路線図をはじめ交通関係全般を得意とする図版制作者です。自分なりの作図論を語ってみたり、お仕事紹介、交通・旅行関連の話題を中心にツイートします。 ※個人アカウントは非公開リストでフォローさせていただいております。 ※「展望タワーめぐり」のアカウント(@TOWER_FANTASIA)もあります。
公共サイン・インフォメーション系のグラフィックデザインに携わる人なら「カラーユニバーサルデザイン(CUD)」というものを知っておく必要があります。ごく大ざっぱに言うと、色覚にハンディキャップのある人にも容易に識別できることを考慮してデザインしましょうということです。
2018-01-28 18:26:03一般的には「赤と青」は明確に識別できる色の組み合わせですが、色覚にハンディのある人にはほぼ同じ色に見えて識別しにくい……ということがあるのです。路線図でも路線や種別を色分けするケースがよくありますが、CUDを考慮しないと一部の人にとっては使いづらいものになってしまいます。
2018-01-28 18:26:12路線を色で識別させる代表例が地下鉄の路線図でしょう。色覚にハンディのある人には東京メトロの公式路線図がどう見えているのか、Photoshopに付属しているCUD疑似変換機能を使って、一例としてP型色覚の見え方をシミュレーションしてみましょう pic.twitter.com/pa7rSpPkFM
2018-01-28 18:26:30ちょっと衝撃的じゃないですか? あのカラフルな路線図がおおむね青・黄土色・グレーで描かれているように見える。もともと黄色系で似通った配色の銀座線と有楽町線はともかく、エメラルドグリーンの南北線とグレーの日比谷線さえ非常に区別がしづらくなっています。
2018-01-28 18:26:39路線図の右下にはラインカラーの凡例が示されていますが、これを路線図と対照しながら判断するのはなかなか難しそうです。
2018-01-28 18:26:47CUDが日本で注目されるようになったのは今世紀に入ってからとわりあい最近のことで、実はいま例に挙げた東京メトロの公式路線図には営団地下鉄時代にはなかったちょっとした“改善点”があります。それが何なのかはこの後の話でふれていくこととします。
2018-01-28 18:26:55NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構では、CUDのポイントとして以下の3項目を挙げています。 a. 出来るだけ多くの人に見分けやすい配色を選ぶ。 b. 色を見分けにくい人にも情報が伝わるようにする。 c. 色の名前を用いたコミュニケーションを可能にする。
2018-01-28 18:27:04「a」に関しては「推奨配色セット」が示されていますが、あまりそれに縛られてしまうとデザイン側の自由な配色を妨げることになりかねないのが悩ましいところ。 それよりも私は「b」を重視すべきだと考えているのですが、具体的にどういうことかは明日以降に続きを語っていきます。
2018-01-28 18:27:19カラーユニバーサルデザイン(CUD)というと、使用する色やその組み合わせに注意を払わなくてはならない、ガイドラインに示された見本色や組み合わせパターンを遵守しなければならない、と考えてしまう人も多いかと思いますが、私はCUDの本質はそういうことではないと思っています。
2018-01-29 18:56:15要は、識別の要素を「色だけに頼らない」ことが大切なのです。 一例を挙げましょう。京王電鉄の公式路線図は特急が赤、準特急がオレンジ、急行が緑……と、列車種別によって色を分けています。なかなか洗練されたいい配色だと思うのですが、凡例を見なければどの色がどの種別なのかがわかりません。 pic.twitter.com/GXomXxlIWo
2018-01-29 18:56:35Photoshopを使って、この図がP型色覚者にはどう見えるかシミュレートしてみるとこんな感じです。特急と快速、急行と各停がほぼ同じ色に見えます。常識的に考えて特急と快速は停車駅が少ないほうが特急だろう、あるいは一番外側に描かれているのが特急だろうと推定できるわけですが、 pic.twitter.com/m3ZenQdU4W
2018-01-29 18:56:58ユーザーにそういう推定をさせないと種別が判断できないような図は案内サインとして不親切だと思うのです。 そもそもこの図は色覚にハンディのない人であっても、どの色がどの種別なのかを知るにはいちいち凡例を見る必要があって、些細なこととはいえ面倒であることには違いない。
