- mzyukn_0809
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【さて、こんばんは。お待ちかね『スーサイド・フェニックス』第2回の時間ですよ。実況タグは #SuicidePhoenix でどうぞ。作者が喜びます。始まり始まりー】
2018-02-09 23:00:22(前回のあらすじ:少女は死を求めていた。そして死を選んだ。しかし死に突き放された。それでも死を希った。何度も死を試みた。死はせせら笑った。私は、死を諦めるわけにはいかなかった……)
2018-02-09 23:03:15あれから何度死んだだろう。何度蘇っただろう。死んだ数だけ、灰となって中から息を吹き返した。 蘇る度に、辟易とすることがある。それは、死を重ねれば重ねるほど、死の際の意識は明瞭に、肌は瑞々しく、身体は軽くなるということだった。
2018-02-09 23:05:58意識が瞭然としていれば、それだけ死よりも生が汀優る。前述した通り、意識し、知覚し、思考するということは生存の証明に他ならない。その証明は、幾何学よりも明白で、残酷である。
2018-02-09 23:06:57自らの屍が生んだ灰の山の傍らの物に目を落とす。血と脂に濡れたその小刀は、私の首筋を断ち切り、絶命に至らしめた。だがそれがどうだと一笑する。如何に太い血管を切ろうと、死を押し止めるのではなく、死んでから生を受けるという道筋を辿る以上、死因に意味はないのだろう。
2018-02-09 23:08:08ではどうすれば死から生、生から死という循環を断ち切れるのだろうか。失血死でも、墜死でも、縊死でも、毒死でも、それがまるで必然の因果であるかの如く、燦然たる曙を迎えるかの如く、私は意識の立ち現れるのを知覚せずにはいられなかった。
2018-02-09 23:09:33雲の上の断崖にて、私は小刀の血と脂を拭い懐に仕舞うと、逡巡なく身を投げた。空気の圧が全身に猛威を振るう。自らが落ちる風の音で耳は聾者の様相を為した。鳥のようだ。目を閉じて四肢を広げ、風の思うままに身を任せ――。
2018-02-09 23:10:44暗転の後、再び灰の山から起き上がる。苦労してよじ登った崖を一瞬で下りるというのは、子供が積み木の城を突き崩すような、一種のカタルシスにも似た情動を呼び起こした。そもそもカタルシスなど感じるような状態(=生)を忌避しているので、だからどうだということはないのだが。
2018-02-09 23:12:31(さて、どこでどう死のうか) 身体に付着した遺灰を払い落とし、とりあえず近くの村に向かうことにした。村民に頼めば一宿一飯くらいは問題ないだろうし、見返りとして金品を渡せば後腐れもあるまい。幸い、前回の"小遣い稼ぎ"で懐は潤っている。
2018-02-09 23:15:45そもそも先の断崖に至るまで半日を要したので、近くの村と言っても同じだけの時間がかかると考えていい。それまでは、道中汲んでおいた沢の水や摘んでおいた木の実で凌ぐつもりでいる。
2018-02-09 23:16:20絶食すればやがて餓死に至れると考え、試みたこともあったが、あれはいけない。死ぬまでに時間がかかり過ぎるし、その中途で際限ない苦痛を受け続けなければならない。
2018-02-09 23:17:40その苦痛に耐えかねて暴飲暴食に走ったが、長らく食を受け付けていなかった胃が痙攣を起こし嘔吐、脱水状態に陥りようやく絶命に至った。爾来、餓死は選択肢から除外した。
2018-02-09 23:18:13結局、死ぬ為には生きなければならず、その過程で余計な苦痛は不要だ。死ぬならさっぱりとなるべく時間をかけずに死にたいというのが本懐である。 獣の通った跡を辿りつつ、日が傾くまで歩き続けた。
2018-02-09 23:19:17精神の脆弱な者なら、とうに発狂しているかもしれない。尤も、それは生に縋り付いている場合においてであり、自分の場合には、最早生というのは拘泥すべき問題たりえないため、精神においては破綻した安寧を享受することができる。
2018-02-09 23:21:52枝々の隙間から月明かりが差し込み、足元も覚束なくなってきた。疲労も蓄積してきているし、丁度傍の大木の根元に穴を見つけたので、私は今夜はそこで寝泊まりすることにした。
2018-02-09 23:23:00穴の中は存外、快適な造りをしていた。人一人が横になるには充分な幅と奥行、高さが確保されており、まるで誰かが塒として掘り起こしたかのようだった。ここで一夜を明かして、再び麓の村へ向かおう。そう考えながら目を閉じた。
2018-02-09 23:24:05見間違いかと思い目を凝らすが、いよいよそれははっきりと人の腕であるように思われた。とはいえそれは損傷が激しく、皮膚は血や脂、土に塗れており、指は二本足りない。更に数箇所半円を描くように肉が欠損しており、そこから赤黒い肉と真白な橈骨だか尺骨だかが露出していた。
2018-02-09 23:28:31どうやら異臭というのは、この腕が原因らしいと判断する。しかし自分は人を殺め剰えそれを陵辱するような猟奇趣味は嗜んでおらず、そもそもいつ運び込まれたのかと訝しまざるをえない。新たな判断材料を得る為、注意深く周囲を観察すると、二つの過程によってその腕の存在を証明することができた。
2018-02-09 23:29:51一つは、その腕の出現と引き換えに、代わりにあるべき腕、即ち自身の左腕の肘から先が消失しているということ。そしていみじくも、各断面はよく符合しているように思われた。
2018-02-09 23:30:56