1988年の忌野清志郎の反原発と今、そしてこれから　――インディー映画が語る新しいリアリティについて

榎本憲男★『サイケデリック・マウンテン』絶賛発売中！！！ @chimumu

0.今、僕と同世代のロックファンの脳裏に忌野清志郎がよぎっている。清志郎が生きていたらと思わずにいられないのである。そのことについて連投でつぶやきます。

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1.1988年、忌野清志郎のバンドＲＣサクセションは、反戦・反原発というコンセプトでロックの名曲をカバーする「Covers」を録音した。しかし、同アルバムのリリースを東芝ＥＭＩが拒否する。これが発端である。

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2.新聞に載った発売中止を告げる広告では「すばらしすぎて発売できません」と東芝EMIはその理由を濁していたが、ことは単純、東芝ＥＭＩの親会社の東芝が原発の大手メーカーだったからである。

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3.大いに問題になったのは反戦ではなく反原発を歌ったこの二曲だろう。「ラブミーテンダー」と「サマータイムブルース」。http://bit.ly/c9Qi4v

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4.地震の危険性を歌い、「37個も建っている」と歌った原発はいまや55基が運転中で、そのうちのいくつかから今放射能が出て、東電はそれをまったくコントロールできていない状況にある。「日本の原発は安全です」のはずが「さっぱりわかんねえ」わけである。

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5.時代背景を補足すれば、清志郎自身が広瀬隆の「危険な話」から触発されたように、２年前におこったチェルノブイリでの事故の衝撃から当時は反原発がブームだった。朝まで生テレビでも原発問題は取り上げられた（この時の推進者の発言は今思い返すと無残である）。

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6.さて、EMIから出せないとなった本作品を、清志郎は、新生ＲＣでの再スタートとなった「ラプソディ」を出したキティからリリース。結果的に「Covers」は業界の話題をさらい、やや低迷期に入っていると評されていたＲＣは再び浮上する。

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7.さらに発売中止騒ぎがまだ尾を引いている８月13日、日比谷野音でＲＣはライブを行う。開演前から異様な熱気が会場に漂い、コンサートはディランの「アイ・シャル・ビー・リリースト」で幕を開けた。「日はまた昇るだろう、東の芝にも」と清志郎が歌った時、会場からものすごい歓声が上がった。

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8.このライブは「コブラの悩み」と題してなんと「Covers」を発売中止にした東芝から発売された。「意地でも東芝から出してやると強く思っていた」とベイビイズ社長・相澤自由里さんと飲んだ時に聞いた。

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9.しかし、栗本慎一郎、吉本隆明など今までＲＣを支持してきた知的オピニオンリーダーたちはこのアルバムを期にはっきりとネガティブな評価を下し始め、ＲＣサクセションから離反していく。

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10.反原発なんてのは左翼的であり、思想界ではもう既に左翼は過去の遺物のような扱いだったようである。清志郎のメッセージはあまりにも単純すぎるという批判もあった。

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11.また、この時、清志郎を除くＲＣのメンバーはこの露骨に政治的なテーマに対して戸惑ってもいた。この2枚の名盤は元々ギクシャクしていたメンバー間の亀裂を深める契機となったアルバムとなった。実際、ギターの仲井戸麗市は「ロックだって電気を使うから」などとインタビューに答えている。

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12.しかし、清志郎の中ではもう一つの変化が起こっていた。同年10月、長男の竜平が生まれ、清志郎は親としての自分を歌い始める。臆面もなく子供への愛を歌い、竜平をステージにあげた。

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13.実はこのあたりから白けるファンが出始める。しかし、小市民的な生活を大事にすることはロック的じゃない、かっこ悪い、とファンの一部に拒絶されても清志郎は“子育てロック”を捨てなかった。

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14.これ以降、清志郎の中には二つのテーマが共存していくようになる。反体制・自由というロックの伝統に連なりながら、子供たちが健やかに育つようにどこかで市民社会も肯定する。後者の代表曲が「サラリーマン」「パパの歌」だ。そして、前者を先鋭化するために組んだバンドがタイマーズだった。

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15.88年、元々は仲井戸麗市を慕って上京した三宅伸治をギタリストに配して清志郎はタイマーズを結成。89年にリリースした「ザ・タイマーズ」で反体制的なテーマをより強く打ち出す。これは「夜のヒットスタジオ」での電波ジャックの模様だ。http://bit.ly/atYJlA

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16.さて、翌90年、満を持したＲＣサクセションでの最新アルバム「Baby A Go Go」では、レニー・クラヴィッツのミキサーとして有名なヘンリー・ハーシュを招へい。あきらかにRCの他のアルバムとは音作りがまったく違う本作は高い評価を得た。

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17.しかし、アナログレコｰディングでの自分の音作りに徹底的にこだわるヘンリーの態度がＲＣの人間関係を悪化させ、ドラムの新井田耕造、キーボードのＧ２が離脱。仲井戸、リンコ、清志郎の三人になったＲＣは数回のライブの後、事実上解散となる。

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18.その後、清志郎はあえて、キャリアのない若手とともに2.3'sを結成し、かなりポップな路線に舵を切ろうとするが、ここで離れ始めたファンがまた多かった。

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19.その後はリトル・スクリーミングレビュー、ラフィータフィー、HIS、LOVE JETS……等（大杉！）をへて、清志郎は様々な音楽表現を展開するが、最終的に、自身のルーツであるオーティス・レディングを強く意識したバンドNICE MIDDLE を結成する。

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20.このバンドで、前述した二つのテーマをR&B的な懐の深いサウンドで内包する表現スタイルを清志郎は完成しつつあったように僕には思える。その代表曲が「JUMP」だ。http://bit.ly/h5Asfh

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21.そして、2000年頃から本格的に自転車に乗り出した清志郎に芽生え始めていたエコロジカルな思考もこのサウンドに影響を与えていたのではないか、と自転車乗りの僕としては付け加えておきたい。

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22.しかし、清志郎は癌に倒れた。一度、武道館で復活するが、還らぬ人となった。さて、問題は今生きているRCチルドレンの僕達である。「Covers」に興奮し、日比谷野音で「アイ・シャル・ビー・リリースト」に熱狂したあの夏の日は遠くなり、僕はその後、原発に対する関心を失っていた。

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23.まず、忙しいということがあった。世の中にインターネットなんてものも現れ、時間の流れが加速し、忙しさに紛れてこの問題のことを忘れた。「Covers」の興奮を一時のキャンペーンにしてしまったのである。

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24.それに、僕のようなファンでさえもが、この複雑な世の中で清志郎のメッセージはあまりにもシンプルすぎると思えることもあった。清志郎のメッセージと清志郎の音楽を少し分けて受け止めようというファンもいたくらいである。