者に清算を強要させ、己の足下に屈服させるあの力。間違いなく、<ジョーンズ>を殺したのは吹雪だし、天狗はあいつにそれを為させた。秘書艦に己の宿命を曲げさせて主人を殺させる力、気にならないか」 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:50:11
orphe @orphechin

艦娘たちが真の意味で提督との縁を立ち切る事は意外に少ない。どれだけ艦娘が主人を嫌い憎んでいようと、結局は艦娘は提督の元に留まり続ける。鎮守府と戦争、それが彼女達の依って立つ基盤だ。提督はその基盤に鎮座し、己の存在を以て彼女達の運命を縛る。提督とは法なのだ。 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:50:37
orphe @orphechin

だからこそ。その本来不可侵の法を破らしめる存在があるとするならば、それは神以外にはありえない。「いかに提督が無法を語ろうとも、俺たちは彼女達の法であり、強制力だ。そうだろ<ナイジェル>」長髪に手を当て、彼は黙る。「心身に刻まれた法を書き換える力を、あの天狗は持つ」 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:51:23
orphe @orphechin

「圧倒的で、魅力的だとは思わないか」 「ふざけるなよ」<ナイジェル>は声を荒げる。「お前はそんな押し付けがましい者に憧れてるってのかよ」 「俺たちはいつも自分の欲求を押し付けてきた。力を持たない連中に、艦娘に。俺らの放埒は誰かにとっての強制さ。それは避けられない」 #マイ鎮特別編

2016-08-06 23:52:01
前へ 1 2 ・・ 5 次へ