2015年分
「あ、あの……」 その小太りな少年は突然我が家のインターホンを鳴らし、モニタごしに話しはじめた。 「トリックオアトリート……って言ったらお菓子貰えるって聞いたんですが……本当ですか?」 あどけない顔のその少年は少し顔を赤らめながら恥ずかしそうにそう言った。
2015-10-31 23:56:05何かの間違いだろうか。 その子の顔に見覚えはない。 訪ねる家を間違えたのか。 あるいは何かの罰ゲームで友達にやらされているのかもしれない。 窓から外の様子をうかがう。 特に誰かが見張ってるような形跡はない。 ……と、そのとき、良からぬ考えが頭をよぎった。
2015-10-31 23:57:19(ひょっとしてこれはチャンスなのではないか……?) 決断は早かった。 玄関のドアを開け、 「どうぞ、あがって」 と招き入れるまでに数秒もかからなかった。 少年は驚きと戸惑いの色を見せたが、すぐに期待と喜びの表情へと変わった。 そして、扉はオートロックで施錠された。
2015-10-31 23:59:172016年分
「いらっしゃい」 「こ、こんにちは」 少年は礼儀正しく頭を下げた。 「あ、あのお菓子は」 「お菓子は奥の部屋にある」 「ほ、ホントですか!」 感情がすぐ顔に出るところが可愛い。 「だが、そこに行くまではこの家のルールに従ってもらう」
2016-10-31 23:51:05「ルール、ですか」 少し不安げな表情をしながら少年はうなづいた。 「まず、靴を脱いで」 「はい」 「鞄はそこに」 「わかりました」 「洗面所で顔と手を洗って」 「あ、はい」 「上着はここで脱いで」 「あの……」 少年はふと思い出したように話し出した。
2016-10-31 23:53:29「あの、学校で読んだ本で似たような話を思い出したんです」 「ほう、どんな?」 「『注文の多い料理店』という本で、ええと、」 少年は一旦つばを飲み込んで、そして、少し震えた声を出した。 「……ボク、もしかして食べられちゃうんですか?」
2016-10-31 23:56:06「君は……」 「は、はい」 「『トリックオアトリート』の意味を知っているかい?」 「確か『お菓子をくれなきゃイタズラするぞ』って意味でしたよね」 「もし、お菓子なんてないよ、って言ったら君はどんなイタズラをするんだい?」 「えっ」 「……それは特に考えてなかったです」
2016-10-31 23:59:292017年分
「……だが、イタズラしないとは言ってない」 その少年の声色が突然変わった。 「なん……だと……?」 「ククク、そうとも、具体的なイタズラは考えていなかったが、イタズラしないとは言っていない。さあて、どんなイタズラをしてやろうかな?」
2017-10-31 23:54:22その少年の顔はさきほどとはまるで違う、そう、まるで悪魔が乗り移ったかのような邪悪な笑みを浮かべながら、低い声でまくしたてるように言ってきた。 「貴様!何者だ!」 「そんなことはどうでもいい……お菓子をくれるのかそれとも、そうだな……まずは右腕がいいか?」
2017-10-31 23:56:03「なっ、待て待てどういうことだ、そもそもお前誰だ、さっきの(無垢な)少年はどうなった?」 「忘れたのか、今日はハロウィン……死者たちが訪ね来る夏の終わりの節」 目から光が消えた。 「まさか、お菓子を用意していない家があるとは思いもよらなかったが、まあいい、代わりにその腕を」
2017-10-31 23:58:16