Affair Story 「また会える日まで」

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そう、思ってたのに。『春』が少し離れた所で止まる。待ってくれているのだろう。だが、鍋を食べる時間までは与えてくれそうにない。くそ、と。顔が下がる。だが、「顔、あげて」

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『冬』の言葉で顔をあげる。そこには、いつもの悪戯なものではない笑顔があって、「ありがとう。私、その気持ちだけで、次の冬まで我慢できるわ」でも、どこか悲しそうに、別れを我慢するような笑顔。次。それはいったい、何ヵ月後になるのだろうか。

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「……強いな、お前」「ええ、私は強いわよ？　何たって、厳しい冬をものともしない存在なんだから」

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しばらく見つめ合い、『冬』が口を開く。「じゃあ、そろそろ行くわ」「ああ、いってらっしゃい」「楽しい冬だったわよ」「俺もだ」「……」「……」

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「またね」「またな」

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『冬』が身体を回し、俺に背を向けて歩いて行く。入れ違うように、俺の横には『春』がやってくる。俺は一度だけそちらに目を向けて、すぐに『冬』の後ろ姿に目を戻す。まっすぐに歩く背中。その肩が、小さく、跳ねた。

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『冬』の手が動き、顔に近付き、何かをぬぐってまた下げられる。分かる。その動作が何の動作か。

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「何が強いだ、バカ」舌打ちし、『春』を置いて俺は早足で前に進む。『冬』の背中が近づく。足音に気付いたのか、『冬』がこちらに振り向こうとする。その前に、俺は『冬』に覆いかぶさるように背中から抱きついた。

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「え、な、何よ！？」「うるせえ。顔見せんな」

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今の『冬』の顔は見たくないし、俺の顔も、見られたくない。だから俺は、後ろから『冬』に抱きついたまま、顔を耳元に寄せる。

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「お前、さっき言ったよな。少しだけしか冬って思えないって」「……ええ」抱いた『冬』の肩が下がるのがわかる。俺はその落ちた肩を上げるように抱く腕に力をこめ、「だったら――」言う。

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「だったら、少しでも寒ければ、俺は冬だって思ってやる。春でも、夏でも、秋でも。季節なんて関係ない。寒けりゃ、冬を感じてやる。連想してやる。だから、お前も、出て来い。少しだけでいい。俺の冬の認識に、お前も応えろ。そして少しでいい。少しでいいから」

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「話を、しよう」

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「挨拶だけでもいい。一言二言だけでもいい。罵倒でも何でもいい。顔をみせろ。お前を感じさせろ。だから……いいか。冬は今日で終わる。でも――」

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「俺達は、いつでも会える」

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『冬』の肩が、胸が、飲みこむ息で上がる。そして手が俺の腕を掴み、「本当に……？　本当に、寒いってだけで、会いたいって、冬だって、思ってくれる？」

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「当たり前だ。お前、俺の妄想力舐めんなよ？」『冬』の嗚咽が声となって聞こえる。俺の腕をつかむ力が増し、抱えるように、縋りついてくる。両手のふさがっている俺は『冬』の後ろ髪に顎を載せ、「今日は、残念だったけどさ」

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「寒くなったら、すぐ鍋だ。今度は絶対に、食いにこいよ」

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「……うん。うん！」

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腕が解かれ、『冬』が振り返る。笑顔だ。それは、さっきの、少し悲しそうなものではない。心からの笑み、楽しそうに、

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「絶対に、食べに行くわ！」