クリスと響と未来が手帳を買いに行く話
「そんなことで謝るんじゃねーよ。誰のせいでもないだろ」 久々に三人で食べて話して過ごす時間はとても楽しいものだった。だから決してそのせいにはしたくなかった。 26
2017-12-23 14:50:01「(クリス……)」 未来は出かかった言葉を飲み込んだ。自分のことが気恥ずかしくなった。 なぜなら、想像のクリスはこんな風には答えていなかったからだ。 自分が知らないだけで、友人はずっと成長している。 27
2017-12-23 14:52:01「うだうだやってても仕方ねー。もう一個のを買ってみるか。使えばそっちの方が良かったりするかもな」 そうしてクリスは最終候補から外れた方の手帳を買い、三人は再び最初の集合地点へと戻ってきた。 その間クリスは当初の目的を達成できたからと、さほど思い入れも無いよう振舞っていた。 28
2017-12-23 14:54:01響と未来はその後ろ姿が見えなくなってもその場から動けずにいた。 「ああは言ってくれたけど残念そうだったね。せっかく決めたのに」 「うん。それにどうせなら『ありがとう』って聞きたかったな……」 30
2017-12-23 14:58:03クリスの手帳を選ぶと聞いてからの未来の熱の入りようは、響の目から見ても明らかだった。 なんとなく理由は分かる気がする。だとすれば。 「まだやる気でしょ、未来」 「うん」 31
2017-12-23 15:00:02数日が過ぎ、クリスの誕生日がやってきた。 この日はお祝いのため装者達がクリスの部屋へと集まった。翼とマリアはイギリスからウェブカメラで参加だ。 みんなで食卓を囲み、それからおめでとうの言葉とともに想い想いの贈り物が手渡された。 32
2017-12-28 00:04:02「響、そろそろ」 会も佳境となった頃、未来がそっと促した。 「クリスちゃん。もう一つみんなからの贈り物で、受け取って欲しいものがあるんだ!」 「おいおい、まだ何か準備してあんのか?」 一つ残っていた手提げ袋から包みを差し出した。 「開けてみて」 33
2017-12-28 00:06:01手のひら大の包み。 これだけが直ぐに開けるよう促されたことを不思議に思いながら、とめてあるテープを剥がし広げていった。 そしてクリスがそちらに目を落とすと、周りもまたその様子をじっと静かに見守った。 「うん?」 34
2017-12-28 00:08:01「……ッ!手帳だッ!あの時のッ!」 クリス自身はもうすっかり終わった話だと思っていた。 だがこれには驚きと、それ以上に隠しきれない表情が全員の目にまで届いた。 35
2017-12-28 00:10:01「小日向から話を聞かせてもらった。私も手帳にはこだわっている」 クリスの正面に置いたモニタ越しに翼が切り出した。 「こちらでも取り扱いがないか探したんだ」 「探したんだって、あなた一人じゃなくて私もでしょ。とにかく、今日に間に合って良かったわ」 36
2017-12-28 00:12:01二人ともクリスの反応を見て安堵しているようだった。 なにせあの未来からの折り入っての頼みが届いたのだから、只事ではあるはずがなかった。 37
2017-12-28 00:14:01「翼さんとマリアさんに頑張って見付けてもらいました」 だが一番安心したのは他ならぬ未来だったのではないか。 この日に間に合わせるには、あれからすぐに動かないといけなかった。 38
2017-12-28 00:16:01「あの!クリス先輩が来年卒業してしまうから」 「それでもまた一年、いーっぱい一緒の予定を入れて欲しいデス!」 「お前ら……」 言い逃すまいと、調と切歌がみんなの想いを伝える。 39
2017-12-28 00:18:10「クリスがリディアンの手帳を使っているって聞いたから。負けないくらい気に入って貰えるように頑張ってみたよ」 未来が入れ込んでいたのはクリスの卒業を意識してのことだった。 そして、言葉にこそしないものの、今より疎遠になってしまうことを恐れていたためでもあった。 40
2017-12-28 00:20:01「クリスちゃん、気に入ってくれた?」 クリスは三人で選んだ手帳を大事に手の中に包んだ。それから二人のことをはっきり見ながら、確かに笑って答えた。 「ハハッ。ああ……そうだな。ありがとうな!」 41
2017-12-28 00:22:01「プレゼント大成功ッ!」「やったね響」 「「やった(デース)!」」 その時のクリスの表情は言葉以上で、響は未来とクリス二人の手を取って大喜び。切歌は調にハイタッチし、モニタの向こうの翼とマリアも落ち着いてはいるがにこやかに喜んでいた。 42
2017-12-28 00:24:04それから少しして会はお開きとなり、みんなで一緒に片付けを済ませ、それぞれの生活へと戻っていった。 賑やかだった部屋がまた少し広く感じられた頃、クリスはソファーへ腰掛けて一人くつろいだ。そこで改めて手帳を手に取った。 43
2017-12-28 00:26:01「まったく、こんな物まで貰っちまうとはな……」 二冊あっても持て余してしまうが、こればっかりはやむを得ない。 うまくやれていたつもりが、結局あの二人にはお見通しだった。 44
2017-12-28 00:28:01「やっぱりこっちの方が……」 カバーをめくり、1月1日から始まる空白のスケジュールを眺める。さらに数枚をめくり、見込んだ通り満足できそうだと感じたその時。 「2月、16日……」 さらにページをめくった。 4月13日、5月25日、8月7日、9月13日、11月7日。 45
2017-12-28 00:30:02それらが何の日であるかは明らかだった。 今日の会に参加した面々の誕生日だ。そのどれもが色とりどりのペンで自分の誕生日であることを記している。 そして最後に一年後の12月28日。 その日は全員からクリスへ宛てたメッセージが書かれ、前後の日にまで溢れかえっていた。46
2017-12-28 00:32:01クリスは手帳を閉じた。 それから背もたれに頭を預け、熱くなった目を閉じた。 「…………」 この先どうなるかは誰にもわからない。 ただ、真っ白なこれからの日々は、この手の中の一冊が仲間達によって特別なものになったように、色とりどりに変えていけるはずだ。 47
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