【おなじ題の別な曲】福間健二 #k2fact181
パラッときた。見れば人のいそうな家や小さな赤い実をつけた木など。何もないってことはないけど、そして何を言ってもむだってこともないけど、終点だ。引きかえす電車が出るまでの、三十分ちょっと。屋根のあるところに行く。運転手がいた。澄んだ目の人だ。(おなじ題の別な曲1)#k2fact181
2017-11-18 12:10:34並んですわり、タバコをすい、二人で話した。彼はある土地の名前を言った。ぼくも行ったことがある。ロック・フェスティヴァルの翌日で、首都へ戻るバスがバックパッカーの若者たちで混んで大変だった。ちがう。それは南。おなじ名前の小さな村が北にあるんだ。(おなじ題の別な曲2)#k2fact181
2017-11-19 13:20:58ちょっと通っただけの、それもいまでは夢のなかのことだった気がするような、でも生まれたばかりの子犬みたいに頬ずりしたくなる村だ。おじいちゃんとおばあちゃんたちが日向ぼっこしていて、野原と学校があって、子どもたちと若い女の先生が手を振ってくれた。(おなじ題の別な曲3)#k2fact181
2017-11-20 10:30:40オートバイだった。しばらく行くと何人か近道をして追いかけてきた。まちがった方向に進んでいた。そっちは、行き止まり。ねじ曲がった足でオードバイだった。聞いているぼくの頭のなかでは、人間という悪が存在する世界が子犬に変わってオートバイだった。(おなじ題の別な曲4)#k2fact181
2017-11-22 10:51:45終点で聞いた話。よかったと思う。森のなかを、そしてトウモロコシとビートの畑のあいだを戻りながら、その効果で目と手がちょっと死んでいた。計画変更。このへんの名所、たとえば魔女の洞窟には行かない。人見知りする弟たちをおいてきた部屋が心配だ。(おなじ題の別な曲5)#k2fact181
2017-11-28 08:48:26人見知り。失敗をおそれ、テープで封をしたものがたまった部屋。解説ではそうなるが、そんなにダメだろうか。あの子たち。天気のいい日も雨の日のためのピアノ曲を聴き、こっそり銀色の月の下に出る。ほんとうは人に評価されたい。それはぼくもおなじだ。(おなじ題の別な曲6)#k2fact181
2017-11-29 09:11:23働かないもの、古いカメラや夜の掃除機などと縁を断ち切れないのも。言ってしまえば、ほぼからっぽであることを隠している。類として。この世に子犬のような村があることは知らなかったわけじゃない気がする。戻ってきた目でつくる火事。手では消せない。(おなじ題の別な曲7)#k2fact181
2017-11-30 10:54:04行きと帰りでは好きな曲が変わって、ぼくは景色を読むのをやめるのをやめた。好きだったメランコリー、血の流し方、鳥へのあこがれ。処分のためではなく、人のまばらな、よろこびの広場に立つ。会いたかった石切り工の居所はわからない。わからなくていい。(おなじ題の別な曲8)#k2fact181
2017-12-01 12:41:27古い曲ともっと古い曲。おなじ題でも別な曲。ぼくのあこがれた偉大な歌手がカバーしたのは「もっと古い」方だ。たくさんの人が誤解している。ぼくもそのひとりだった。いらなくなったものの処分。許されるなら、感じるかもしれないところにキスしてから。(おなじ題の別な曲9)#k2fact181
2017-12-03 08:34:24ぼくが電車の運転手とカバーしたのは古い弟たち。もっと古い弟が散らかった部屋を片付けはじめる。青い空気が入ってくる。調子に乗りすぎないように体を洗い、火の始末もして。オートバイ。よろこびの広場から、深夜のあの世を通って、もう終点はない。(おなじ題の別な曲10)#k2fact181
2017-12-04 08:29:41