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歌いつかれて異種おねが眠りにつくと、ショタは小鳥達のむくろを埋葬する。 壊れた温室は荒れ果てた印象を与える。きっと天国のおばあさまは不甲斐ない管理人に失望するだろう。
2018-02-13 00:39:23ショタは溜息をついて、部屋に戻る。おばあさまの寝室に暖房を利かせてある。 業者が掃除してあるので清潔。ショタは使用人室に寝泊まりしているから普段は入らない。 「ここにいてね」 眠りから覚めた異種おねは不安げだ。 「温室、なおすから。小鳥は…もどらないけど…新しい小鳥を…連れてくるよ」
2018-02-13 00:40:53それでいいのだろうか。よくないきがする。 けれどもショタにできることは多くない。課題を解きながら、涙がこぼれおちるのでぬぐう。 歌のせいで心の調子がおかしくなっている。
2018-02-13 00:41:37涙は血に近いだろうか。ショタには分からない。 また眠りについた異種おねを見ながら、ただ不安にさいなまれる。手紙を書く。同室の彼からはあまり間を置かず返事が来る。 次の休みに一度そちらに行ってみたいという。ぶっきらぼうなくせに熱心。
2018-02-13 00:43:45へたくそなサンドイッチをかじる。ショタの自炊はひどく単調。 サンドイッチ、サンドイッチ、ただのパン、サンドイッチ、スープにひたしたパン。 異種おねの果物や野菜を少々失敬するので栄養バランスは悪くない。多分。
2018-02-13 00:45:31ショタが使用人部屋で眠っていると、いつの間にか扉を開けて異種おねが入って来る。 開け方を覚えてしまったようだ。小鳥がいないのがさびしいのか、ショタのそばでとぐろをまくようにしてくっつき、寝息を嗅ぐ。
2018-02-13 00:46:31「…んっ…ん?」 顔が近い。 「なんで?え?どうやって入ったの?あれ?」 異種おねは歌う。小鳥の死を忘れたようなほがらかさ。意味は分からないが、ショタも笑う。
2018-02-13 00:47:28「ハモニカ?いいよ?」 吹いてあげる。相手の歌を繰り返すと喜ぶ。最近は演奏も慣れてきた。 「この歌どんな意味があるの?」 小鳥の歌なら意味がある。異種おねの歌にもあるかもしれない。
2018-02-13 00:48:28異種おねは謎めいた笑みを浮かべる。人間のまねをしたのだろうか。 「君が故郷の山で、本当の仲間といっしょに暮らせたらいいのにね」 肉を与えればもしかしたら。でも獣医はだめだという。
2018-02-13 00:49:19温室の工事は突貫で進み、騒音は異種おねをうんざりさせる。屋敷の反対の端の書斎にひっこんで、本をひっくり返しながら怒るのを ショタは手をつかねて見守る。 「君のおうち、直してるんだよ」 せめてもの慰めにとハモニカを吹く。
2018-02-13 00:50:35異種おねは喜ぶ。巻き付いて来る。 「!??」 同じ歌を顔の傍で吟じながら、爪でシャツをかきむしる。 「いたいよ…あっ血…だめ」 もぎはなす。
2018-02-13 00:51:30「おばあさまと同じ症状ですね…あれにひっかかれましたか」 「…うん」 「気をつけてくださいね…毒などないはずですが…ときどき…何かをします。人間に」 「何か?」 「おばあさまは耐えきれなかった」
2018-02-13 00:52:53手紙が届いている。何通か。返事が出せなくて悪かったと書く。すこし風邪だったと。 これでまた背が伸びるのが遅れたら嫌だなと冗談で添える。
2018-02-13 00:55:27温室ができる。すばやい。 「前の奥方様が、温室のガラスがわれたときに備えて、予備をあらかじめ注文しておいたんでさ」 「よかった…」 「これでお嬢さんものびのび暮らせますよまた」
2018-02-13 00:56:27小鳥を注文しなくてはと思う。でもそれは気が重い。とらわれのものを増やすことだから。 ショタはぼんやり温室を見て回りながら、なにかきらめくものを見つけて拾う。ガラスのかけら。 「きれいに掃除したと思ったのに」 また管理人失格。指を切る。
2018-02-13 00:57:29血が出る。いきなり異種おねがとびついてくる。舐める。 「だめだ!」 でももう遅い。相手は何度も味わううようにして、また謎めいた笑みを浮かべる。
2018-02-13 00:58:14電話で女獣医を呼ぼうとするが、むこうはしばらく出かけているという。海の向こうの学会に出席するのだとか。 しかたなく電報を打つ。手紙も書く。ほかに何ができるだろう。
2018-02-13 00:59:33ショタは眠りにつく。使用人室には鍵がかからない。おばあさまの寝室に泊まる。 すこし後ろめたい。広すぎ、柔らかすぎる寝台には異種おねの残り香ある気がする。 まどろみの中で歌を聴く。
2018-02-13 01:00:34