2018-01-29 18:57:20じゃあどうするのが理想なのか。交通新聞社「京王電鉄の世界」で私が作った路線図では、列車種別の色分けは公式路線図をそのまま踏襲しつつ、線と種別の文字を近接させるこんな表現をしました。 これならどのラインがどの種別であるのか、凡例を見て色を対照させなくても判断できますよね。 pic.twitter.com/yQdJbZGzip
2018-01-29 18:57:41このような種別表示方法を用いた停車駅案内図は大手私鉄ではほぼ全社で採用しています。残念ながら京王1社だけができていないので引き合いに出した次第(^_^: 次の改訂時に改善されることを期待します。 pic.twitter.com/xsnTxc5uc1
2018-01-29 18:58:18さて、ここで再び東京メトロの路線図に戻ってみましょう。 何線が何色なのかを知るのにいちいち凡例と対照させなければならないとしたら、色覚にハンディのない人にとってすら少なからず面倒なんですから、ハンディのある人には相当不便であろうことは容易に想像できます。
2018-01-29 18:58:36CUDの考え方が普及し、東京メトロの路線図に施された“改善点”とは、路線に沿わせて路線名の文字を入れたことで、どの路線にもほぼ2ヶ所ずつ路線名が表示されています。それによって、凡例を見なくてもその線が何線であるかがわかるようになりました。 pic.twitter.com/ueVQGzWA6b
2018-01-29 18:58:55「凡例を見なくてもわかる」ことは色覚にハンディのあるなしに関わらず「万人にとってわかりやすい案内サイン」の重要な条件のひとつであり、CUDのポイント「b. 色を見分けにくい人にも情報が伝わるようにする。」を実践する上でも有効な考え方だということがご理解いただけるでしょう。
2018-01-29 18:59:10鉄道における案内サインのCUDを考える、の続き。ここからは時刻表に関する話です。 2008年、色覚にハンディを持つ弁護士が「阪急電鉄の駅に掲示されている時刻表の表示が見えにくく、移動の自由の不当な制限にあたる」と京都地方法務局に人権救済を申し立てた一件がありました。
2018-01-30 18:18:57問題とされたのは京都線の時刻表で、同社では特急を赤地、準急を緑地の正方形をベースとして白抜き文字で時刻を表示していました。簡単に再現してみたのがこの画像です(同線の高槻市〜河原町間は日中は特急と準急だけの運行)。色覚にハンディのない人には特急と準急の判別は容易だと思います。 pic.twitter.com/aFrVkKnZNW
2018-01-30 18:19:13ところが、よく知られているように赤と緑は色弱者にとっては特に見分けにくい色なのです。試しにD型色覚者がどう見えているかをシミュレートしてみたのがこちらの画像。確かにこれは見分けるのが非常に困難ですね。 pic.twitter.com/UihNswGYkF
2018-01-30 18:19:28申し立てを受けて同社では改善を約束。現在は特急の時刻に円を書き加えることで識別を図っているようです。 pic.twitter.com/rSFnqaLWv5
2018-01-30 18:19:52識別を色だけに頼らず、形状を変えることで解決しようという試みは東急電鉄で実施されており、ネット上でも色弱者から評価する声が散見されるのですが、それでもやはり凡例を参照しなければ識別ができないという弱点は残ります。 pic.twitter.com/Uti1ULz3N7
2018-01-30 18:20:25理想はやはり文字情報の付加です。西武鉄道では実施していて、私はこちらのほうを支持したいのですが、現実には限られたスペースに多数の列車を掲載しなくてはならないため文字が非常に小さくならざるを得ず、こんどは視力の弱い人々にとって見づらいものになってしまうジレンマが悩ましいところです。 pic.twitter.com/vdYGTSPomi
2018-01-30 18:20:48@Toyoshina_M これ、種別を近接させた例はほとんど英文表記ができていない。わざわざ凡例を別掲したのは英文表記を合わせたかったからではないか。阪神はその点うまく両立させてベストに思えるが、文字サイズが十分かはこの図から何とも言えない。こちらを立てればあちらが立たず。
2018-01-30 18:32:56