ライフ・アフター・デス #6
「仲間!そうです」コトブキはにっこりした。「わたし達、冒険の旅の途中でした。でも、はぐれてしまったのです。ナスカで」「ナスカ?」ゾーイは顔をしかめた。「まあいいか。で、ここまで来たワケだ」「はい。かなり大変な旅でした。あの、ニンジャスレイヤー=サンは元気でしたか」「ウーン……」23
2018-01-27 18:32:26ゾーイはコトブキが信頼できる相手なのか、測ろうとした。コトブキはまっすぐにゾーイを見る。ゾーイは落ち着かなくなり、目をそらした。だが、会話はそこで中断せざるを得なかった。「GRRRR!」電子咆哮が頭上を飛び越え、鋼の犬が空き地に着地したのだ!「いけない!」コトブキはゾーイを庇った。24
2018-01-27 18:38:34「GRRRR!」地を蹴り、襲い掛かったサイバネ犬の横面をコトブキは掌打で殴りつけた。「ハイヤーッ!」「ギャオオン!」サイバネ犬は跳ね、用心深く身を沈めた。コトブキはクルクルと回転しながら身を沈め、カンフーの構えを取った。ゾーイは息を呑んで見つめていたが、成すべきことを思い出した。 25
2018-01-27 18:41:23「GRRRRR!」サイバネ犬が再び襲いかかる!コトブキは食らいつく犬顎に腕を挿し込み、噛みつきを封じた。そして押さえつけようとした。「GRRRR!」「ンアーッ!」うまくいかない!サイバネ犬はニンジャ犬めいて強靭である。下が上になる!「ゴアアア!」襲いかかる犬!BLAM!ゾーイは銃を撃った!26
2018-01-27 18:45:22「ンアーッ!」ゾーイは反動で後ろに転倒した。作り出した銃が彼女には強すぎた。しかしサイバネ犬の注意が一瞬逸れた隙を突いて、コトブキは犬を蹴り上げ、投げ出された大口径銃を掴み取った。「GRRRR!」コトブキは銃を向け、撃った。BLAM!「ギャオオオン!」命中!頭部破砕!ナムアミダブツ! 27
2018-01-27 18:47:43「大丈夫ですか!」「ハアーッ!ハアーッ!ハアーッ!」コトブキはゾーイを抱きしめ、落ち着かせた。「この銃は……!」「つ……作ったの。飴もそう」「作った?」「そう。アタシは作れる。だから過冬に狙われてる。奴らが追ってくるのは、アタシのせい」 28
2018-01-27 18:50:40「つまり超自然的な……強い力なのですね」コトブキは納得した。ゾーイは意を決して、事の詳細の最低限を語って聞かせた。グレイハーミットのこと。過冬のこと。ニンジャスレイヤーのことを。話しながら、ゾーイの言葉はおぼつかなくなり、涙が浮かんできた。 29
2018-01-27 18:54:13シルバーキーはあの灰色の岸に半コトダマ空間とでもいうべき領域を作り、その存在を維持している。それには本来、シルバーキー自身の力に加え、ゾーイの助けが必要だ。彼が物理傷を受けてそのまま死んでしまうとは考えたくない。しかしゾーイが帰らねば、シルバーキーはどうなるだろう? 30
2018-01-27 18:57:51「アイツ……居なくなる……アタシが帰らないと……!」「大丈夫です。絶対大丈夫」コトブキは優しく言った。「ニンジャスレイヤー=サンがあなたを助けに来たわけですから、大丈夫。ニンジャスレイヤー=サンはカラテが強いですよ。それに、わたしも居ます。あと、タキ=サンも助けてくれます」 31
2018-01-27 19:03:33「タキ?」「ネオサイタマに居るハッカーで、いつも頑張ってくれますから」「ハッカー……」「そう、ハッカーで、情報やです」コトブキはにっこり笑った。ゾーイの目の涙を指で払った。「千人力ですよ」「そうか……」「そうです」コトブキは頷いた。 32
2018-01-27 19:07:05「タキ=サンと通信を確立しましょう。そうすればニンジャスレイヤー=サンと再び合流できます。作戦会議しましょう。安心して」「ンン……わかった」「どうしました?」「親切だから」「いいんですよ。嬉しいんです」コトブキは言った。「わたし、お姉さんですね」 33
2018-01-27 19:13:20……「モシモシ!モシモシ!」ザリザリザリ……『オイ、どうなった!』IRCコールに応えたタキの不明瞭な音声にコトブキは集中した。二人は危険を冒してストリートのUNIXボックスに入り込んでいた。「ニンジャスレイヤー=サンを発見しましたが、一回はぐれました!」 34
