マイアミ鎮守府特別編「Bride」 中編

ーこの作品に登場する「彼」は作者の許可を得ており実際違法ではないー マイアミ鎮守府物理書籍版「OverKill」より
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orphe @orphechin

だから殺した。自分が殺されないためにはそうするしかなかった。彼を愛していたかいないかで言えば当然愛していた。初めて現れた重巡洋艦の私に惚れ込み、あれだけ尽くしてくれたのだから。ケッコンの直前まで、彼は従属する側の存在だった。 だから、愛していた。 #マイ鎮特別編

2016-08-07 00:59:54
orphe @orphechin

しかし、自分が従属する側に回るのならば話は別だ。愛は尊く、自由はそれよりなお尊い。私は何よりも自由を愛する。他者を意のままにできる自由が。だから彼を殺し、ここでも支配者として振る舞ってきたのだ。 #マイ鎮特別編

2016-08-07 01:00:12
orphe @orphechin

私こそが法だ。私こそが裁定者だ。お前ではない、天狗。お前は私の自由を奪う。だから殺し-- その時、煙の奥から咆哮が轟く。 獅子吼。地を震わせ大気を歪ませる獣の雄叫び。二名の重巡を覆い隠すヴェールが剥ぎ取られ、両者の間に天狗の巨躯が傲然と立つ。 #マイ鎮特別編

2016-08-07 01:00:40
orphe @orphechin

二名とも、奇襲をしかけられる距離ではない。そして逃げるには、彼に近すぎた。窮地にあって竦むこと無く摩耶は突撃し、拳を繰り出す。その勇敢さはしかし今や無謀。 天狗面は彼女の腕を掴み、関節の逆方向に思い切り捻じ曲げる。 内部の神経が無造作に裂かれていく。 #マイ鎮特別編

2016-08-07 01:02:03
orphe @orphechin

壮絶な痛みが摩耶を襲うが、残りの腕で彼の顔面を殴りつけようとする。その拳は頭突きで粉砕される。 両手がやられた。ならば残りは足。摩耶はそう思い腿に力を入れようとする。だが、足に力が入らない。そして自分の体がバランスを失い、倒れていく事に愕然とした。何だよ、これーー #マイ鎮特別編

2016-08-07 01:02:44
orphe @orphechin

天狗面が肉食獣の唸りを上げ、笑う。その手には、摩耶から切り裂いた右足が握られていた。倒れ伏す摩耶に、天狗面の掌底が入る。猛獣のストンピングに、摩耶の頭蓋が悲鳴を上げる。 #マイ鎮特別編

2016-08-07 01:03:03
orphe @orphechin

「クソ……が……」潰れた両手で、彼の手を掴もうとする。だがそれらは力なく彼の腕を滑り、擦り切れた軍服に新たな血の染みを作るだけだった。獅子が勝利の叫びを上げ、摩耶の頭に爪を突き立てる。軽々と摩耶の頭の上半分がちぎり取られ、脳漿が宙を舞う。 #マイ鎮特別編

2016-08-07 01:03:25
orphe @orphechin

自分の妹が獣に踏みしだかれ、無残に殺されていく。愛宕はそれを見つめていた。 「多摩……多摩よ」天狗面が摩耶の頭髪を指で弄び、嬉しそうに笑う。 その片手は、残った遺骸を無邪気に引き裂いていく。獣が得物を弄ぶ仕草。 「重巡洋艦に勝ったのか、すごいぞ、多摩」 #マイ鎮特別編

2016-08-07 01:05:35
orphe @orphechin

愛宕の絶望は破れかぶれの激昂へと変貌し、天狗面に最後の攻撃を仕掛ける。  「ああ、まだいたんだったな。いやいい多摩、お前が出るまでもない。すぐ終るから」戦艦を砕く愛宕の拳を背中で受けつつ、天狗面は宙で誰かの頭を撫でるような仕草をする。そして彼女に向き直る。 #マイ鎮特別編

2016-08-07 01:06:04
orphe @orphechin

「お前の裁きはすでに決まっている」天狗面の言葉には耳を貸さず、愛宕は攻撃を繰り返す。拳が自らの血で赤く染まり、指が歪んで潰れていく。それでもなお彼女は殴るのを止めない。 #マイ鎮特別編

2016-08-07 01:06:25
orphe @orphechin

「お前がいかに身内を愛そうとも、それはお前の罪とは何の関係もないことだ」彼女は殴り続ける。 そして天狗面の体が痙攣する。 「キュウウウウウウウウウウウ」 痙攣する筋肉の内側より、無数の突起物が隆起していく。 白い標柱めいて。 #マイ鎮特別編

2016-08-07 01:07:44
orphe @orphechin

愛宕はその呻く面に拳を叩きつける。すでに威力は失われていたが、彼女の激昂は収まらない。「ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ」天狗面の唸りが蜷局のように空間を包囲する。 標柱たちは人の長さを越え、建物を越え、業火を突き破り夜闇へと伸びていく。 #マイ鎮特別編

2016-08-07 01:08:52
orphe @orphechin

「ジュウサン……シキ……サンソ……そう、北上。大井。この2人がお前に罰を下す」 白の柱が根本から飛び出し、空へ。柱がストーンヘンジめいて月の円周を周り、 そして愛宕の肩に二本の柱が突き刺さった。 愛宕の腕の力が失われ、ぶらりと垂れ下がる。 #マイ鎮特別編

2016-08-07 01:11:23
orphe @orphechin

「ゼェンぶ……で……よンジゥーーーーーーーモンの……ギョ……らイかん……だよ?キタカみミミみサ、ワたしも……そう、80門の魚雷がお前を裁く」 白の閃光が、天上より愛宕を次々と射抜く。 一つ、一つ。腹、足、首、手、胸、腹。 #マイ鎮特別編

2016-08-07 01:13:18
orphe @orphechin

そして、天狗は愛宕の顎を掴んで持ち上げる。「見るがいい。天を。そして、自分の築き上げてきたものが何もかも焼け落ちていく様を」 愛宕は最早言葉を発する力さえない。 「では仕上げだ。こればかりはお前たちにやらせるわけにはいかん。大井、北上」#マイ鎮特別編

2016-08-07 01:15:19
orphe @orphechin

天狗面が面を上げる。 ずらされた面から、彼の口が見える。その口が大きく開かれ、彼はそこに手をいれる。ずるずると巨大な瓶と、ジッポーが引きずり出されていく。「貴様の罪を浄化する」彼は瓶の蓋を開け、愛宕の体にふりかける。強烈な刺激臭が愛宕の弱りきった五感を打ち据える。 #マイ鎮特別編

2016-08-07 01:15:55
orphe @orphechin

「さらばだ」 天狗面はジッポーの火を付け、彼女に向かって放り投げた。 #マイ鎮特別編

2016-08-07 01:16:16
orphe @orphechin

ペナンの夜が、赤く染まっていく。 (つづく) #マイ鎮特別編

2016-08-07 01:16:35
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