2018-01-27 19:17:39『何やってやがる!』「合流地点を伝えるので、連絡を取ってください」『仕方ねえな。おおごとになってねえだろうな?』「過冬に追われています」『そうか』「シトカのロシアンヤクザ集団です」『そうか。ワカル。クソのクソ百乗、ワカル。ご機嫌だ』「よくない言葉です」『クソッたれ』35
2018-01-27 19:20:15KA-BOOOOM!少し離れた場所で爆発音が聞こえた。「何かが起こっています」『何か?そりゃ起こってるんだろうよ。協力者ってのはどうなった』「彼は実際はニンジャスレイヤー=サンを狙っていました。だいぶよくない事になっていますが、きっと大丈夫です」『もういい。とにかく合流地点を共有する』36
2018-01-27 19:28:31「クン……クン!クン!」獰猛なサイバネ犬三匹目が、路上の微かな血痕と焦げた匂いを嗅ぎわけ、ニンジャ達を先導する。「いいぞ」ブルハウンドは厳かに言った。ヤクザでありながら、そのしぐさは己の仕事に誇りをもつマイスターじみた厳粛さであった。「ニンジャスレイヤーの逃走経路をとらえた」 38
2018-01-27 19:33:30「いいぞ。追跡する」ゼレズニーイが言った。「そこにあのガキも必ず合流する」「然りだ」スターファイアが頷いた。「傷はどうだ?あの気味悪いジツでどれだけ治した」「……」スーサイドが肩をすくめると、スターファイアは鼻を鳴らした。「せいぜい役に立つ事だぜ。スーサイド=サン」 39
2018-01-27 19:37:24「役に立つ……ハッ」何が面白いのか、スーサイドは微かに笑った。スターファイアは舌打ちした。四人のニンジャと十名ほどのクローンヤクザはしめやかにウシミツ・アワーのシトカ市街を進んだ。「……」ブルハウンドは分岐路で沈思黙考した。「ここで二手に分かれる。近いぞ。挟撃すべきだ」 40
2018-01-27 19:40:04「戦力を二分か」ゼレズニーイは思考を巡らす。「どうした。何かビビッてるか」スーサイドは尋ねた。「俺は構わんぜ。ビビっちゃいねえ」「盃も交していないハンパ者が……」スターファイアが顔を近づけ、睨んだ。「お前の働きは、ようく報告するぞ」「ああ、よろしくな」 41
2018-01-27 19:44:34「では、俺とゼレズニーイ=サンはこちらだ」ブルハウンドは右を指さした。サイバネ犬がジャンプし、カートリッジ状になって胸に嵌め込まれた。スーサイドはブルハウンドをじっと見た。そして言った。「なら、俺がスターファイア=サンと左だな。クローンヤクザは適当にわけてくれ」 42
2018-01-27 19:46:23「スッゾ!」「スッゾ!」クローンヤクザ五名が小走りで整列し、スターファイアとスーサイドの後ろについた。「仕留めるぞ」ブルハウンドが言った。「どうした」ゼレズニーイがブルハウンドに尋ねた。ブルハウンドは首を振った。「スシだけでは治りきらない。イクサは頼む」「ハナからそのつもりだ」43
2018-01-27 19:49:14スーサイドはブルハウンドらと別れ、路地に入ってゆく。ネオン・ランタンがバチバチと火花を散らし、凍った水溜まりに落ちる。「奴の様子がおかしかったな」歩きながら、スターファイアがスーサイドに話を振った。「ブリーフィングの後でブルハウンド=サンと何を話していた、お前」 44
2018-01-27 19:52:45「……ああ。話か。話ね」スーサイドは答えた。「そりゃお前……ニンジャスレイヤーと交戦した際の情報のすり合わせだ。おかげでお前らによく伝えられたろ」「奴の様子が……おかしかったな」「へッ……俺はジツの力もあるが、あいつ案外、歩くのもやっとなんじゃねえか」「脂汗を流していたぞ」 45
2018-01-27 19:55:16「重傷かもな」「……」スターファイアは立ち止まった。スーサイドは首を傾げた。「どうした」「日頃から過冬のニンジャを嗅ぎまわっているという点で、お前はブルハウンドのクソ犬以下の卑しさだよな」「そりゃどうも」スーサイドは肩をすくめた。「自衛しなきゃならんからな」「……」 46
2018-01-27 19:58:10スターファイアの敵意が膨れ上がっていく。「奴に何を言い含めた」「何が?」「トボケ続けるか?」スターファイアが凄んだ。「脅したな。……奴を」何らかのアトモスフィアを察し、クローンヤクザ達が懐に手を入れた。スーサイドは歩きながら答えた。「奴はソーニャっていうオイランにお熱でよ」 47
2018-01-27 20:00:21